合氣道の達人であった藤平光一氏が創始した心身統一による氣の健康術。通常の気功や呼吸法とどこが違うのか。川越市で氣の健康術を実践し、「氣ヒーリング研究所」を開いている和田晴夫さんにお話をうかがった。
―氣の健康術とは
和田 故藤平光一先生が始められた、「氣」による健康法です。天地自然と一体となる心身統一法、氣の呼吸法、氣圧法などから成ります。一言で言うと、心身が統一された状態になって氣が発動されれば、健康にもなるし、生き方にも良く影響してくるというものです。
―「氣」の字を使うのはなぜですか。
和田 今の教育漢字では、「気」と書きますね。しかし中の「メ」は「〆る」という意味で〆ると氣の流れが止まってしまいます。本来「气」は空のエネルギー、「米」は地のエネルギーを表し、両方合わせた「氣」は、つまり宇宙にあるエネルギーを表します。
氣は偏在、どこにでもあるのです。宇宙は、氣があつまってできている。たとえばものを分解していくと分子、原子、さらに原子核があり、量子と言われる世界になる。さらに分解し、これ以上小さくならないというレベルのものを「氣」と言っています。それが無限に集まって宇宙ができているのです。
その中に我々はいる。ちょうど魚と水の関係に例えればわかりやすいと思います。水の中に魚がいるが、魚は水を意識はしていない。同じように人間も氣を意識していないが、氣という海の中にいる。魚は水を体内に取り入れ酸素を吸収して、不要なものは排出して生きている。我々人間は氣と交流して生きている。
盛んに交流していることを「いき」ているといい、これが基本です。氣の流れが途絶えることを「気絶」といい、氣の流れが滞ったところに故障がおきます。ですからその流れを良くすることが基本です。
臍下の一点にこころをしずめる
―心身統一法とは。
和田 氣の流れを活発にするための方法です。心と体を統一した状態でないと、氣の流れが滞ってしまいます。心身統一には4つの原則があります。①臍下の一点にこころをしずめる、②全身の力を完全に抜く、③身体の重みは、総てその最下部におく、④氣を出す、です。
全部同じことを言っており、1つでもできていれば全部できており、1つでもできていなければ全部できていません。
―心身統一はどうすれば達成されますか。
和田 日常生活で常にこの原則を意識し、統一した状態でいることです。無意識で統一体なっているのが一番よい。そうなるためには潜在意識に4つの原則が浸透しければなりません。その為にはもちろん練習は必要ですが、これが楽しくできます。日頃、座り、立ち上がり、歩く、寝るなどの各動作に統一を切らさないように努力する。それができていれば、氣の流れはよくなり、健康になります。
たとえば、統一体で歩いていて人にぶつかられてもびくともしない。むしろぶつかった方が飛んでしまうくらい、強いです。
―呼吸法は具体的にどのようにやりますか。
和田 簡単に言えば、まず心身統一し、正しい姿勢をとります。そして、口から静かに吐きます。自分をガラスの器にたとえて、頭頂部の息から始まって胸、腹、腰、脚、足元と順番に息が出ていくイメージを持つと楽にできます。次に、吐き終わったら鼻から吸います。やはり、吸った息が足先から脚、腰、腹、胸、頭と徐々に満たされてゆくイメージ。これを繰り返します。
鼻から吸った空気が肺からさらに毛細血管の先端まで運ばれていく、そこで二酸化炭素と置き換わり、今度は二酸化炭素が肺を通って出ていくという流れを意識します。吸って肺まで届くのが外呼吸、さらに肺から末端の毛細血管まで届くのが内呼吸、両方同時に行うのが、全身呼吸すなわち「氣の呼吸法」です。
―1回の呼吸はどのくらいの長さが良いのでしょうか。
和田 5秒吸い5秒吐き、これで一呼吸10秒にするだけで大きく変わりますし、慣れてくれば20秒吸って20秒吐くことも楽にできるようになります。でも一呼吸が長ければよいというものではないです。
―回数はどのくらい。
和田 健康な状態なら1日30分で十分です。たとえば入院中で何もやることがなければ一日中でもやっていればいい。もちろん続けてやった方が効果があります。ただ、現代では多忙でなかなか30分じっとしていることはできませんから、どんな時でもいいです。電車の待ち時間、トイレ、冗談ですが、つまらない会議中とか、歩きながら、車を運転しながらでも。時間を作りやすいのは寝る前ですね。
―呼吸法で何が変わるのでしょうか。
