国営公園の第1号で、東京ドーム65個分という広大な武蔵丘陵森林公園。初夏の一日、森の精を満喫させてもらった。(取材時2008年)
公園訪問記
深い森に分け入る様 森林浴は東上線で
今回、取材のため、梅雨の晴れ間ののぞいた6月初旬、森林公園を訪れた。
私は沿線に住み、すでに何回か来ているが、ここ10年ほどはご無沙汰していた。
この公園の第1の特徴はとにかく広いこと。全部回ろうと思ったら、歩き詰めで1日がかりとなる。そこでリピーターとしては、毎回何かテーマを定めることになる。多くの人は季節の「花」を目的にするようだ。
私も「ルピナス」が今なら咲いていると聞き、とりあえずテーマとすることにした。ルピナスは、「公園・庭園樹見本園」という場所にあり、そこに近い中央口に車をつけ、入園料400円を払って入場した。
蒸し暑い天気だったが、日曜でもあり結構人が多い。ただ、それも入口付近、休憩所など特定の場所だけ。広大なだけに、ひとたびわき道に入ると、人気がなくなる。ウグイスの大きな声が響く。深い森に分け入った感じ。道に迷うのではないかという不安に襲われるほどだ。
この公園は、この地にあった丘陵と沼をそのまま生かして造られた。だからところどころにある人工的に整備された部分以外は、自然のままの地形、植生を満喫することができる。
ただ、登山、ハイキングに行くのとは何かが違う。それは何なのか。周囲を囲われ、「管理」されているという感覚なのか。
見ごたえのある「都市緑化植物園」
森の中に面白い彫刻を配置した彫刻広場を抜けると、「都市緑化植物園」に着いた。ここは休憩所も設けられ、にぎやか。
その一角のハーブガーデン。見たこともないハーブがいっぱいだ。それが見事なデザインで配置されている。かなり上等な癒しの空間である。関係者のこまめな努力がしのばれる。
この公園には、「○○見本園」という名の植物園が各所にあるが、そのどれもが勉強になり、見ごたえがある。専門家が設計し丹精こめて育てている。森林公園は、単なる自然の森林だけでなく、同時に巨大な「植物園」であることを強調してよいのではないか。
ルピナス花壇のある「公園・庭園樹見本園」も近くにあった。ルピナスというカラフルな珍しい花が、林の中一面に群生しているのは、自然界ではあり得ないであろう、不思議な光景である。
価格:2,970円 |
渓流広場を過ぎると、山田大沼という大きな沼に出る。丘陵の谷間にいくつかの湖沼があるのもこの公園の風景だ。沼の水面と木々に、黒っぽい鳥が群がる。カラスでも黒鳥でもない(後で調べたら川鵜か)。まるでアマゾン川沿いのジャングルのよう。このような奇怪な場所も、この公園の面白さ、奥深さである。ただ、これを見るとメルヘン気分は吹き飛ぶが。
沼を過ぎると、中央レストランという飲食施設がある。もう一ヶ所の展望レストランに比べ、立地が窮屈なためか、お客も少ない。外のベンチで一休み。ここから「中央橋」を渡れば、公園の南部に入ることができる。冒険心はあっても、元気は残っていなかった。
結局、今回歩いたのは約2時間、おそらく全体の7、8分の1の面積に過ぎなかったのではないか。
歩いてみて感じたのは、やはり家族連れが多いが、①高齢者、②犬連れ、③障害者、が以前より増えているのではないかということだ。当然のことだが、今の時代、人々は自然とのふれあい、森林浴を求めてここにやって来る。
以前あったプールやテニスコートもなくなったそうで、ますますその傾向は強まっている。
東上線北部は森林をテーマに
よりよい癒しのスポットであってほしいため、いくつか注文をしたい。
1つは、全体として素晴らしい設計だが、まだ殺伐とした風景が部分的にある。たとえば、園内の幹線道路のアスファルト舗装は何とかならないか。日本の道路の風景をアスファルトとガードレールが損なっているのと同じ構図が公園内にある。所管の国土交通省も、美しく、自然と調和した道路作りにここで挑戦してほしい。
第2に、あまりに広いため自転車を利用したい。ただ、設けられたサイクリング道路がおおむね低い場所を走り、やや解放感に欠ける。専用道路に限らないで、自転車の走れる場所をもっとずっと広げてよいのではないか。あまりに安全を重視すると、何のための公園かとなる。
第3に料金の問題。この公園は国営公園の第1号であり、また全国的にも珍しい有料の自然公園だ。入園料の他に駐車料金(610円)もかかる。これだけの規模を維持するのは経費がかかるのは当然だが、「公園」はやはり無料が心地よい。気分が軽くなる。今問題の道路特定財源の一部でも向けたらどうか。あるいは、園内で植物などを販売するのもよいかもしれない。
