豊島区在住の前澤博一さん(69)は、無料学習支援、高齢者向けサロン、民生委員など、多様なボランティア活動に取り組んでいる。このほど地域福祉ポータルサイト、「こもこもひろば」を立ち上げた。前澤さんを突き動かしているのは、現役の新聞社勤務時代に果たせなかった、困っている人の役に立つという使命感という。
―多様な地域ボランティア活動に取り組んでいるそうですね。
前澤 僕の活動には、3つの柱があります。第1は、無料学習支援。第2は、「としま こもこもwネットワーク」の仲間とかかわっている地域福祉活動、3番目は民生委員などの活動です。
ほぼ毎日ある無料学習支援
―無料学習支援とは子ども達に勉強を教えるということですか。
前澤 僕は退職してから、無料の学習支援を始めました。最初はジャンプという中高生施設や児童養護施設で教えたりしていましたが、今は池袋の学習支援団体「クローバー」(水)と「WAKUWAKU勉強会」(火)、千早小学校のあおぞら学習会(木)に参加、放課後の時間に勉強を教えます。10月から2月の都立高校入試までは月曜日と金曜日も受験生対象のクローバープラスがあり、これで1週間埋まってしまいます。この他に個別で、大学受験生などを教えているので、週7~8コマある時期もあります。
―どんな子が対象なのですか。
前澤 誰でもOKなのですが、基本は学力に問題のある子や、塾には行けない子です。
―塾とは違うわけですね。
前澤 すべて謝礼のいらないボランティア活動ですので、塾とは違います。
高齢者サロン「らくゆうサロン 千川の杜」
―第2の柱である地域福祉活動はどのような内容ですか。
前澤 退職後、学習支援に加えて、社会福祉協議会の地域福祉サポーターに応募しました。「ゆるやかな見守り」、どこかに困っている人がいたら助けましょうという趣旨でしたが、町を歩いている人が徘徊しているのか散歩しているのか区別できませんから、ほとんど活動がありません。そこで小雪会(おせっかい)という仲間を作り、高齢者サロンという形で立ち上げたのが「らくゆうサロン 千川の杜」です。千川の杜という特別養護老人ホームに地域交流のためのスペースがあり、そこで毎月2回開いていて、もう3年になります。
―どのような人が集まるのですか。
前澤 私のいる地域は豊島区の西部圏域と呼んでいますが、有楽町線沿線の要町、千川を中心に千早、高松、長崎の一部がカバーされます。地域のお年寄りにおしゃべりをしたり、イベントを楽しんだりしてもらう場です。一人暮らしの人が多いですが、ご夫婦で来られる人もいます。ただ、ご夫婦のどちらかが具合が悪くなると来られなくなる人が多く、参加者は全体で20~30人ほど、それに地元のボランティアが10人ばかりで運営しています。
―他と違う特徴がありますか。
前澤 高齢者向けサロンにはいろいろあります。そのうち区や包括支援センターなど行政が運営しているのは、体操だけ、登録者だけとかだんだん厳しくなり、お茶も出ないところがあるようです。私たちは豊島区民社会福祉協議会から1回1500円の助成金もらい、コーヒーは「楽の会リーラ」という引きこもりの団体から買って、ボランティアがドリップして淹れています。お菓子も用意します。まずおしゃべりをしてもらうことが、ストレス解消になります。うちは自由度が高いのではないでしょうか。
―具体的にどのような活動を。
前澤 第2火曜日は、体操と歌。第4土曜日はマンドリンのオーケストラ、ブラスバンドや弦楽四重奏、落語、小唄、講演会などいろいろなイベントを企画します。メンバーが知り合いなどを連れて来てやってもらうので、多彩な催しができていると思います。
らくゆうサロンでの催し (明治大学マンドリン倶楽部OB会メモリアルオーケストラ)
―介護が必要な人や病気の人は来られませんね。
前澤 やはりある程度元気な人でないと。歩きや自転車で来るわけですから。結果的に近隣の人が多いですね。要支援以下の人を対象にして、介護状態にならないように予防するという意義があるのだと思います。
―体が元気でも、引きこもっている人は出てこないのではないですか。
前澤 それはどこも困っています。福祉の世界で「outreach」といいますが、家まで行って、いらっしゃいということがないと、なかなか来ません。僕は民生委員もやっているので戸別訪問で知り合った一人暮らしの人などに声をかけたりはしています。
―他の地域福祉活動は。
前澤 その次に、「せんかわ ふろさとひろば」。日比さんという方が中心になって始めて、月1回開き、もうすぐ2年になります。高齢者と子連れのお母さんに来てもらい、子どもの面倒を見ながら世代間の交流をしましょうという狙いです。お母さんも子どもの手が離れ、リラックスできる。やはり特養「千川の杜」のスペースを利用していますが、同じ敷地内に保育園があり、保育士や助産師の人も来てくれます。
