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究極の自然農法 無肥料自然栽培 小さい子供が野菜を思わずかじるおいしさ

  有機栽培は化学肥料は使わないが有機肥料を使う。さらに進んで肥料も農薬も全く使わないのが無肥料自然栽培だ。健康志向の高まりで、この究極の自然農法が今静かに広がりを見せている。富士見市とその周辺は無肥料自然栽培を手掛ける農家が多く、先端地域になっている。富士見市の自然栽培農家で、推進グループNICO(「和草(にこぐさ)」から由来、natural and cultivation organization=自然栽培&自律〔種・作物・関わるすべての人の自律]栽培の定着を促進する団体)の会長である関野幸生さんにお話をうかがった。

作物が本来持つ生命力を最大限発揮させる

―無肥料自然栽培とは肥料を使わないということですか。

関野 肥料と農薬を全く使わないわけです。

―かなり常識外だと思いますが、どうしてそれが可能になるのでしょうか。

関野 大切なことが2つあります。1つは土に元々備わっている力を最大限に発揮させること、もう1つは作物が本来植物として持っている生命力を最大限発揮させることです。

植物には自分で生きていく力があるのです。たとえば、車がひっきりなしの浦和所沢バイパスの分離帯に立つケヤキは枯れないです。アスファルトに囲まれ、落ち葉も積もらず肥料はもらえなくても育ちます。

―具体的な栽培方法は。

関野 まず逆転の発想ですが、土から過去に過剰に施した養分や農薬を抜き取り、元々の天然の微生物のバランスに戻します。それに3年くらいかかります。また、土の物理的状態を整える必要があります。トラクターに特殊な作業機を取り付けて硬い層を取り除く。土は、表面はフカフカでだんだんと硬くなっていくのが理想です。空気は徐々に少なく、水は徐々に多く、含まれている層がなめらかに変化していきます。微生物もそれに合わせて多様に住み着く。それに対して植物は好きなように根を伸ばせばよいわけです。

 植物は光合成で有機物を作り生きていますが、実はその1部を土の中に出しています。それを目当てにいろいろな微生物が集まり、微生物が空中窒素を無機体のアンモニア、硝酸に変化させ、それを植物が吸ってアミノ酸やタンパクにします。植物に絶対必要とされている窒素分は肥料を施さなくても供給できるのです。そこに肥料を与えてしまうと、根から有機物を出すことをやめてしまう。要するに、土壌を整えれば、植物と微生物が勝手に自然の中でやってくれるということです。

種は固定種で自家採種

―種が違うのですか。

関野 種は、自家採種を可能な限り行います。それには今の一代交配種は不向きで、昔ながらの固定種が必要になってきます。その作物から種を採り蒔くと親から性質が受け継がれるのが固定種です。その種を、日本で一番取り扱っているのが、飯能市にある野口種苗研究所です。所長の野口勲さんは、以前手塚治虫の虫プロに勤め「火の鳥」の初代編集者だった方です。

 固定種を買ってきて、畑に蒔き、2年目以降は採れた作物のうち病気に対しても虫に対しても強かった株を選び自家採種します。そうしないと、だんだん土から肥料が抜けて、うまくいかなくなる。種を採らなかった人たちの多くは、失敗しています。無肥料自然栽培に成功した人たちは、肥料が抜けていくのに種を適応させたのです。普通は連作はダメと言われていますが、あえて連作していく。肥料依存から解かれるのに7、8年かかるようです。うちも7年目くらいから急激に育ち始めました。

―無肥料の作物の方が強いということでしょうか。

関野 肥料の量と病虫害の発生は比例しています。やはり食べすぎイコール病気なのです。

―すべての作物が自然栽培なのですか。

関野 うちは自然栽培を始めて11年がたち今年で12年目ですが、1年目からすべての畑を、無肥料・無農薬に切り替えました。

―作物は何を。

関野 野菜ですが、年間で35種類以上作っています。その季節ごとにスーパーに並んでいる一般的なものです。ただ、火山灰の土なので、作りにくいのはユリ科、特にタマネギ。サトイモ、キュウリも少し作りにくいです。

抗酸化力が高い

―収量はどうですか。

関野 収量はやはり減ります。

―消費者にとってよいことは。

関野 やはり、おいしいことです。野菜嫌いのお子さんでも食べられるんです。実際うちでも起きています。子供連れのお母さんが買い物に来て、子供がオクラをその場で食べてしまう。うちに最初に来た研修生は、脱サラで農業をするので奥さんに反対されていたのですが、たまたま持って帰って野菜を奥さんがまな板で切っていたら後ろで子供が袋を破ってピーマンを生でかじっていたらしい。子供は見た目とか臭いで判断できるのかもしれません。そこから奥さんの認識が一気に変わった。

