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神様からの贈り物 がんを予防する緑茶 菅沼雅美 埼玉大学教授

お茶は健康に良い。それもがんの予防に効果がある。長年がんの予防について研究に従事した菅沼雅美埼玉大学大学院教授・薬学博士は、このほど日高市の高麗神社で「《お茶の健康科学》神様からの贈り物~緑茶~」と題して講演、緑茶を1日10杯飲むことにより、がんの発症を遅らせ、がんに罹患した人は緑茶と抗がん剤の併用によって、再発、2次原発がん、転移を予防することができる、と語りました。緑茶は、「神様からのミラクルな贈り物」だという。

以下は、2019年8月4日、日高市の高麗神社にて高麗郡建郡1300年記念事業として開かれた第4回高麗郡偉人伝「狭山茶と製茶機械発明家高林謙三展」における講演会(「《お茶の健康科学》神様からの贈り物~緑茶~」講師:菅沼雅美埼玉大学大学院教授・薬学博士)と、その後の菅沼教授と高麗文康高麗神社宮司とのトークセッションの内容をまとめたものです。

菅沼教授

菅沼教授

お茶のミラクルな効果

東京理科大学薬学部を卒業した私は、東京築地にある国立がんセンター研究所に勤務しました。その頃から30数年にわたり緑茶によるがん予防の研究を続けています。いろいろ新しいことが分かってくるたびに、緑茶のミラクルな効果に驚かされ、お茶は私たちの健康のために神様から贈られたものだとつくづく思います。

3人に1人、あるいは2人に1人の割合でがんになるといわれていますが、年齢階級別にがん死亡率を見ると、男性・女性とも、加齢にともなって、すべての種類のがん死亡率が高くなっているように、がんは年をとると増加します。がんと診断される20年から30年も前に、がんの芽は既に体の中にできていて、それが月日を重ね、徐々に大きくなるのです。

がんは私たちの体の中にできる1個のがん細胞の芽から生じます。病院でがんと診断されるのは1㎝の大きさで、10億個の細胞から成ります。正常な細胞が少し異常になり、次に良性の腫瘍の段階、大腸ではポリープと呼ばれますが、さらにがんに近いものへと段階的に悪くなっていきます。そして最後にがん腫となります。その過程ではがん遺伝子(アクセル)とがん抑制遺伝子(ブレーキ)に異常が生じ、アクセルを強くふかしたり、ブレーキを効きにくくしたりすることが、遺伝子のレベルで起きています。ただ、遺伝子の異常が生じても、すぐがんになるわけではなく、遺伝子の異常が積み重なるのに20年から30年を要します。遺伝子異常が生じないようにするとか、がんの進行をゆっくりさせたり、あるいは、発がんを途中で止めることができれば、がんの予防は可能であるということになります。

がんの増殖を抑え、がんを予防する

がんの原因は私たちの体の中に生じたがん細胞1個に始まります。したがって、非常に初期のがんを見つけることは極めて難しいのです。そこで、がん細胞の増殖(大きくなること)を抑えて、臨床的な症状を伴った大きながん腫ではなく、小さい良性のおとなしいがんとして、体の中に共存させる、そういう考え方ががんの予防です。がんが予防できますと、がんと診断される罹患年齢は遅れます。インフルエンザの予防はインフルエンザにかからないようにすることですが、それに対し、元々体の中にある細胞から発症するがんを抑えるのはなかなか難しく、がんの予防は臨床的ながん腫にならないようにするという考え方です。

がんの危険因子としては、胃がんにはピロリ菌があり、ピロリ菌を持っている方は胃炎とか胃潰瘍とか十二指腸潰瘍に罹患し、それを繰り返しているうちに胃の細胞に遺伝子異常が生じます。がんの危険因子として最も良く知られているのはタバコです。タバコには、遺伝子に異常を起こさせる発がん物質がたくさん含まれています。

