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外国人労働者受け入れ 新入管法は底辺労働を生み出す恐れ、 技能実習制度をベースに

産業界で人手不足が深刻化しており、その対策として外国人労働力の受け入れ拡大が始まった。4月から入管法(出入国管理及び難民認定法)が改正され、一定の技能水準を持てば、在留資格が与えられることになった。ただ、外国人受け入れには従来から技能実習制度がある。新しい制度との兼ね合いをどう考えればよいのか。また、人手不足の慢性化している介護現場での対策は何か、外国人は活用できるのか。外国人労働、介護労働に詳しい北浦正行日本生産性本部参与にお話をうかがった。

北浦正行 日本生産性本部参与。1973年一橋大学卒、労働省(現厚生労働省)入省。96年退官、日本生産性本部入職。17年退職して参与。武蔵大学客員教授。横浜商科大学理事。外国人技能実習生受け入れ団体、アイフォース理事。外国人介護人材受入協議会などのほか多くの政府関係委員会に参加。著書、論文に『介護労働者の人事管理』など多数。

新入管法では教育ができない

―今回、入管法が改正されて、外国人人材の受け入れが拡大されることになったわけですが、どのように評価しますか。

北浦 今度の入管法の改正は、ちょっと準備不足で、論議も中途半端だったと思います。

問題は2つあります。1つは、国会論議や報道では従来の技能実習制度は、実習生が失踪する事件が起きるなど、よくない制度だとされた。しかし、そういう問題があるというから、2016年に技能実習制度を改正して厳しい法律にした。技能実習機構という監視機関ができた。すでに厳しいものになっているのに、技能実習はいいかげんな制度だから新しい制度が必要だという論法はおかしい。

2点目に、新入管法は単純労働が対象ではない。「一定の技能を持つ者」と書いてある。問題は、向こうの国で一定以上の技能を審査できるのかどうか。今の段階では技能水準を確認する試験をすることになっている。ところが、何年も勉強してからではなく、入り口なので、極めてやさしい試験になるはず。それだけで送り込まれたらどうなるか。十分な事前チェックがないと、入国後にフォローもできにくい制度であるため、底辺労働者作る政策になりかねない。

 

北浦 技能実習では、来てから徹底的に講習をやる。会社でもOJTを段階的にやり、節目節目で技能検定試験を受ける。ステップを踏みレベルアップする仕組みになっていて、国内の処遇も上がり、帰ってからもバリューが上がる。ところが新入管法はそういう仕組みがなく、入れたら入れっぱなし。教育は誰がやるか。会社がかってにやる。中小企業ではそんなゆとりがないかもしれない。技能実習の方がはるかに質が高い。

人手の足りない14業種を選定

―単純労働でも新しい入管法で入れることができるのでしょうか、

北浦 対象14業種が選定され、技能水準がある程度高いと認められれば入れます。業種の選定は業界の要望に沿っただけで、技能の基準はあるが、チェックはできない。技能実習は建前は国際交流、技術協力ですが、今回は人買い、人手不足対策です。だから法律の性格がまったく違う。人手の足りない14業種を集めただけにも見えます。

―飲食店や、建設は。

北浦 入っています。飲食店業界も新入管法に期待しています。

―14業種に含まれていない業種は。

北浦 入管法ではできません。ただ、今後追加されていく可能性はあります。

技能実習からの乗り換えで滞在期間延長

―新入管法で滞在期間が延長できるようになったということですが。

北浦 技能実習だと3年しかいられません。16年改正で優良な実施者は3号実習でプラス2年可能になりましたが、最長5年。そこへ入管法ができて5年、10年になった。すると、技能実習からの乗り換えが出てきます。たとえば、大企業製造業では技能実習が終わるまでは技能実習で終わったら乗り換える。そうすれば10年くらいいられる。中には、これまで技能実習をやっていないゼロベースの人もいる。入管法で入ってきて10年いることも可能になった。その結果、日本に帰化したり永住したりという人も出てくるでしょう。

