鶴ヶ島市でピラティスの教室を開く曽川恵子さんは、整骨院から始まり、体操教室、機能訓練指導、アスレチックトレーナーなど様々な経験を積み重ね、ピラティスに行き着いた。一貫しているのは、人々の体の不具合を直しパフォーマンスを上げるために、よりよい方法を追い求める飽くなき探究心とチャレンジ精神である。
整骨院から運動指導、機能訓練指導へ
―元々整骨院を開いていたのですか。
曽川 昭和56年に柔道整復師の免許を取りました。家は父が鍼灸師、母もマッサージ師のような仕事をしておりまして、昭和60年に鶴ヶ島で両親と一緒に鍼灸接骨院を開業しました。
―それから運動指導の活動も。
曽川 施術をしてもその後また悪くなってしまうことが続いて、予防のための運動指導が大切だと考えました。平成9年からスポーツクラブ、カルチャースクール、行政からの依頼などで体操教室を行いました。接骨院は、弟も柔道整復師として働いていてくれたので、私は並行して運動指導ができました。
―その後も、いろいろなことに挑戦される。
曽川 平成12年から坂戸市にある医療法人秀人会原田内科クリニック併設訪問看護ステーションさくらで機能訓練指導員として週1、2回勤務(平成26年まで)。平成16年には、アスレチックトレーナーの資格を取り、大学のソフトボール部、女子プロゴルフトーナメント等のトレーナーとして活動をさせていただきました。同じ年に日本アンチドーピング機構のドーピングコントロールオフィサー資格を取得、活動(平成21年まで)。またケアマネージャーの資格を取得、医療法人秀人会居宅支援事業所さくらで機能訓練指導とともにケアマネも兼務しました。秀人会では、平成20年には坂戸市と協力して「サポートセンターさくら」を立ち上げ介護予防教室の責任者として活動しました(平成31年まで)。
ニューヨークに行き、ピラティスの資格取得
―そのように運動指導、機能訓練指導をされる中で、ピラティスに出会うわけですね。
曽川 運動指導を行っても、やはり痛みを持っている人とか、日常生活にくせのある方など はなかなか運動軸が安定せず、きちんと効果が出ませんでした。それはどういうことなのか、とずっと考えていて。私自身、昔器械体操をやっていて、ヘルニアもあり、妊娠した時に痛みやしびれが出て。それを治すためにもどうしたらいいんだろうと。
そうした時、巷でインナーマッスルが言われ始めた。バレリーナはそれが発達しているのではと考え、バレエを習ったが先生の話が腑に落ちなくていたら、withという雑誌で、ピラティスという体操があり、体がきれいに痩せて体幹、インナーマッスルが発達すると書いてあった。すぐに掲載されていた教室に行って指導を受けた。その方はニューヨークにダンス留学をしていたが、腰をいためピラティスの資格をとって日本で始めた。私もこれはいいなと思って、平成17年にニューヨークに行き、日本人のピラティストレーナーがいたので、その方に教えてもらい、指導者資格を取りました。
―ピラティスが求めていた運動だったということですか。
曽川 私自身、ピラティスをやっていたら、腰痛も逃れることができました。それからはカルチャースクール、スポーツクラブやあちこちでピラティスを教えていた。だけど完全には納得がいかなくて、もっと勉強したくてニューヨークに何回か行き、平成22年ピラティスの資格をもう一つ取りました。ドイツにいい先生がいる聞くとドイツに行き、ロサンゼルスにいると聞けば行き、その繰り返しです。
ノルディックウォーキング愛好会
―現在の取り組みを教えてください。
曽川 鶴ヶ島市の富士見市民センターでピラティス教室(ピラティスKEIKO)を、平成31年から毎週開いています。それとフルヤアカデミー(インストラクターを抱えている会社)でピラティスインストラクターの教官(エグゼクティブトレーナー)として後進の指導をしている。
平成29年から、わかばノルディックウォーキング愛好会を毎月1回、坂戸市の公園に集まって活動しています。令和2年からは、自宅で「美姿勢整体サロンSOW」という名の整体院を開業しました。この他、介護認定調査員を令和3年から、また行政から頼まれて介護予防教室も開き、坂戸鶴ヶ島地区医師会立看護専門学校(地域在宅看護論)で教えています。高齢者の実際が見えるので大変勉強になります。
―ノルディックウォーキングはどうして。
曽川 体操教室をやっていて、男性が来ない。どうしたらよいかと考え、屋内でみんなで椅子に座ってやるのが閉塞感があるのではという意見があり、外に出てみようと。平成22年に資格をとってノルディックウォーキング教室をやり出したら男性が多くなりました。
―ピラティスと共通点がありますか。
曽川 体幹を使って歩く点が同じです。すべての動きは体幹から動いていかないといけないわけです。
―いろいろやってきてピラティスに行き着いたということでしょうか。
曽川 そうですね。やはりピラティスの考え方が納得できるというか。これだけということではないですが。
インナーマッスルを強化する
―ピラティスについて、あらためてご説明いただけますか。
曽川 第一次世界大戦時に看護助手であったドイツのピラティスさんという方が負傷した軍人の為に考案したベッドにスプリングを装着した器具を使ったエクササイズで健康回復の早期改善を図った。その後、武道やヨガを取り入れたエクササイズに発展。ピラティスさんはその後ニューヨークに行き、ダンサーとかに向けて指導を行い、爆発的な人気が出たのです。