がんの化学予防と予防薬

 がんの予防にはどのような方法があるのでしょうか。

第1は、ピロリ菌の除菌とか禁煙、日焼け止めなどにより、がんの原因を防いで、遺伝子の異常を起こさないようにすることです。

 第2は、がんの2次予防で、がんの検診をし、早期発見、早期治療をする。早い時期にがんを発見すると治癒率が高くなります。

 第3に化学予防です。お薬(予防薬)を飲んでがんを積極的に予防しようという方法で、緑茶によるがんの予防も化学予防に含まれます。

 がんの予防薬は日本にはありませんが、アメリカにはあります。元々がんの化学予防という考え方も、アメリカNIHのMichael Sporn先生が提唱されたものです。Sporn先生は化合物を投与することで、がんの増殖、再発を阻止、予防することと定義しました。

 アメリカではがんの予防薬が認可されており、タモキシフェンは乳がん、セレコキシブは家族性大腸腺腫症の予防薬です。残念なことにタモキシフェンは逆に子宮がんを増やしたり、セレコキシブは心筋梗塞を起こす等の副作用がありますので、がんの危険性が非常に高い患者さんに対してのみ予防薬の投与は認められています。副作用がないがんの予防薬は見つかっていません。そのため、副作用が無い緑茶が世界中で注目されるのです。

カテキンの一種エピガロカテキンガーレート(EGCG)

 緑茶の研究はどのように始まったのでしょうか。1983年、がんの化学予防という考え方が日本に伝わり、厚生省は初めて「がんの化学予防」の研究班を組織しました。私の上司(藤木博太部長)は国立がんセンター研究所で、この研究班のまとめ役をしておりましたので、日本オリジナルながん予防薬として緑茶の研究を始めました。1984年に、岡山大学薬学部の奥田拓男教授は生薬などに含まれる30種のポリフェノールを実験に供与してくださり、その中にたまたま緑茶カテキンEGCGが含まれていました。

 最近はカテキンという言葉をよく聞きますが、カテキンとポリフェノールは同じ仲間の化合物です。フェノールとは亀の子(ベンゼン環)に1個のOHが付いたもので、OHがたくさん付くとポリと呼びます。お茶の中には、エピガロカテキンガーレート(EGCG)などいくつかの種類のカテキンが含まれています。

緑茶のカテキンはワインのポリフェノールの1000倍も含む

 緑茶も紅茶も茶葉はカメリア シネンシスという植物です。緑茶は茶摘みの後にすぐに蒸しますので発酵しておりませんが、紅茶は高発酵茶です。カテキンは生の茶葉にたくさん含まれていますので、発酵が少ない緑茶はカテキンを多く含みます。したがって、緑茶はカテキンを少ししか含まない紅茶よりもがん予防効果を強く示しました。

 いろいろな臓器のがんに対する緑茶カテキンの予防効果は、動物実験から明らかになりました。食道、胃、十二指腸、大腸などの消化管のがんと、カテキンが直接触れない臓器である、肝臓、肺、膵臓、前立腺、乳腺、皮膚などのがんも予防できました。

 食品の中にはがんを予防をするものがいろいろあります。よく言われるのがトマトのリコピンです。 トマト1個には7mgのリコピンが、緑茶の一杯には100 mgのカテキンが含まれています。ワインのポリフェノールはお茶のカテキンの1000分の1ですから、緑茶は十分な量のがん予防物質を含んでいるのです。

埼玉県立がんセンター研究所による疫学調査

 1993年、国立がんセンター研究所の私たちのがん予防研究部が、そっくりそのまま全員一緒に埼玉県立がんセンター研究所に異動しました。私たちは埼玉県立がんセンター研究所に在籍していた中地敬先生、今井一枝先生と出会い、次の新しい一歩を踏み出すことになりました。それは埼玉県の産物、狭山茶がもたらした研究成果でした。