―味はどのような。

関野 味で言うと、エグミがない。味が、スッキリしていて、ピーマンならピーマンの味がしっかりする。それ以外の雑味がない。

 料理人さんによると、包丁を入れた瞬間音が違うと。また、ジャガイモでもニンジン、ダイコンでも煮崩れしない。あとは日持ちのよさ。

 栄養価は、有機栽培のものより低いことがよくあります。何が違うのか、専門家が分析しました。抗酸化力がものすごく高かった。体によくないとされている硝酸イオンは非常に少ない。窒素肥料を施していないからです。糖度やビタミンCの数値も高い。その辺が、子供にはわかるのかもしれません。危険か安全かを舌先で敏感に感じ取れるのです。

脱サラで家業を継ぎ勉強

―関野さんはおいくつですか。

関野 昭和46年生まれです。

―お宅は代々農家なのですか。

関野 私は、車の整備士をやっていたのをやめて、主に祖父から種の蒔きかたから基本を教えてもらいました。私で4代目で、家業を継いだ形です。父は8年前くらいに亡くなりました。

2年目から、自分で自分なりに始めて感じたのは、農業は自分で値段を決められない。市場の需給のバランスで値段が決まる。品質は関係ない。どんないいナスでもいっぱい供給されれば二束三文になる。だったら対面で直売だと。お客さんも新鮮な野菜を割安に手に入る。せっかくならより安全で、付加価値をつけたいと、独学で勉強し直売・無農薬で始めました。しかし最初は大失敗でした。

―そこから無肥料栽培に。

関野 最初無農薬で失敗し、ただ農薬を使わなければよいというのではなく、経験知識が必要と、本を買って勉強しました(『野菜づくりと施肥』)。そこに「肥料をやり過ぎるとよくない」と。さらにネットで肥料を使わない方法があることを知り、半信半疑ですが、試みたわけです。

 試行錯誤の末、7年目くらいから、いくつかの作物が急激に葉の色が濃くなってきました。8年目くらいからだいたいのものが元気に育つように。

自然食料品店かこだわりのレストラン

―出荷はどちらに。

関野 市場には出していません。出すのは自然食品店、こだわりの食材を扱う飲食店です。

―関野さんの野菜はどこで手に入りますか。

関野 うちに直接来ていただくか、自然食品店サン・スマイル(ふじみ野市)、有機の里(坂戸市など)。飲食店では3552食堂(富士見市)、ぐるりごはん(所沢市)など。今年から曜日を決めて家の前で直売場を開こうかと思っています。

―nicoとは。

関野 自然栽培に関わる人たちの集まりです。生産者もいれば流通業者、応援してくれる消費者の方とか。会員は北海道から沖縄までいます。

―中心メンバーは富士見市とその周辺が多いですね。

関野 特に埼玉県は野菜の自然栽培農家がダントツに多いです。この近辺にも数軒あります。早くから始めた人がこの辺にいたこと、消費地でありサン・スマイルさんが販売してくれること、野口種苗さんの存在など、環境もよかった。

環境問題、世界の食糧問題にも貢献

―今後の課題は。

関野 技術をもっと高めて、農家の収入が安定するくらいの生産量を確保することでしょうか。量が取れて出荷先もあれば、一般の農家もできれば農薬や肥料は使いたくないという気持ちはあるはずです。現状では、欲しいと思っている消費者の元に適正価格で届けられないのです。

―価格はどのくらいにしたいですか。

関野 中には吊り上げている方もいますが、ぼくらの仲間内ではそういうことはしていない。何とか一般の野菜の1.5倍くらいの値段で提供したいと思います。

―この農法が広がればいろいろな影響がありますね。

関野 自然栽培野菜を買っていただくことで農薬散布が減っていく。環境もよくなります。そのことを理解するお客さんが増えてきました。

また、肥料は海外に依存しています。有機肥料の糞尿は、餌も輸入がほとんどです。種は、F1は海外、伝統野菜でも海外で採種しています。結構危うい。世界的な食糧問題、環境問題、日本の農業の継続性、経済自立にも貢献できるのだと思います

その中で、自分ができることは、おいしい野菜をつくり、食べてもらうこと。「なぜおいしいの」となると、聞く耳を持ってくれます。

(2015年2月取材)

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