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襖や障子を張る経師屋 住宅の洋風化で仕事が変化

襖(ふすま)や障子(しょうじ)など表具を張る職人を「経師屋」(きょうじや)と呼ぶ。しかし、和室を作らない住宅が多くなり、表具の仕事が減少、経師屋の意味を知らない人が増えている。経師屋はどのような仕事で、職人は今どうしているのか。富士見市で長年経師屋を営んできた佐藤升美さんにお話をうかがった。

襖は骨の削りから経師屋が作る

―経師屋さんとはどんな仕事をするのですか。

佐藤 経師屋の仕事は、襖、障子、屏風、あと掛け軸の表装があります。

―紙を張るということですか。

佐藤 襖は骨(既存骨は取り寄せ)の削りから完成まで経師屋が作ります。障子の場合は、建具は建具屋さんが作り、経師屋がやる仕事は障子を張るだけです。あと洋間と和室の間仕切りにベニヤでできた戸襖があるが、それは建具屋が作り、片面だけ経師屋がやる。

掛け軸は非常に手先の細かい仕事で根気がいるので、昔は経師屋がやっていたが、40年くらい前から掛け軸専門に分かれ、掛け持ちはしていないですね。

今はクロス張りがメイン

―一番多い仕事は何ですか。

佐藤 経師屋としては襖と障子だが、近年はそれではやっていけません。壁のクロス張り、床のクッションフロアー張りをやらないと生活が成り立たない。なぜかと言うと、近年の新築は、特に大手ハウスメーカーの場合は、若い人が和室を要望しない傾向になってきて和室のない住宅が増えている。襖、障子がない。和室は作る方も白木を使うなど、お金がかかる。メンテナンスも、障子は3年に1回張り替えなければいけない。襖は7年に1回くらい。洋間ならクロス張っちゃえば10年、20年平気。材料も、直接に見せるわけではないから、少し節の多い木材でも大丈夫。建築会社にすると和室は作らない方がいいのです。

―仕事は建設会社から請けるのですか。

佐藤 建築屋さんから頼まれるのと個人から頼まれるのと両方あります。経師屋によってタイプがあり、一般のフリーのお客さんをメインにしているところと、そうではないところ。私らは、小さい建築会社、工務店の下請けです。工務店に入らないと、一般のフリーのお客で、電話での依頼だけをあてにしていたらやっていけません。

―仕事は現場でやるのですか。

佐藤 クロス張りの場合は現場でやる以外ない。襖の場合は、引き上げてきて、自分の仕事場で作って完成させてから納める。障子もうちへ持ってきます。

専門の道具と年季

―プロと素人の違いはどこにあるのでしょう。

佐藤 それは伊達に修行は積んでいないこともあるし、素人さんはまず道具がない。道具がないとできません。襖の縁をはずして収めて引手を入れてとなると、引手は専門の道具がないと入らない。また作業するスペースがあるかないか。

―素人でも自分で張る人もいます。

佐藤 器用な人は、襖や障子を張る。昔の人は暮れになると障子を自分で張った。昔の人の方が今より器用だったかもしれません。

―材料は。

佐藤 今ならホームセンターに売っている。糊はなければヤマト糊でもいい。刷毛も売っている。縁をはずすカジヤという道具もあります。

―障子の張り方の難しさは。

佐藤 昔は桟ごとに張っていた。今は巻になった1枚もので貼るので昔より簡単になった。ただ1メートルくらいの定規がないと無理。それと売っている紙は2枚、4枚分で丸めてあるので、紙にクセがついちゃう。

―既製品はあるのですか。

佐藤 あります。ホームセンターですごく安く売っている。機械で作っており、見た目はきれい。以前のマンションの襖は段ボール襖。縁は接着剤でついていて、はずせない。

―経師屋(表具屋)さんはどのくらいの規模が多いのですか。

佐藤 1人親方か職人を1人抱えているくらいの店が普通で、手広くて2人くらいの職人がいる店でしょうか。

今の人は経師屋が読めない

―経師屋という看板を掲げている店は今でもあるのですか。

佐藤 ないのでは。今の人は読めないと思います。

―一般の人が仕事を依頼するにはどうすればよいですか。

佐藤 まず工務店に頼むのがよいでしょう。そこからつないでくれます。必ず抱えていますから。

―職人も減っているのですか。

佐藤 私たちの息子の代の経師屋は、カンナを使えません。カンナは、思うように削れるようになるには5~6年かかります。

―クロス張りの方が楽なのですか。

佐藤 襖を作るのにはそれなりに年季がいります。だから経師屋に年季奉公したわけ。クロスの方がマスターは早い。クロス張りの場合は要領ですね。だから器用な人なら半年やっていれば、親方がついてチェックしてやればできるようになる。

職人の減少

―経師屋は必要なくなるということでしょうか。

佐藤 なくなることはないが、減ってはいくでしょう。畳屋も同じです。左官屋も今少ない。タイル屋さんも。昔風呂はタイルだったが、今はユニット。一日でできる。タイルのようにひび割れはないし、防水は抜群だし。熱がとられないから沸きも早い。今、風呂場を全面タイルにする人はいない。台所もタイルはない。あるのは玄関くらい。

―佐藤さんはどのようにして経師屋になったのですか。

佐藤 私は工学系の大学を中退して、経師屋やインテリア店に材料を納めている2次問屋に入りました。それまで表具店、経師屋という職業は知らなかったのですが、こういう仕事もあるのだなと。自分は元々理系だから実際にやる仕事の方が向いているかなと心に秘めて2年間で代理店をやめて、経師屋の見習いに入った。デスクワークより自分で作る方が好きだったということです。

―元々手仕事が好きだった。

佐藤 小さい頃は、プラモデル少年でした。マルサンとか、マブチとか。マルサンはもうないでしょうか。

―どこの表具店に入ったのですか。

佐藤 最初は保谷。しかし職人さんはいい意味でも悪い意味でも職人気質というのがある。最初は1カ月でやめ、大泉の経師屋に入って5年ほどやりました。そこは親方が非常に穏やかな人で口うるさく言わない人だった。職人気質の出ない親方でしたね。奥さんも穏やかな人でした。だから5年間奉公できたと思います。

―それから独立した。

佐藤 最初は富士見市みずほ台で2年間店を構えて、それから鶴瀬に移りました。今息子と一緒に仕事をしています。

仕事中の佐藤さん

昔は建築現場に仮設トイレがなくて大変

―今、おいくつですか。

佐藤 昭和25年生まれです。

―この仕事で大変なことは何でしょう。

佐藤 昔は建築現場に仮設トイレがなくて大変でした。あとは、たまに水道が出ないとか、冬場で凍っていて30分くらい待つとか。ヒーターやドライヤーで蛇口を温めるとかもやりました。

―今コロナの影響はどうですか。

佐藤 賃貸の不動産の出入りが少なくなっている。退居者が出ても次が決まるあてがないから、内装工事をやらない。少しずつ持ち直しており、私は恵まれている方だが、去年の半分程度です。

―今の時代、職人の技術は貴重なのではないですか。

佐藤 手に職を持っていると食いっぱぐれはないとよく言われる。確かに運転手なら免許証があればだれでもできるから換えがいつでもできる。手に職を持っている人はその人以外はできないので強みはあると思います。

新規の襖もできる

―佐藤さんしかできない仕事は何だと言ったらよいですか。

佐藤 今40代、50代でやっている人は新規の襖はできないかもしれませんが、私はまだできます。あと、難しい茶室の腰貼りとか。ああいうのは決まりがあるので、知っていないとできないです。

(取材2020年10月)

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