中地先生、今井先生は私たちに出会う十年前から埼玉県民の疫学調査を始めておられました。お茶の飲用杯数を含め、どういう生活習慣ががんを促進するか、あるいは、がんを予防するかという研究です(中地・今井1997)。がんと診断された患者さんの罹患年齢を、緑茶の飲用杯数で分けてみると、1日3杯以下の緑茶を飲用する女性は67.0歳、10杯以上の方は74.3歳で、10杯以上飲用すると7.3歳発がんが遅れることを初めて見出しました。男性では3.2歳でした。がんが予防できたことはがん罹患の年齢が遅れることですから、緑茶がヒトのがんを予防することを証明した世界で最初の研究成果です。

お茶にはいろいろな種類があります。煎茶は総カテキン量が13.6%、ウーロン茶は半発酵茶ですから7.6%と半分、ほうじ茶は3%。茎にはカテキンはありません。

1日10杯の緑茶を飲めばがんの予防になる

 がんを予防するには何杯のお茶を飲めばよいのか。疫学調査の結果から、私たちは1日10杯をがん予防有効量と決めました。では、多くの人が簡単に1日10杯を摂取できるようにする方法を、埼玉県茶業試験場(現・埼玉県茶業研究所)の方々と話し合いました。今二番茶はあまり使われていないので、二番茶で緑茶エキスの錠剤を作ろうという話になり、G.T.Eと呼ぶ緑茶エキス粒を開発しました。その錠剤をボランティアの方々に試飲していただいて安全性を確認した後、私たちは1日10杯の緑茶を飲めばがんの予防につながるという埼玉方式を決めました。たとえば、日常の緑茶の飲用で1日4杯飲む人は、不足の6杯分を緑茶エキス粒で補い、10杯分にする方式です。

 私たちは、埼玉県で狭山茶に出会い、茶業試験場の方々のご協力をえて生産した緑茶エキス粒の錠剤を用いて、1日10杯の緑茶はがんを予防する量だと臨床的に証明しました。その臨床試験の成果がこちらです。

 岐阜大学医学部内科教室の森脇久隆先生のグループと一緒にさせていただいた研究です(Shimizu M. et al., Cancer Epidemiol. Biomakers. Prev. 2008)。大腸ポリープは前がん病変ですから、放置しますとがんになりますので、見つかった場合は内視鏡で切除します。しかし、何年か経過しますと再びポリープが再発します。その再発を1日10杯の緑茶が予防できるかを試験しました。詳しく説明しますと、切除1年後にもう一度内視鏡検査をしてポリープがない患者さんを、日常のお茶を飲むコントロール群と緑茶エキス粒で合計10杯分の緑茶を飲用するG.T.E投与群の二組に分け、1年間観察をしました。コントロール群は65名中20名、31%の再発があり、G.T.E投与群は60名中9名、15%の再発率減少を示しました。すなわち、大腸ポリープの再発は51%予防できました。

 この結果は2008年10月12日の埼玉新聞を始め、全国の新聞に掲載されました。

 韓国では2011年から15年に176名の大腸ポリープの患者さんに対し独自に生産した緑茶エキスで臨床試験をしたところ、44%の予防効果があったと報告されています。欧米でも同様の試験が行われました。ドイツでは2400人を対象に研究が行われていますが、まだ結果は出ていません。

 イタリアでは、緑茶カテキンを用いた前立腺がん予防の臨床試験が行われました。プラセボ(偽薬)のコントロール群では30名中9名、30%に前立腺がんが生じましたが、緑茶カテキンを飲用した緑茶群は30人中わずか1人だけで、きれいな予防効果が得られました。その理由は、イタリアは外国ですから、コントロール群はまったく緑茶を飲用していません。それに対し、日本でのコントロール群は普段お茶を飲んでいますから、日常の緑茶の飲用に加えて、10杯に増量するとがん予防の効果が強く現れることを証明しました。

緑茶は抗がん剤の効果を増強する

 素朴な疑問として、抗がん剤を服用しているがん患者さんが、日常緑茶を飲用していると、がんの治療効果は亢進するのでしょうか、抗がん剤の作用を増強できるのでしょうか、あるいは、抗がん剤の副作用を軽減きるでしょうか。