記者の批判癖で申し上げたいことも多々あるが、自然環境豊かなこの公園の現代における価値は限りなく大きいと思う。森林をこれほど豊かに持つ公園は他にないが、同時に東上沿線地域は自然の森林も豊か。特に、森林公園以北は緑の中を走る電車という印象を抱く。
この公園をまず玄関として、東上線の北部地域は「森林」をテーマに地域を形成していったらどうか。マンションメーカー・リブラン(本社東京・板橋)の鈴木静雄会長がかつて提唱されたように、東上線は「森林都市線」と改称するのも一策と思われる。
「森林都市線で森林浴に行こう」
森林公園とは
南から北まで歩いて1時間20分
60名のスタッフ働く
森林公園の概要について、管理する財団法人公園緑地管理財団武蔵管理センターの担当者にうかがった。
―国営公園とは。
「国営公園は都市公園のうち、国家的記念事業や、広域的な見地から設置する公園で、国土交通省が整備・管理を行っています。いわゆる国立公園、国定公園は自然公園という分類になり、環境省が所管しています」
―全国にいくつあるのですか。
「現在、供用しているのは16ヵ所で、森林公園はその第1号です。関東には、他に昭和記念公園(東京都立川市)や常陸海浜公園(茨城県)・アルプスあづみの公園(長野県)があります」
―森林公園のオープンはいつ。
「昭和49年7月に開園しました。明治百年記念事業の一環として整備されました」
―規模は。
「304ha、東京ドーム65個分。滑川町と熊谷市にまたがります」
―元々あった自然を残している。
「山林、沼などはそのままできるだけ残し、園路やサイクリングコースなどは計画して整備しています」
―公園として特徴は。
「森林など自然資源を楽しんでいただけるというのが一番の売りです。たとえば、園内には20㍍級のユリノキがありますが、都市部でこれだけ大きな木を自然樹形で見ることはなかなかできません。春の新緑や秋の紅葉など、季節によって異なる風景が楽しめます。
自然に触れる体験コースや施設も充実しています。全長17キロのサイクリングコースや、クロスカントリーコース、お子様向けの冒険コースなどがあります。ぽんぽこマウンテンという、面積が1千平米ある大きなトランポリンは大人気です」
―花を目当てに来る人が多いようですね。
「大花壇では、春はポピーやルピナス、夏はコリウス、秋はコスモスなど。また、7月には園内各林地でヤマユリが咲き誇ります。野草コースやヤマツツジなどの花木も楽しめます」
―植物園もある。
「都市緑化植物園があり、ハーブガーデンやボーダー花壇の他、花木や生垣などの見本園があります。また植物に関する調査研究、講習会、展示もしています」
―全部見るとどのくらい時間が。
「サイクルコースだけでも1周1時間ぐらいかかります。歩いたら北口から南口までおよそ1時間20分です。 南口、西口、中央口を結ぶ園内バスもあります」
―自転車に乗るには。
「園内にあるサイクリングセンターで貸し出しており、持ち込みもできます」
―車利用の来園者が多いですか。
「車利用の方が多いです。入口は4ヶ所あり、イベントがあると、どの入り口が近いかをあらかじめ調べて来られる方もいらっしゃいます。GWなどは中央口や西口の駐車場はあっという間に埋まります。公共交通(森林公園駅からバス)を使ってこられる方は、南口が便利ですね」
―駅から自転車でも。
「森林公園駅に東武鉄道さんのレンタサイクルがあり、ここまで約3キロの森林緑道を走ってくることができます」
―入園者は。
「去年(2007)は83万5千人の方が入園されました。近年はほぼ横ばいで推移しています。特に4、5月、10、11月の花の季節は多くの方にご来園いただいています」
―運営は
「整備を国土交通省の関東地方整備局が担当、公園
緑地管理財団が管理運営の委託を受けています」
―スタッフは何人。
「約60名ほどです が、シーズンによってはアルバイトを入れています。また、園内でのボランティア活動のため、約180名ぐらいの方に登録していただいています」
(本記事は「東上沿線物語」第16号=2008年8月に掲載されました。状況が一部変化している場合があります)
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