―ピラティスはインナーマッスルを鍛えるということですか。
曽川 筋肉は1枚ではなく重なっています。外側の筋肉はアウターマッスルといって上腕二頭筋など力こぶの出るところ。内側にインナーマッスル(深層筋)がある。内側がグズグズだと外の筋肉に骨とか関節が引っ張られてしまう。中のインナーマッスルを使って背骨とか安定させ、そこからアウターマッスルに伝えていかなくてはならない。しかしインナーマッスルは感覚がないから鍛えるのがとても難しいのです。だから呼吸とか器具とかを使いながら鍛錬します。
―具体的にどのようにして鍛えるのですか。
曽川 通常のストレッチではなく、体を伸ばしながら力を発揮するエキセントリック(伸張性収縮)コントラクションで、呼吸を使いながら体幹部のインナーマッスルを強くし、体の軸を整え、歪みを改善します。みなさん癖がついているのできちっとした動きができなくなっている。それを正しい動きを体感して、癖づけるのです。バレリーナはあんなにくるくる回れるのに筋肉がついていない。内側についているのです。
―呼吸を使うとはどういうことですか。
曽川 体の軸は内臓なので軸を鍛えるには内臓を動かさなくてはなりません。随意で内臓を動かすことはできないが、呼吸だけは自分で動かすことができる 呼吸を使って内臓を動かすわけです。
胸腹式呼吸
―呼吸はどんな呼吸ですか。
曽川 胸腹式呼吸。吸う時に横隔膜は下げないで胸を広げる。肺に空気をたくさん入れるのは同じですが、下にずんと入れるのでなく横に広げる。下げると内臓が前に出てしまう。肋骨の横に呼吸筋がついているのにみんな使えないでいるから猫背になり、肩で息をするようになるのです。
―吐く時は。
曽川 吐く時は骨盤低筋というのを使う。下の筋肉を おしっこをがまんするような感じでお腹をへこませて腹圧を上げて横隔膜を持ち上げて肺から息を出します。
―動きと同時に呼吸をするのですね。
曽川 そうです。それができるようになるように指導する。
―動きのパターンはどのくらいあるのですか。
曽川 私の属するアカデミーでは50くらいでしょうか。ニューヨーク発なので、英語でいろいろ名前がついている。いろいろな流派があるので言い方も様々です。たとえばロールアップ・ロールアッダウンとか。ロールアップ・ダウンは、仰向け姿勢から背骨を一個ずつまるめながら起き上がり(アップ)、伸ばしながらダウンする。背骨と背骨の間にも筋肉がついているが、全然使わずにひしゃげたまま使っているので、腰痛とか起こってくる。それを呼吸で腹圧を高めると、お腹の筋肉がガードルみたいに締まり、背骨が一個ずつ伸びてきます。
運動パフォーマンスを上げ、きれいな体になる
―どのような効果がありますか。
曽川 腰痛の方はとても多い。腰痛で圧迫骨折があるとか、ヘルニアの場合でも、まわりの筋肉、靱帯をうまく使うようにしていけば普通に生活ができるようになります。本来自分が持っている動き、コントロールする技術を身につけることができます。
それから運動パフォーマンスを上げる。ソフトボールの選手だったら、体の軸ができて能力がアップします。体のホルモンバランスもよくなる。だから痩せてくるというより、きれいな体になる。女優さんにもピラティスをされる人が多い。
―女優さんにはどんな人がいますか。
曽川 渡辺満里奈さん、天海祐希さん、米倉涼子さんとか。ダンススタジオにはピラティス講習が必ずあります。
―ヨガとの違いは。
曽川 ヨガは止まる。静止した状態で筋肉を使い続ける。ピラティスは動きます。伸ばして曲げる。またヨガには宗教的な要素があります。ヨガもよいですが、解剖学的に考えて私はピラティスの方に来ました。
―太極拳は動きます。
曽川 太極拳は、似ていますね。軸があって、ゆっくり動く。ゆっくりでないと体の動きはわかりません。筋トレとか、ストレッチ、エアロビクスを、きちんとした運動軸が定まらないでやっていると体を痛める原因になってしまいます。
―ピラティスは習うのは難しそうです。
曽川 習得には時間がかかります。普通の人で1年くらいでしょうか。
―ピラティスは高齢者にも勧められますか。
曽川 腰痛など体に不具合がある方はもちろんですが、介護予防とか機能訓練にも役立ちます。自分のことがわかる。左右の動きに差があるから転びやすいとか、自分で体感できますし、改善できます。
―介護予防で大事なことは何だと思いますか。
曽川 セルフケア力を引き出す支援が必要かなと。自分でよくなろうとする意思です。まずあきらめてしまうことが多い。とりあえず来ていただいたらどうにかします。今は来たらとにかく楽しまそうと思って。楽しいことをやるようにしています。
さらに勉強をしたくなる
―ここまでいろいろなことにチャレンジされてきて。
曽川 負けず嫌いなんでしょうか。いくつもやってしまうというところがあるんです。ピラティスでも介護予防でもアスレチックトレーナーでも全部そうですが、十人が十人よくならないじゃないですか、どうしてか、やり方が悪いのか、私の勉強不足なのか、というふうにいつも悩む。さらに勉強をしたくなるのです。
(取材2023年12月)