得意なものを作り販売する「めだかサロン」
―「めだかサロン」とは。
前澤 今年度から始めたのが、「めだかサロン」です。上池袋に「きんぎょサロン」という先例があり、うちの地元の要町朝焼けこども食堂に寄付してくれていた。それでは自分たちもやろうと。高齢者の主に女性ですが、縫物とか編み物とかで得意なものを作ってもらって、区民ひろばで販売。収益金はこども食堂に寄付しています。月2回、特養と区民広場で集まっています。何かが得意な人がそうでない人を教える形で、仲間内で助け合って作ります。家にもって帰って作業する方も多いですね。
めだかサロンの様子
―作品は売れる。
前澤 区民広場のバザーとかで、よく売れます。みんながそういう活動に協力したいという気持ちがあるから、ちょっと自分では作れないと思うものがあると買ってくれるようです。
―他は。
前澤 「かわら版」は別の人が担当。地域福祉ポータルサイト(「こもこもひろば」)は僕がシステムの専門家に手伝ってもらって作りました。
やはり今年度始めたのに、「西豊島シニアネット」があります。男性だけで、今11人がメンバーです。自分たちで勉強会を開く。最近では「日本酒基礎講座」。3時から始め、5時からは飲み会。男性は地域に知り合いがいないので、仲間づくりになります。
―地域福祉のボランティアの他、民生委員もされている。
前澤 長崎第二地区、普通は西部圏域と呼びますが、約700世帯が対象です。民生委員を引き受けると半ば自動的に町会の役員にもなり、区民ひろばの理事(広報担当)もやるようになりました。
独り暮らしの、まだ元気な高齢者が対象
―このような活動はどういう役に立っていると言ったらよいですか。
前澤 高齢者はひまなんです。女の人は、夫が亡くなって独り暮らしの人が多い。それでもまだ元気。昼間はあまりやることがない。そういう人たちが来て、話をしたり、手を動かしたり、相談したり、いろいろ楽しんでもらったりする場を提供しているということですね。
―高齢者に必要なのは場だということでしょうか。
前澤 それと情報です。「こもこもひろば」を始めた目的は情報なんです。普通の人は、どこで何が起きているのか情報がない。民生委員でもわからないことが多い。たとえば学習支援はどんな団体がどんな活動をしているかまでは知らない。僕は特に子育ての分野が弱い。そこで、ポータルサイトを作り、自分で調べて、いろいろな情報を集約し、チラシ類も全部PDFにして入れる。民生委員や地域福祉サポーターのところにはいろいろな資料が送られてくるのですが、これまでは捨てていた。それを全部掲載。これを見ればどんなサービスがあるか全部わかるようにしました。
昨年は区民ひろば千早のホームぺージを作成、一昨年はクローバー学習支援会のホームぺージ、今年は「こもこもひろば」で、3年続けてホームぺージを作りました。
―こんなに多様なことをやっている人はあまりいないのではないですか。
前澤 多様だとしたら、子ども若者の学習支援をやり、高齢者福祉をやり、民生委員もやっていることかな。それに社協の災害ボランティア、町会では防災を担当しています。大震災時に避難の支援が必要な人も、町会で手分けして全員に当たり、いざというときに助けに行けるよう名簿を作りました。ここまでやっている町会は少ないかもしれません。
―スケジュールはどうなっているのですか。
前澤 時期によって違いますが、半年間は毎日学習支援、これに仲間との地域福祉活動、民生委員活動が加わる。それに、参加するセミナーなども多いです。たとえば外国籍の子どもたちの支援のフォーラム、医療や介護に関するセミナー、災害ボランティアの研修など、いろいろな行事があります。
―疲れが出ませんか。
前澤 昨年暮れに、全身が肩こりのようになり、動けなくなりました。2日間寝ているだけで治りましたが。
困っている人のサポートをしたい
―このように、ボランティアに励むのはどうしてですか。
前澤 僕は困っている人を助ける仕事をしょうと思って新聞社に入社しました。ところが、証券とか金融とか、お金持ちを助けるような仕事ばかり。それでも知的な興味から仕事は面白いから、辞めなかった。退職して、ひまにしているのは耐えられず、困っている人のサポートをしたいと動き出したわけです。
―お年は。
前澤 今69歳。2014年に退職しました。今年70で、黄金の10年の前半を終えたことになります。
―課題は何ですか。
前澤 退職してからボランティアを始める人が多いので、仲間がみな高齢です。すると、どうやって続けるか、難しい。手を広げても、次をどうするかが悩みです。
(取材2019年2月)
「こもこもひろば」ホームぺージ https://comocomohiroba.org/
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