障害者の生産した商品が、市場で一般生産農家の商品と勝負し、取引される。この難しい課題に挑戦している施設がある。富士見市にある就労支援施設、入間東部福祉会・入間東部むさしの作業所は、お花の生産から、仕入れ、販売、植栽、市場への出荷まで一貫して手がけ、事業を拡大、障害者への相対的に高い工賃とやりがいを提供している。政府の障害者就業モデル事業にも選ばれ、過去には首相官邸に呼ばれたこともある。小菅賢一施設長にお話をうかがった。
年20~30万鉢を生産
―首相官邸に呼ばれたことがあるのですか。
小菅 2013年に首相官邸で「安倍総理と障がい者の集い」という催しがあり、農業分野の代表として呼ばれました。それ以前から、日本で先駆的な作業所として厚生労働省のモデル事業に選ばれていました(今年度も認定)。
―どういう点が評価されたのですか。
小菅 うちはお花を扱っていますが、お花の生産から植栽、販売、さらに市場への出荷を一貫して行っているということです。
生産については、富士見市上南畑の作業所で花を年間20万から30万ポット(鉢)くらい作っています。障害を持った人たちが種まきをしたり、土入れ、肥料、植え替え、いろいろ仕事があります。農業指導の方が川越にいて、その方と契約をして消毒の仕方、肥料の種類、水の量、温度管理など教えていただき、きちんとした品物を作っています。
それをどう販売しているかというと、一つは植栽。作ったお花を、近所の公園とか街路樹の下とか公共施設などに植栽する業務を請け負っています。もう一つは販売。三芳町に作業所のお花屋さん(フラワーショップふれんず)があり、販売コーナーもいつかあります。老人ホームに販売に行ったり、地域の町会に買ってもらったり、作業所のおまつりとか地域のお祭りなどで売ったり。
市場のセリにも参加
もう一つ、4ヶ所の花き市場に出荷もしています。普通の生産農家に負けないような品物を作って市場で勝負している。市場の方でセリに入れる権利も持っているので、朝の7時くらいから市場に行って。お花を安く大量に買えるので、どんなお花の注文が来ても対応できます。
―セリで買うとは、市場から仕入れもしているということですか。
小菅 売ることも買うこともできます。そういうモデルがないんです。出荷だけしているところはありますが、仕入れて販売している作業所はうちだけらしいです。自家生産だけでは設備的、技術的に作れない花もあります。注文が来て、これはうちでは作っていないという話になると、そこで終わってしまう。作れないものは仕入れて対応できます。どんな花の注文が何万株来てもすべて対応できる体制です。
―注文はどういうところから。
小菅 学校や公共施設。この近辺の学校はほとんどお付き合いいただいています。大きい県立の公園の花壇とか、地域の花いっぱい運動向けとか、県のロードサポート事業という美化活動に使うとか。県内も広く、都内からも注文が来ます。
―まちの花屋さんでも販売している。
小菅 スーパーなどにあるような一束300円くらいで売っているようなコーナーも何ヵ所かに出しています。プレゼントや送別会用花束の注文や開店祝いなどの豪華なスタンド花や葬儀用仏花も扱います。
就労継続支援B型事業と就労移行支援事業
―ここで働く障害者は何人いるのですか。
小菅 当施設は就労継続支援B型事業と就労移行支援事業を担っていますが、定員はB型事業が45名と移行支援が6名です。ただ、実際は71名います。契約している人はこの近辺ではうちが一番多いかもしれません。
―通所施設ですか。
小菅 そうです。作業時間は10時から3時。自分で通ってこられない人には送迎車を出します。
―居住地域は。
小菅 基本は富士見市、ふじみ野市、三芳町の2市1町です。
―障害は知的障害ですか。
小菅 知的障害が主ですが、精神障害、身体障害、すべての障害の方がいます
―働ける人でないと受け入れは難しいですね。
小菅 ある程度働くことが課題となっている人が利用する事業という位置づけです。トイレの支援とか日常の実の回りの世話が必要な人は生活介護事業があります。それよりはある程度働ける人という位置づけですが、実際はそうでない人もいます。
―スタッフは。
小菅 19名です。
お花に選択と集中
―この施設はいつできたのですか。
小菅 昭和56年、2市1町で一つも障害者就労の認可施設がなかったので共同で作業所を作ろうと設置されました。その後、入間東部福祉会という社会福祉法人を作って、運営が移管されました。
―当初から花を扱っていたのですか。
小菅 細々とやってはいましたが、自分が来てから大々的に。
―いつ頃ですか。
小菅 20年ほど前からです。
―どのようなお考えからですか。
