東上線ときわ台駅からバスで10分、板橋区前野町にある温浴施設、「前野原温泉さやの湯処」。泉質がよく、しかも源泉かけ流しの湯として、本物志向の温泉マニアにも評価が高い。経営する(株)トッキンHDの谷口慈雨子(じうこ)常務にお話をお聞きした。
会社の跡地を活用
―この温泉の歴史を教えてください。
谷口 ここには、元々私どもの会社(金属加工業の特殊金属工業株式会社、現トッキンHD)がありました。現在の温泉施設の土地には会社事務所と創業者、谷口周(ちかし)の自宅があり、通りをはさんだ向かい側、今イオンスタイルある場所が工場でした。
―そこに温泉を作ることになったのは。
谷口 会社の創業は、1940年ですが、1996年に本社は豊島区に、工場は東松山市に移転し、ここは空き家になりました。しかし、創業の地を何とかしたいと考え、様々な検討の末、2005年に温泉としてオープンしました。
―なぜ温泉にしたのですか。
谷口 向かいが当時はイズミヤというスーパーでしたが、そちらにファミリー客などたくさんの方がおいでになり、こちらも様々な方に一番喜んでいただけるような施設を作りたいと思って、温泉を掘削しました。
京都をしのぐ300坪の苔庭
―建物はそのまま残したのですか。
谷口 はい、住まいと庭はすべて残っています。今お食事処になっている部分が創業者の家で、1946年に建てられました。古民家再生の第一人者である建築家の降幡廣信氏、作庭家小口基實氏にお願いしてリニューアルしました。
―食事処は「柿天舎(してんしゃ)」という名ですが、どのような意味が。
谷口 創業者が多趣味な人でホトトギス派の俳句を読んでおり雅号が「柿天」でした。
―庭は。
谷口 300坪くらいの苔庭になっています。小口さんは「京都をしのぐ東京に庭」をイメージされたそうです。食事処から見られます。
都内では温泉はなかなか掘れない
―掘削したらすぐお湯が出たのですか。
谷口 1500m掘っています。東京を含め関東平野は昔は海だったので、地中に海水が残っており、掘れば出ます。
―しかし、区内で温泉は珍しいですね。
谷口 近くでは豊島園と巣鴨にありますが、都の安全条例が厳しく掘削が難しく、なかなか掘れません。
―「さやの湯」の「さや」とは。
谷口 「さや」は「清」の字。色が鮮やかな意味、清らかな水が流れる様をイメージしています。
源泉かけ流しで、お湯が老化せず、成分が濃い
―お湯は源泉かけ流しなのですか。
谷口 温泉は生ものなので、空気に触れ時間がたつとエイジングと言って、老化します。当館は、地下1500mの源泉を一度も空気に触れさせないで、浴槽に注ぎます。水も入れませんし、消毒材もいれません。そういうのを源泉かけ流しと言い、100%温泉の成分が保たれます。
―お湯が濃いのですか。
谷口 水を入れたら、お湯の成分は薄まってしまいますから。うちの場合、1キログラムのうち22グラム成分が入っています。そこまで濃い温泉は少ない。湯の色をウグイス色と呼んでいますが、凝灰岩色、少し緑がかかった茶色で、しかも濁り湯なので、深さ10センチで何も見えません。
―源泉かけ流しにするのは難しいのですか。
谷口 源泉かけ流しにはコストがかかります。地方でも、これをしているところは多くありません。それを東京の板橋区でやることは非常な困難を伴います。荒川沿いの区は汲み上げ制限があり、一日50トンと決まっています。それを上手に調節して、皆さまに喜んでもらえる温泉にしたいと努めています。そのため残念ながら源泉かけ流しの湯舟は小さいです。50トンで、男女、一日16時間の間お湯を流し込まなければなりません。
高張泉で浸透圧が高い
―どのような温泉成分ですか。
谷口 含ヨウ素ナトリウム塩化物強塩泉。それですごく濃いので、高張泉という分類です。 浸透圧が高い。この温泉に入ると、体の汗が表に出て、すごくあったまり、神経痛、皮膚炎、リウマチ、冷え性とかに効きます。
―源泉かけ流し以外の風呂のお湯は。
谷口 露天風呂は全部天然温泉ですが、源泉かけ流し浴槽以外の湯舟は、源泉をろ過してまる湯、寝転び湯、つぼ湯に循環させています。
プロ、マニア、本物志向のお客の評価が高い
―お客さんはどのような層が多いですか。
谷口 あらゆる層がおいでになりますが、うちの場合、特に温泉のマニア、プロの方、本物志向の方に評価していただいています。
―高級ということですか。
谷口 料金は都内では一番リーズナブルと思います。
―館内の施設は。
谷口 お風呂は露天風呂の他に、内湯(高濃度炭酸泉他)、サウナ、岩盤浴があります。
―貸し切り風呂がある。
谷口 貸し切り温泉は庭を通って離れにあり、時間貸しです。
―食事の売りは。
谷口 食事は全部手づくり。管理栄養士がつくる健康志向です。10割そばがメインです。
―他のサービスは。
谷口 テナントさんとして、てもみ、アカスリ、アロマがございます。
―経営はどうですか。
谷口 おかげ様で順調に来ております。
(取材2018年12月)
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