研究を進めますと、緑茶は抗がん剤の効果を強めることがわかりました。例えば、腸管にたくさんな腫瘍が生じるネズミに抗がん剤と緑茶の両方を与えると、腸管の腫瘍数は、単独の場合よりも強く抑制されました。

その後、前立腺がんの治療効果の増強が外国の研究者から報告されました(Steams and Wang, Transl Oncol, 2011)。例えば、ネズミの背中にヒトの前立腺がん細胞を移植すると腫瘤は大きくなります。しかし、ネズミに抗がん剤を与えますとがん腫は縮小しますが、消失はしません。同様に、お茶のカテキンもがん腫を小さくしましたが、その減り方はわずかでした。ところが、カテキンと抗がん剤の併用は前立腺がんの腫瘤を完全に消失するというドラマチックな結果が得られました。これ以外にも、いろいろな抗がん剤とカテキンとの併用は良好な効果をもたらしています。

まとめますと、がんの予防のためには1日10杯の緑茶の飲用を勧めます。がんに罹患していない人は緑茶の飲用でがんの発症を遅らせ、予防することができます。がんに罹患した方は、緑茶と抗がん剤の併用によって、再発、2次原発がん、転移の予防が可能になると考えます。

一般の方は緑茶を10杯飲めば、セルフメディケーションに役立ちます。幸いに、日本に住む私たちは緑茶をいつでも手に入れて飲むことができます。カテキンの効果をよく理解して健康に役立てていただきたいと思います。

緑茶カテキンはがん細胞膜を硬くし、運動能を抑制する

 6年前に埼玉県立がんセンターと埼玉大学が共同で「がん細胞膜の硬さ」について研究を進めることになり、幸せにも、私は埼玉大学に招聘されました。研究室はがんセンター研究所に置き、大学との連携を強めるよう働いております。

がん細胞の硬さは、新しいがんの診断に役立つことが2007年アメリカのカリフォルニア大学の研究グループから発表されました(Cross SE, Gimzewski JK, et al, Nature Nanotech, 2007)。胸水の中にあるがん細胞の硬さを全部測定しますと、がん細胞は正常な細胞よりやわらかいことがわかりました。細胞のやわらかさは、簡単に目で見ても分かりませんが、特別な機器を用いると、細胞のやわらかさを測定できます。

アメリカの雑誌に掲載された論文を読んだ時に、原子間力顕微鏡(AFM)を用いると、緑茶ががん細胞膜に及ぼす影響を測定できると私は思いました。そこで、マウスの皮膚がんで転移しやすいがん細胞と転移しにくいがん細胞について、膜の硬さを調べました(Watanabe T, et al, J Cancer Rss Clin Oncol, 2012)。

がんの転移は、がん細胞が血管内に入り、血管壁をすり抜けて、ある臓器に辿り着いて、転移巣を形成します。がん細胞が血管壁をすり抜ける、やわらかさを持つことが、がん転移を大きく促進すると考えます。転移しやすく、やわらかい細胞をカテキンEGCGで処理すると、カテキンの濃度に応じてがん細胞膜はだんだん硬くなり、細胞の移動が抑えられ、転移の減少が見えてきました。まとめますと、緑茶カテキンはがん細胞膜を硬くし、運動能を抑制し、その結果、がん転移を抑制することが分かりました。

緑茶カテキンが肺がん細胞の運動能を抑制する様子を撮影したビデオは、NHKワールドの番組(Medical Frontiers Search for Japanese Superfoods)で世界中に放映されました。これらの結果はEGCGの飲用がマウス悪性黒色腫の肺転移を抑制する研究報告と良く一致します(Taniguchi S et al.,Cancer Left,1992)。

