山梨県北杜市須玉町の山あいに数軒の旅館が立ち並ぶ増富温泉は、日本でも有数のラジウム温泉だ。古い温泉街で、ひときわ目立つのが日帰り温泉の「増富の湯」。運営するのは、人々の健康を増進するための保養地づくりを目指す一般社団法人「護持の里たまゆら」だ。ラジウム湯に長く浸かる温泉療法を推進する他、周辺で自然と触れ合う環境整備を進めている。小山芳久代表理事にお話をうかがった。
武田信玄の隠し湯
-増富温泉はどのような温泉ですか。
小山 今から450年ほど前の戦国時代、武田信玄が金山開発の折に発見、「信玄公の隠し湯」として始まりました。その後、明治の末期頃に、温泉水のラジウムの含有量が非常に多いことがわかり、日本最初のラジウム鉱泉として認められました。
-ラジウムが多いのはどうしてですか。
小山 元々、このあたりの地形は、1千万年前に日本海側からと太平洋側からのプレートが押し合い、隆起した岩盤の上にあります。瑞牆山(みずがきやま)や金峰山はそれでできた山です。地下深層にあった鉱物が盛り上がり、露出。ラジウム層(ウランが変化)から微量の自然の放射線が出ており、通ってきたお湯がラジウム泉になります。さらに、温泉地から少し上に行くと、ゲルマニウムの地層があり、1500mまで上がると信玄の隠し金山と言われる金鉱の跡、2000m以上になると、水晶がとれます。
-ラジウムとはラドンと同じですか。
小山 ラジウムイコールラドンです。ラジウムは、ウランが90億年かけて鉛に変化する過程でできる物質です。ラドンは、ラジウムが変化する時出すガスです。
-増富温泉は、有名な玉川温泉(秋田県)と同じタイプの温泉と言ってよいですか。
小山 ラジウム温泉としては、三朝温泉(鳥取県)が西の横綱、増富は東の横綱とされています。玉川温泉は、岩盤浴のラジウム浴として有名です。また玉川は強酸泉で、岩盤浴の後お湯の刺激効果でガンを治すとされています。私たちは、三朝、玉川と、ラジウム・ラドン連携協議会という活動をしています。さらに、新潟県の五頭温泉郷にある村杉温泉、三朝の隣の関金温泉も一緒に加わっています。
30分以上の入浴で、デトックス効果を高める
-ラジウム温泉の効能は何ですか。
小山 いろいろな効能が掲げられていますが、一番はデトックス(毒抜き)だと考えています。放射線は波動ですから、放射線の振動が、体にある毒素をはがしていきます。皮膚を通して体内の水液が出ていく時に、皮膚の下の脂肪の中にたまっている重金属などいろいろな毒素を出していきます。逆に皮膚浸透で源泉を吸収することもあり、30分で約10ccの源泉が入ります。
自分の持つ生命力とか免疫力とかの力をそのまま発揮し、細胞の入れ替え、再生ができればよいが、身体に毒素があるとそれを中和するのに無駄なエネルギーを使ってしまいます。だから少しでも、体の復元力を高める仕組みを作ることが重要で、その役に立てるのが、ラジウム温泉であると考えています。戦後まもなく原爆の後遺症に悩む人たちの療養地として厚生省より指定され、多くの方のケアもしました。
-ここではお湯がぬるいですね。
小山 ここでは、長湯をすすめています。お湯は、25度、30度、35度、37度の4種類の温度設定の源泉かけ流し風呂を用意し、一番心地よく30分から1時間入れる場所を見つけてくださいと。長湯をすることで血液循環やホルモンバランスを整え、デトックス効果が高まるほか、体が芯から温まります。ぬる湯で最後に寒かったら、温かいお湯に入って出ることが大事です。
-長湯は温泉地共通ですか。
小山 旅館によって多少入り方は違いますが、どこも比較的長いです。
保養地による地域興し
-この施設はいつからですか。
小山 ここは20年ほど前、当時の須玉町(現在北杜市須玉町)が作った施設です。私たち一般社団法人護持の里たまゆらは、指定管理者として運営、管理しています。
-どのような目的で運営されているのでしょうか。
小山 地域活性をしながら温泉郷と共に発展していく仕組みが大事です。今、温泉の後継者も自分たちは保養で生きると考えており、保養地作りが地域興しにつながります。その為には住んでいる人たちの元気づくりをしていかなければ、保養地も作れない。私たちは、地元のおじいちゃん、おばあちゃんの生きがい、元気づくりに貢献する仕組みの実践を行っています。
-背景には、温泉地の衰退があるのではないですか。
小山 お客様に関して、昔はもっと多かったと思います。生活のスタイルが変わり、道路状況もよくなり、日帰りする方が増えています。少子化もあり、少しずつお客の減少に悩んでいます。その中で、滞在型保養地を作り上げていく。そのために、心と体のケアーをする仕組みを作ろうということです。
宿泊施設(みずがき山リーゼンヒュッテ)で自然体験
-具体的活動は。
小山 ラジウム源泉を利用した温泉療法に加えて、自然散策をして自然のエネルギーを得るための自然体験、農薬を使わない農地での農作業、収穫した安全な野菜を使う食育の実践パワースポットでの氣功体験などです。私どもは、宿泊施設(みずがき山リーゼンヒュッテ)も運営しており、滞在できる保養地としての環境整備を着々としています。宿泊施設には、グラウンド、農業ができる場所、裸足で歩く道、日光浴をする場所、手作り遊歩道などを整備し、一日過ごせる場にして温泉浴と組み合わせる事業を進めています。
-BMWやクロレラを培養しているのですか。
小山 BMWは、「バクテリア・ミネラル・ウォーター」。山梨大学と連携して、クロレラと一緒に培養しています。農地にまくと、植物はバクテリアが作る酵素を吸収して元気になります。
-保養地づくりの活動は、人々の健康を増進し、病気をいやすということですね。
小山 ガン、糖尿病など生活習慣病、認知症、ひきこもりなどストレス病、高齢者の介護予防。私たちができることは、その方たちの心と体をケアする仕組みです。だんだん見えてきたのは、自然のリズムから離れるほど病気になるということです。自然欠乏症候群です。都会で、満員電車に揺られ、終日エアコン環境でパソコンに向かい、太陽の光がどこにわからない。周りはビルばかり、においは排気ガス。聞こえるのは雑音。五感が人工的に左右されている。本来は五感が自然でチェックされて、体は安定する。小川のせせらぎや鳥のさえずり、そういうリズムを感じることで、体が安定している。ベースになる生きる力、治す力は、自然と対話する仕組みを作ることで改善のお手伝いはできると思っています。私たちは、病院ではないが、やろうとしていることに賛同してくれる医師がいて、ガン治療のために食のアドバイスをいただくなど、医療とも連携しています。
自然の放射能と人工の放射能は異なる
-施設の運営はどうですか。
小山 大変です。よく続いていると思います。ただ、スタッフも、この地で世の中のためになる仕組みを作ろうとがんばっているところです。
-東日本大震災での福島原子力発電所事故で世の中には放射能アレルギーが広がりました。
小山 多少影響があります。ただ、人工の放射線と自然の放射線は違うと思います。元々地球ができた時、ものすごい量の放射線があり、今は半減期。体には自然の放射線が入れば、利用し、流すという仕組みができています。人工の放射線は体内にとどまってしまうのです。
増富の湯HP http://masutominoyu.com/
(取材2017年2月)
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