小菅 選択と集中をしていかないとこれから先乗り切れないだろうと考えまして。もうからないものは廃止してもうかるものに集中して投資、運営していこうと。
―企業経営の考え方を取り入れたということでしょうか。
小菅 こういう施設はもうからない仕事を長々とやっているところが多いです。いろいろ理由があり、障害特性にこの仕事が合っているとか、つてがあってもらってきてくれた仕事だからとか、ある。社会的に弱い立場なので、せっかくいただいた仕事なのに自らやめるとはなかなか言えません。一般的な作業所は旧態依然のもうからない仕事とわかっていてもやめられず、次の一手が見つからない土壌があると思います。
しかし利用者も地域の中で活躍して生きがいをもって働いてもらいたい、自己肯定感と言いますか自分も社会の一員として必要にされている、自分でがんばればがんばれると、仕事を通して生きがいを見出してもらいたい。そのためにはある程度の仕事を確保してあげないといけないということが一つあります。
作業所である程度の給料を保証しないと生活できない
もう一つは、利用者の工賃です。障害者の経済的バックグラウンドは障害年金だけです。安い方だと6万円ちょっとくらい。家族がいなくなった段階でどう生活しますか。生活ができない。作業所である程度の給料を保証してあげないと生活ができない。
より利用者が社会で活躍できる場を確保すること、工賃を高くしてあげること、二つの目的からきちんとした仕事を保証してあげなければいけないという理由で、もうからない仕事を廃止しもうかる仕事になるように業務シフトをしていったのです。
―今工賃はどのくらいですか。
小菅 まだまだですが平均月25000円弱です。全国の平均が15000円から6000円と言われているので、それよりは多い。
―障害者のやりがいにつながっていると感じますか。
小菅 売れた花が公園で咲いてますとか、うちの花があそこの花屋さんで売っていたとか。結構みんなが見ていて、嬉しそうに話をしていています。
花づくり、農業は基本的に障害者に向いている
―すべての工程に障害者が
小菅 そうです。花を育て、販売、植え込みもします。市場にも一緒に行きます。みんなの力がなければ事業は行えません。
―花とか農業は障害者に向いた仕事だと思いますか
小菅 花を作るのは、障害を持っている人には基本的には合っていると思います。いろいろな仕事が提供できるし、体を動かす仕事は得意なところもあるし、利用者の情緒の安定につながる面もあるし、食べ物をやると衛生面で気を使うがそれもありません。ただ、花ではできない人もいるので、別の仕事も用意しています。
―何ですか。
小菅 ダイレクトメールの封入封かん作業です。お花だけだと外の仕事なので、いろいろな障害を持った人に得意不得意があり、車椅子の人もいますし、特性を活かすには園芸だけで足りません。
―こちらのお花は品質もいいし、値段も安い それを可能にしているのは、障害者でもうまく指導すればできるということですか
小菅 そうです。この人はどういう特性があるかどういう仕事ができるか、よくよく評価をして、その人に合った仕事を割り振って、それで全体を動かしていくということ。普通の人なら1人でもできるような仕事を3人で分けるとか、事業を細分化して工夫をしながら、仕事を組み立てていくやり方をすれば十分可能だと思います。
―よく障害者は単純作業に向いていて粘り強いとか言いますが
小菅 いろいろですね。いちがいに言えません。そういう人もいますし、まったくできない人もいます。だから、そうした特性を一人一人職員の方でつかんで合った仕事を提供していくのがポイントでしょう。
―難しい課題は。
小菅 やはり販売先を探すのが大変です。待っていても仕事は来ないですから。こちらから営業していかなければいけません。
―さらに事業を拡大するには。
小菅 エリアを広げていかないとダメなので。少しずつ都内にも広げています。
選ばれる事業所になるように
―利用者が定員オーバーをしているということは、障害者にも人気があるわけですね。
小菅 今、施設も選ばれる時代です。利用者さんが集まらない事業所もあります。利用者さんに魅力のある、選ばれる事業所になれるよう、これからも努めていきたいです。
―小菅さんは、こちらに来られるまでは。
小菅 ここに来るまでは、三芳町にある入所施設にいました。それまでサラリーマンでした。
―福祉に入った動機は
小菅 一つはサラリーマンは合わないなと。もう一つ、学生時代いろいろボランティアをやっていて福祉に興味はありました。
―お年は。
小菅 47歳です。
(取材2019年12月)
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