緑茶カテキンはミラクルな薬効を示します、すでに申しましたように、がん細胞の膜を硬くして、がんの予防、がん転移の抑制、抗がん剤との併用による相乗的な抗がん効果等、驚くほどの効果が見出されました。さらに、カテキンの研究が進みますと、多くの新しい薬効が見出され、人類の健康に役立つと期待できます。

カテキンによる抗腫瘍免疫効果の亢進

カテキンはさらに抗腫瘍免疫効果を増強します。昨年10月5日の朝日新聞埼玉版に「緑茶カテキン、免疫細胞後押し」とのタイトルで、私たちの研究成果が掲載されました。去年京都大学の本庶佑先生ががん免疫治療薬オプジーボにつながるPD-1の研究でノーベル医学生理学賞を受賞されましたが、緑茶カテキンは、オプジーボと非常によく似た作用をすることがわかってきました。緑茶カテキンは、がん細胞膜を硬くすることで、ブレーキ役のPDL1を減少し、免疫細胞の攻撃力を増強します。

がんと共存する「天寿がん」

東京有明にあるがん研究会がん研究所の北川知行先生が命名された「天寿がん」という言葉を紹介します。先生の知人で98歳の男性はまったく健康でしたので、健康の秘訣を調べるようにと、生前から依頼されていました。ご遺体を解剖すると胃に直径10㎝の大きながんが見つかりましたので、高齢者のこのように静かながんを「天寿がん」と呼ばれました。がんの罹患年齢を遅らせ、がんとの共存をもたらした98歳の長い生活習慣は、がんの予防を含めていたと思います。

緑茶のがん予防効果は、動物実験、ヒトの疫学調査、臨床試験ですべて証明されました。糖尿病、動脈硬化、心臓病、肥満に対する予防効果も研究されていますが、アルツハイマー病の研究は半ばです。ドイツのErich Wanker先生はアルツハイマー病に対しカテキンの有効性を発表されました。Wanker先生は、「日本にアルツハイマー病が少ないのは緑茶を飲用しているからだ・・・」と述べています。今ドイツで臨床研究が行われています。ますます、緑茶の研究は進んでいます。

栄西禅師は800年前、緑茶を日本に持ち帰り、お茶の薬効をまとめて「喫茶養生記」を著しました。栄西はこの書の冒頭に「茶は養生の仙薬なり。延齢の妙術なり。山谷これを生ずれば、其の地、神霊なり。人倫これを採れば、其の人、長命なり」と書いています。

21世紀になり、もう一度お茶はがんを予防するということを理解いただき、皆さんのご健康を祈ります。

<トークセッション>

左は高麗文康高麗神社宮司、右は菅沼教授

左は高麗文康高麗神社宮司、右は菅沼教授

高麗 がんの研究で緑茶に注目するのは以前からあったのでしょうか。

菅沼 私の先生の時代は、緑茶カテキンはサイエンスにならないから研究してもダメだと言われる化合物だったそうです。お茶のカテキンはタンニンとも言いますが、昔はタンニンは発がん性があると言われていました。私たちが研究を始めた頃は、どっちに転ぶかわからない状況でした。実験の結果、カテキンはあんなにきれいにがんを抑えました。うれしかったのですが、日本人はお茶を飲んでいるのになんで胃がんが多いのか、というのが当時の反響でした。胃がんを研究している先生が胃がんに対する予防効果を示してもなかなか理解していただけませんでした。少しずつ研究の成果は蓄積したのですが、がん研究の世界は厳しく、私たちのお茶の効果を最初に認めたのは、外国の先生でした。

高麗 評価が覆ったのは何がきっかけですか。

菅沼 外国でも同じような成果が出たということが大きかったと思います。それでもいまだに緑茶に対して冷たい先生方はいっぱいいらっしゃいます。それに対して、私たちは狭山茶の産地で研究していますので、埼玉県茶業試験場の協力が得られたことは大きな援軍でした。国立がんセンター研究所に在籍のままだったら、カテキンの研究はこれ程進まなかったと思います。

