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体をゆるめ健康になる ゆる体操

「手首スリプラ」、「脳幹モゾ」。笑いを誘うような名のついた、様々な運動からなる「ゆる体操」。ほとんど日常の動作に近い簡単な体操で、体をゆるめ、健康を増進するという。NPO法人日本ゆる協会の佐澤亨事務局長にお聞きした。

道具・施設・広いスペースを使わない

―「ゆる体操」はどのような体操と言ったらよいですか。

佐澤 「ゆる体操」は、健康づくりと能力開発の2つが同時に達成できるよう考えられた体操です。特色としては、簡単であること、面白く笑いながらできること、それから体操用の特別な道具・施設・広いスペースを使わなくてもできること、です。椅子を使うことがありますが、椅子は体操用の器具ではありません。

―やり方は。

佐澤 立ってやるもの、寝転がってやるもの、椅子を使ってやるものがあります。

―体操の内容は。

佐澤 筋肉、内臓など身体の部位をゆるめる体操が主です。体の組織が硬くなってしまっていることが、健康を損ねたり、病気の元になっているという考え方に立っています。また、体が硬くなると老化を早めることもあります。硬くなる、こわばる、冷えている、そういった原因をゆるめることで根本から解消して、健康を取り戻そうということです。

腰をゆする腰モゾ

―基本形は。

佐澤 全身くまなくやりますが、体操ごとに特にここに着目したパーツ体操があります。たとえば手首をプラプラする体操は、手首をゆるめましょうと。あるいは、寝転がって、モゾモゾと言いながら腰をゆする体操(腰モゾ)がありますが、これは腰が着目されている。全体で見れば、全身くまなく、各部位を徹底してゆるめると同時に全体をやると全部がゆるむようになっています。―ゆるめるだけで、ストレッチや筋肉をつける要素はないのですか。

佐澤 ゆるめることが主眼になっていますが、非常にやさしい形で、たとえば筋トレの要素、ストレッチの要素、呼吸法の要素も入っています。特徴的なのは、無理をしないように作られていることです。筋トレもストレッチも無理やり伸ばすとか頑張るとかしないようにしています。しんどいと続かないし、危険性の問題もあります。―全身で150種類あるそうですが、どれくらいやればよいのですか。

佐澤 目安はありますが、ルールとして厳しくはないです。教室は45分、1時間、長ければ1時間半のクラスもありますが、その中で150はできないので、1つに5分かけると1時間だと10個強ですよね。それぐらいのやり方です。標準としてどの体操を何分しなさいとうるさく言わないスタイルなんです。

仕事、勉強、家事の能力アップ

―能力開発の効果があるということですが、特定の能力が身につくのですか。

佐澤 能力開発とは、仕事の種類を問わず、また学生なら勉強とか主婦なら家事などが、努力感なく、より短時間に、より上手にできるようになることです。スポーツをやっている人ならそのパフォーマンスを上げる役にも立ちますし。特定の能力ではなく、全方位的にどんなことにも役立つ本質的な能力が高まる、ということです。 通常、健康法と言うと、健康と不健康の境目くらいの人、あるは病気に差し掛かっている人を健康に戻すわけです。能力開発は、今現在健康な人が今よりもっと能力上げたいということです。「ゆる体操」はそれら両方の効果を同じ体操で獲得することを目的に作られているわけです。

―健康回復というと特にどのような病気に有効と言えますか。

佐澤 特にこれがということではなく、体が硬いことがいろいろな病気の元になっているということです。たとえば、痛みなら腰痛とか肩凝りとか、内臓系なら慢性疲労、胃腸の不調、循環器の不調など、いろいろなものに効果があります。―能力開発の関係で、運動選手で効果が出た例があるそうですね。

佐澤 スポーツで、鹿児島にある鹿屋体育大学の女子のバスケットボール部の監督が相談に来られて、部活の練習時間のかなりを「ゆる体操」にして能力を上げ、全国優勝(2005年)をしています。他では、岡山県の関西高校のボート部が、やはり「ゆる体操」を中心にした「ゆるトレーニング」にしっかり取り組み、国体を6連覇しています。