―新入管法で入った労働者を支援する仕組みはないのですか。

北浦 今までの技能実習では受け入れ団体が責任を持ちましたが、新入管法では受け入れ団体はありません。企業の私契約で、現地に行き、この労働者はよいやつだと判断して採用し、日本にやって来れば終わりです。指導したり、監視するところがない。法務省は支援するサービス機関を作りましたが、監視機関ではない。企業間で、支援サービス事業を売り込む。今一番動いているのは日本語学校です。

法律を見ると、技能実習法では、この事業によって利益を得てはもうけてはいけないと書いてある。非営利でやらなければなりません。今回は何も書いていない。雇う方もサービスする方も利益を上げる。

以上のようなことから、外国人労働者に差がつくのは避けられないと言われている。問題は技能実習制度のない食材加工(総菜づくり)とか、観光。それらでどれだけまっとうな技能形成ができるかわからない。だから、安い、使い捨ての労働力を作ってしまう危険があります。14職種全体でそうなりそうだが、介護については慎重な議論がおこなわれています。(後述)。

手続きが遅れ

―すでに新入管法が施行され、外国人労働者が入っているのですか。

北浦 4月から山のように来ると言われていたが、今は、手続きが遅れ行けないのです。現地でもまだ試験ができる状態ではない。会社の方もとまどっている。技能実習は管理団体におんぶにだっこでしたが、今度はそれがありません。介護もベトナムで行けないと騒いでいる。借金して日本語学校に行き、すぐに行けると思っていたのに、待ちの状態で、彼らは向こうでアルバイトしています。

―技能認定に手間取っているのですか。

北浦 現地で試験をやります。それと日本語能力試験もあります

―日本政府に動きはないのですか。

北浦 現状を打開しようと、相談室設置、現地の試験づくりサポートとか、やり始めている。介護は都道府県に技能実習と同じ仕組みやらせている。技能実習をベースに、きちんとやろうという動きが出ている。そうでないとこわくて使えない。僕は、将来新入管法と技能実習を統合する段階が来ると見ています。

技能実習の後にオプションとして入管法を

―北浦さんは単純労働の受け入れには慎重であるべきとのご意見ですか。

北浦 難しいところですが、平成の始まり、バブルの時代も同じ議論がありました。実態として人はいなくなった。企業はみんな現地進出した。それを今回は日本に戻すのか。向こうでやっていればよいという議論もあります。

そういう意味では、前よりは緩和していってよいと思ってはいます。技能実習だけでなく、その後にオプションとして入管法をつけてもよい。ある程度できる人は残ってもよい。ただ、ゼロベースで最初から入れてしまう新入管法には危険な要素があります。

―しかし、足元では単純労働で人手不足が起き、外国人は不可欠との要望もあるわけですね。

北浦 第一順位が外国人なのかどうか。一番は生産性を上げるのが根幹。働き方改革もそうだし、技術革新が大きい。AIの活用もあるでしょう。生産性向上、国内の労働余力活用をやってせめてこのくらいならいいだろうということだと思います。外国人受け入れの具体的な数値目標が上げられていますが、業界からすると目標が先にありきになりかねないことに注意すべきでしょう。

―日本の賃金水準は高くなく、いずれ海外から来てくれなくなるという見方もあります。

北浦 その説もあります。台湾も中国も賃金が上がり、賃金だけなら日本に来る必然性はなくなってきています。ベトナムなどでは、ドイツが高い金を払って連れて行ってしまう。インドネシアやフィリッピンは日本との関係は割とありますが、ベトナム、ラオス、ミャンマーは韓国、中国などいろいろな国が来て持っていってしまう。

 