高麗 現状、お茶への理解はまだすそ野が広がってはいないといえますか。

菅沼 一般の方はお茶はいつでも飲めるわけですから、1日の飲料量を増量していただければ十分ですが、抗がん剤との相乗効果についてはお医者さんが信じてくださり、進めていただかなければなりません。臨床応用の面がまだまだ難しいのですが、外国では臨床研究が進んでいますので、確実に活用されてくると思います。

高麗 緑茶によるがん予防を今後広めていくのにどうしたらよいでしょうか。

菅沼 臨床研究はお金がかかります。それを支える財源を見つけにくいのが現状です。治療の現場でお医者さんが緑茶を薬として処方をするのは難しいですが、手術をした後に再発を予防するセルフメディケーションとしてすすめていただくことはできますので、そのように活用していただくように講演活動に努めています。

高麗 お茶10杯とのことです、そもそも1杯はどのくらいの量を言いますか。

菅沼 1杯はだいたい120 mL。1日1Lほど飲むと考えていただければよいでしょう。

高麗 お茶濃さは。

菅沼 1煎目、2煎目、3煎目あたりまではカテキンはよく出てきます。ただ、健康によいからと言って濃くしても続きません。おいしく飲めて、リラックスできて、それを頻回に飲用することが大事です。

高麗 ペットボトルのお茶でも。

菅沼 カテキンは同じです。ただ、入っているカテキンの量としては半分です。ペットボトルなら2L飲んでいただかないと10杯分にはなりません。

高麗 冷茶は。

菅沼 カテキンそのものに変わりはありませんが、水出しの方が少しカテキンが少ないかもしれません。ただ、茶色い茶渋は酸化されたカテキンでして、酸化されるとあまり効果がありません。

高麗 中国茶はどうですか。

工藤宏(入間市博物館学芸員) 中国では、釜炒り茶が主流です。その中では白茶(ホワイトティー) が日本の緑茶に近いです。

高麗 錠剤(G.T.E)の入手方法は

菅沼 小松医療商会が販売しています。インターネットで注文することができます(サイト)。

高麗 抗がん作用を明記して販売はできないのですか。

菅沼 薬事法の兼ね合いで難しいです。

高麗 カフェインの過剰摂取にはなりませんか。

菅沼 お茶の副作用はカフェインによります。アメリカで検査したところ、1日20数杯以上のお茶を飲んだところ副作用が出ますが、10杯では問題ありません。

高麗 他の地方では10杯でも多いですね。

菅沼 そうですね。埼玉の疫学調査では10杯以上を飲用している人は男性で29%、女性で13%です。お茶のがん予防効果の研究をしているのは埼玉、静岡、九州。皆お茶の産地です。岡山で肺がんの予防効果の研究を計画した時、飲んでいるお茶は煎茶でなく、10杯も飲んでいる人がいない、ということがありました。

高麗 一番茶より二番茶の方が紫外線を浴びているのでカテキンが多く、予防効果があるのではないか。

菅沼 その通りです。錠剤も二番茶の葉を使いました。

高麗 お茶屋さんからしてもありがたい話ですね。

高麗 胃を切除した方にとって、緑茶カテキンは再発予防になるのでしょうか。

菅沼 私たちはそう思っています。がんの一番のリスクは年をとることです。そういう方には、緑茶を飲んで他のがんの発症を予防していただきたい。アメリカの卵巣がんを経験している女医さんから来たメールによりますと、転移して3回目の再発でしたので、緑茶を10杯に増やしたところ、がんのマーカーの上昇が止まって、経過観察だそうです。この女医さんは論文を執筆中とのことですので、臨床の先生方がこの論文を読んで活用していただければと思います。

高麗 抗がん剤と併用すると、抗がん剤の副作用を抑えることができるのでしょうか。

菅沼 副作用そのものを抑えることはできないですが、効果が増強できるなら、抗がん剤の量を減らすことができます。

 (2019年8月)

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