高岡英夫氏が創始

高岡英夫氏

―「ゆる体操」の創始者は。

佐澤 高岡英夫(運動科学総合研究所所長、NPO日本ゆる協会理事長)です。

―どういう方。

佐澤 東京大学大学院博士課程でスポーツ科学を専攻した後、大学で教鞭をとる道を選ばずに、自ら運動科学研究所を設立して運動に関する研究をしてきました。

―「ゆる体操」はいつできたのですか。

佐澤 現在の形にまとめられたのは2002年です。体がゆるんでいるかどうかが肝になるという考え自体は相当前からあり、80年代くらいからいろいろなスポーツ選手などを指導する中で「ゆる」という方法を教えて効果を上げていました。「ゆる体操」が世に出たきっかけは、三重県の事業で地域住民を健康にしようと計画があり、そこに関わっていたお医者さんがうちに相談に来られたことです。誰でも簡単にできて健康度をあげられる方法はないかと。それを機会として、高岡は以前から研究開発を続けていた一般大衆向けの100種類以上の体操法を「ゆる体操」としてまとめ上げ、公開しました。そこから教材をそろえ、指導員の資格を設け、普及活動を始めたのです。

運動科学総合研究所とNPOゆる協会

―「ゆる体操」の組織は。

佐澤 運動科学総合研究所は、「ゆる体操」を含め高岡が開発した各種トレーニング法の講習会を一般向けに行っている会社。「ゆる体操」以外に、もっと専門的な、たとえば体の軸を作るトレーニング法とか、身体能力のトレーニングなど、有料で講習会を開いています。ゆる体操を広めて、社会に役立ててもらおうと公益目的で設立したのが、「NPO日本ゆる協会」で、指導員を派遣したり、指導員の資格認定などを行っています。
―指導員は何名おられるのですか。

佐澤 今までに養成した指導員は1,300名以上、その内協会に登録活動しているのは324名です(2018年9月現在)。

―教室は。

佐澤 カルチャースクールと自営がありますが、厳しい管理をしないので、届け出のないものも数多くあります。リストに掲載されているのは120ほどです。

―会員というか受講生の数は。

佐澤 集計していませんが、数万人いるでしょうね。

―覚えるには、どのくらいかかりますか。

佐澤 寝転がっていくつかやるならその場ですぐ覚えらえます。

―受講料金は。

佐澤 本部は月3回で月謝4500円と6000円です。カルチャースクール、自営はそれぞれで設定しています。

高齢者施設では座った状態の体操だけも

―高齢者施設などの体操によさそうですね。

佐澤 以前から、多くご依頼をいただいています。そういう場ですと、最初から、立つ姿勢の体操はできないので座った状態の体操だけでと頼まれることもあります。

―これだけの規模で展開されている体操はあまりないでしょうね。

佐澤 やはり、2000年頃から健康法、体操法が特に注目されています。テレビ番組でも多く取り上げられる。その中で「ゆる体操」は、楽でがんばらないのに効果が高い。また「ゆる体操」の生徒さんは、たとえば他にスポーツやダンス・ヨガをやっているという方も多い。「ゆる体操」はいいが他はよくないとか我々は考えていません。「ゆる体操」は社会のインフラという考えに立っているからです。「ゆる体操」で体を柔らかくするとスポーツもヨガもうまくなりますしね。

老化がすすまない

―佐澤さんはどうして「ゆる体操」を。

手首スリプラをする佐澤さん

佐澤 高岡がなぜ体をゆるめることが大事と考えたかと言うと、彼は武術家なんです。武術の本当の極意は体をやわらかく使うということがわかっていた。私も武術が好きだったので、高岡の本を読んでこれは面白いと思い、入社しました。高岡の武術の経験から生まれた「ゆる体操」は勉強すると奥が深いものです。―「ゆる体操」を実践して何か変化がありましたか。

佐澤 心身ともにとても健康になりましたね。私48歳なんですが、老化が進まないです。同窓会とかで同年齢の友達と久しぶりに会うと皆さん年をとっているのでビックリします。自分は年をとらない感じがします。

(取材2018年10月)

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