介護で大きいのは経営、財政問題

―介護をめぐる問題について。

北浦 一番大きいのは、財政問題です。負担と給付の関係を見直さないと、保険制度がたちゆかなくなってきました。そこで給付の切り下げの問題が出てきています。そこに団塊の世代のボリュームゾーンが受給層に加わることがパンチのように効いてきます(2025年問題)。だから、なるべく介護に依存しないように、予防に走れとか重度でないものは在宅でとか、市町村ではボランティアの活用で介護を金のかからない仕組みでできないのかとか、取り組みが始まっています。しかしなんでも介護保険制度への依存度を高めてきたので、今更に縮小していくような政策をとることは難しい。

介護は一体いくらかかるのか。介護は経営問題だと思います。小規模の施設が乱立した。ひどく採算が悪く、いかに統合できるかですが、なかなかできない。小さいところの効率性もあり、淘汰されない。経営構造が二重構造化しているのです。

30歳から賃金が上がらない

―介護労働に関してはどうでしょう。

北浦 以上を前提にすると、一番大きいのはやはり人手不足です。求人倍率も高い。ただ、離転職率が高いと言われているが、サービス産業の一つとしてはそれほど高くありません。

深刻なのは、中間リーダー層にとって先が見えないこと。先が見えないのは給料が上がらないからです。他のサービス業でもそうですが、30歳くらいまでは少し上がってもそこで止まってしまう。30歳を過ぎて男性が介護施設にいたら、「どうやって暮らすの」と言われる。この年齢でやめる人が多い。中間リーダー層の年齢だ。やめられると指導する人がいない。この層の定着問題は非常に大きい。若い人が辞めるのとは違う問題です。

2つ目は、来るべき人が来ない。給料が低いだけでなく魅力がない。専門学校や大学卒はいつかない以前に行かない。介護実習でいやになり、行きたくなくなる人がいっぱいいる。それと給料水準は、他の業界の方がよいので出ていく。介護に1年くらい勤めても、やめて他の産業に行く。一方で他の産業から来る人は少ない。

定年退職者の入職が増加

―それでは、どういう人が介護職に来ているのでしょう。

北浦 惹きつける最大の要素は時間です。短い時間でも働ける。結構自由度がある。普通のパートだとたとえば10時から4時とかデイタイムが拘束されます。介護の場合は朝2時間、夕方自転車2時間、合計4時間という形態がある。なかには週に10時間働かないパートがいっぱいいる。一日1時間だけとか。普通の会社では認められません。

また、多いのは定年退職者。女性の場合、看護師さん、保健士さん、医療福祉関係者。その人たちが介護関係の資格を取って入ってくる。男性は、ヘルパーの資格とって入る。ただ男性は無資格者が結構多い。ハローワークから来る。何をやるかというと、ワンボックスカーの運転です。朝と夕方の迎えと送り。運転手と言いながら、空き時間があると、クリスマスツリー作りとか雑用も。定年退職後の男性の介護入職は増えている。

―女性や高齢者の活用という点では前向きに見ることもできるのでは。

北浦 縁辺労働の活用です。ただ、どちらかというとバックヤードの部分が主です。本線のところは介護福祉士など有資格者が必要になります。

トラブルのサポート:職場のフラストレーションを減らす

―人手不足対策はどうすればよいのでしょうか。

北浦 介護労働も、魅力をもってもらえばよい。介護は喜ばれ、社会的に重要でやりがいのある仕事とされており、それをアピールするのは当然です。もう一つはやはり処遇です。30歳で止まる賃金体系でなく、安くてもよいから上がっていく体系を作る。

それと、職場のフラストレーションが高い。たとえば認知症の利用者からたたかれる。その時に、施設として助けてくれるかというと意外に冷たい。何かトラブルがあった時、上手にサポートできれば、逆にそういうことをこなしていくのがこの仕事だと転換できます。

