埼玉県北部、熊谷市の旧江南町に立つ藤の巨木「江南の藤」。一本の木からできた藤棚は面積525㎡に及び、県内最大級だ。毎年開花時には一般公開され、訪れる人の目を楽しませる。江南の藤保存会会長の大島敬冶さんが中心になり、長い間維持管理に努め、育ててきた。
秩父・両神から移植、樹齢140年
―何という種類の藤ですか。
大島 ノダナガフジという藤です。房が長くなるのが特徴で、淡紫色の色合いが美しく、甘い香りがします。
―樹齢は140年ということですが。
大島 私の母が秩父の両神村(現小鹿野町両神)の出なのですが、母の実弟が造園業を営んでおりましたので、43年ほど前、私が家を建てる際、約100年ほどたっていた木をこちらに移植してくれました。
―藤としては大きい。
大島 これは1本の木で棚を作り上げてあります。木は、幹回りが2m10㎝、棚も35m*15mで525㎡あります。熊谷市の教育委員会の方が県内を調査したところ、木の太さ、棚としても一本の木としては県内最大級とのことです。
保存会で維持管理
―大島さんのご自宅の庭にあるのですね。
大島 そうです。元々私が育てていたのですが、維持管理に手間がかかりますので、市の教育委員会が保存会形式にしたらどうかと。2012年に埼玉県に生物多様性保全活動団体ができましたので、「江南の藤保存会」として登録いただきました。
―維持管理の作業は大変ですか。
大島 花の期間は10日から2週間くらいですが、その後が大変です。まず花を落とさなくてはなりません。22名の人員が必要です。一葉くらいを残しあとは全部落とします。種をつけると木が弱り、花が咲いてもムラができてすだれのようになりません。
それが終わってから、肥料をやります。昔は牛の骨の肥料があったのですが、狂牛病の関係で禁止になり、今は魚粉骨粉を使っています。それを根に浸み込ませて、それが十分蔓の先まで行くようにすると、花芽がそれを吸い、花が多くつくようになります。
梅雨期と秋にキノコが出るので困ります。そのままにしておくと木を枯らすので、動力噴霧器で殺菌消毒を年2回やらなければなりません。蔓をせん定するのは12月中旬以降、葉が落ちてからです。棚が大きいので、葉も相当落ち、片づけがリヤカーで20台くらい運びます。
―保存会のメンバーは。
大島 女性たちが22名います。ただ、年齢が上がり、脚立に乗って花落としが難しくなり、最近はシルバー人材センターにもお願いしています。
―咲くのはいつ。
大島 例年は4月下旬から5月上旬ですが、今年は遅れました。桜の開花は早かったのですが、3月は天気がぐつつき、4月には雪が降ったので、花芽が伸びず、1週間くらい遅れました。
―公開はいつから。
大島 43年前からです。
だんだん棚を大きく
―大島さんはお年は。
大島 70歳です。
―お仕事は。
大島 以前は銀行員でしたが、定年を機に行政書士を開業しました。
―ブルーベリー園も経営されている。
大島 親の代から引き継いでいる畑で大粒のブルーベリーを栽培し、摘み取りできるようにしています。
―藤との関わりを振り返ってどうですか。
大島 小さく始めたのですが、年々給料とボーナスをつぎ込むようになりました。植木は元々好きなんですが、この藤は房が長くきれいな色で甘い香りが漂い、だんだん棚を大きくして参りました。これからも良い花を咲かせるようがんばってまいります。
(取材2019年5月)
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