―認知症問題は大きいのですね。

北浦 認知症の人が今増えています。認知症の場合、体の不自由は少なく、皆元気。ひどいのは徘徊になる。足にひもをつけることまでしないと逃げていく。ものすごい手間のかかる労働になる。普通の入所者は、アイコンタクトがあり、お世話をすると「ありがとう」と言われる。認知症の人はありがとうのかわりに、逆に怒鳴られてしまうこともあります。コミュニケーションが成り立たない、当番の人は、こんなに大変なのに誰も助けてくれないと感じる。それと、利用者だけでなく、家族からのプレッシャー。学校と同じ。「うちの家族に何をしてくれた」という苦情も多い。それがものすごく増えているとも言われます。

認知症ケアは、日本の介護労働の大問題です。それをやれる人間がどれだけいるか。しかし、今、世界的にもその技術水準が高いのは日本だと評価されています。日本は認知症ケアの最先端国なのです。

外国人は施設介護に限る

―介護労働への外国人活用は。

北浦 新入管法の議論で、介護業界は、能力水準をきちんとみなければいけない、日本語でできなければいけないと、いろいろなハードルを高くしています。

技能実習にもそもそも介護は入っていませんでした。16年の改正で入ったがいくつか条件がありました。1つは施設はよいけど外(訪問介護)には行かせない。2つ目は人数上限を設ける。日本人のスタッフがいて教えられる範囲内にする。こうして厳しくハードルを設け、しかも技能実習なので研修制度、試験制度、日本語能力認定をきちんと作った。

―外国人でも施設の人員にカウントできるのですね。

北浦 外国人の受け入れが施設の人員基準に認められることで、この面からの介護供給へのインパクトも出ている。今、東京あたりで介護施設ができないのは、建物はあっても人がいない。介護職がいないからです。介護施設を行うには人員基準と施設基準の2つあり、ハード面はクリアしても、介護をやれる資格者がいない。足りないから開けない。そこへ外国人を入れてカウントでき受け入れ幅広がるのは大きい。

―新しい入管法はどう位置づけられるのですか。

浦 介護に外国人を使っていこうという動きが広がっていることは事実。そこへ今度の新しい入管制度ができた。業界は技能実習でやることは徹底的にやって次は入管法というスタンスです。日本人の利用者に外国人の介護スタッフと付き合って大丈夫なのかという声があり、それに応えるためにも技能実習は守る。5年間きっちり勉強して5年間で満たせれば国家資格介護福祉士を取ってもらう。取れば永遠にいられる。業界としては残る人には全部資格をとってもらいたい。入管法は5年で資格とれない人のためのバイパスとして使えばよいというのが本音です。

病院と介護施設の思惑の違いはあります。病院は療養病床の介護にも外国人を使いたい。それと、あまり知られていませんが、外国人が関わる介護労働には障害者の介護も入っています。

 

労働省、生産性本部を経て、今は独立稼業

―北浦さんのご経歴を。

北浦 96年に労働省を早くやめました。日本生産性本部17年まで勤め、現在は非常勤の参与というポスト。渋谷に拠点を持ち、独立稼業いろいろなことをやっています。
1つは、武蔵大学客員教授(キャリア論)。若い人の将来設計を支援する講義です。あとはいろいろな団体、大学では、横浜商科大学の理事。人材派遣協会の顧問。原稿を執筆したり、最近多いのは、労働省の関係の団体の委員会のまとめ役。
また、外国人技能実習生受け入れ団体、アイフォースの理事をしており、最近急激に業務が増えてきている。介護問題については介護保険ができた頃からいろいろな委員会に参加してきました。講演会、シンポジウム、委員会など、介護関係で顔を出す機会が多い。介護の外国人技能実習の受け入れの委員会に呼ばれ、今度、新入管法で介護職種が入り、受け入れ協議会を作ったのですが、学識経験者が僕になった。介護、技能検定、技能実習がわかる人が他にいないということで。他で研究テーマとして大きかったのはテレワーク。日本テレワーク協会の副会長。30年近くしています。

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