和田 統一体で呼吸法を行えば毛細血管の先端まで血液が届き、体中に酸素が回ります。やっているとまず体が温かくなってきます。血のめぐりがよくなるのです。病氣になりにくくなりますし、病氣や怪我からの回復は早くなります。
「不老長寿の妙薬」
―どんな病氣に効果がありますか。
和田 どんな病氣でもこの呼吸法を行えばプラスになります。全身に常に新鮮な酸素が行き渡るのですから、氣がみなぎり、新陳代謝が活発になり、いつも若々しく元氣でいられます。 言ってみれば「不老長寿の妙薬」です。
―他の呼吸法との違いは。
和田 他のことは詳しくはわかりませんが、氣の呼吸法では力は入れてはいけません。吸った息を止めて吐くと、止めるところで力が入ります。どこにも力を入れないのはどういうことかと言うと、静かに吸って静かに吐くのです。力は使いません。
氣圧法
―氣圧法とは。
和田 外部から氣を補給して、生命力を活発化する方法です。元々「手当て」とは、痛いところに手を当てるから「手当て」といいます。お腹が痛ければお腹に手を当てる。手から出る氣が入っていき、お腹がよくなります。
―他人にも自分にもできるのですね。
和田 基本は同じです。自分にするのを「自己氣圧」といいます。
―どんな病気に効果がありますか。
和田 原則手が届くところならどこでもよいです。滞っている氣の流れを良くしてあげるということです。肩が凝っているということは、肩の氣の流れが滞っているわけです。氣の流れが良くなって、生命力が活発になるのです。
―修練が必要ですか。
和田 氣が出るようにするには、心身統一ができていないとダメです。心身統一ができていないで、氣圧をするのは無理です。心身が統一されていると氣は自分が出した分だけ入ってきますが、心身統一が乱れていると出しただけ、本人は欠乏症になってしまいます。
ただ、お母さんは子供がお腹が痛い時は手で触ってあげますよね。統一体とか意識しなくても、一生懸命集中することで、実は統一体になっていることもあります。
急性胃炎で倒れる
―和田さんが、氣の健康法に関わられたきっかけは何だったのですか。
和田 私は20代で現在の国際協力機構:JICAの前身の機関に入りました。最初は途上国から日本に研修生を受け入れたり開発投融資などの仕事に携わったのですが、30代でシンガポールに赴任し、プロジェクトの立上げから実施、完了まで関わりました。日本側の関係機関が多く内容は複雑多岐に亘り、現地政府・カウンターパートとのやり取りはもちろん全て英語で、しかもスピードが要求されたので、これらがものすごいストレスでした。ある日急性胃炎で倒れて救急車で運ばれてしまいました。私は中学生の頃からずっと運動をしており、身体には自信があったのですが、この時にただ身体が強いだけではダメだと、わかりました。
1986年に帰ってきた時、氣圧療法(当時の呼称)に出会ったのです。財団法人氣の研究会の藤平光一宗主にお会いしたところ、「身体の強さではなく心の持ち方が大切」という話を伺い、「これだ!」と。当時氣圧療法学院という学校があり、そこで2年間修行して一応卒業免状もいただきました。氣圧療法士の資格を得たわけです。今は、「氣圧法」と呼び、我々は「氣圧法認定者」です。
―氣の健康法はやってみてどうだったのですか。
和田 最初は、「本当?」ということの連続でした。心身統一の稽古も、びっしりで厳しかったですが、ちょっと気持ちが動いただけでも体に現れることを教えていただきました。氣圧法の実習をしたり、自分でも呼吸法や自己氣圧をやって、だんだんと心が身体に影響するということを理解・納得でき、自信もついてきました。
―氣の健康法は元々合氣道から始まったのでしょうか。
和田 合氣道は植芝盛平先生が創始された。藤平先生は合氣道の最高段位である十段位の方です。力は入れるより抜いた方が強いということを発見され、合氣道の本義は心身統一にあると説かれました。氣の研究会を創立され、心身統一合氣道と氣圧療法を始められたのです。
今は一般社団法人心身統一合氣道会として活動が継続され、氣の健康法や氣圧法も行われています。
―和田さんはその後も海外で仕事を。
和田 私は、JICAから日本生産性本部国際部に移りました。ちょうど氣圧療法学院を卒業してからです。そしてその後パリ、ブラジルに赴任しました。海外での仕事はすべてゼロからの立上げから始まる仕事でしたので、苦労は多かったですが、お陰様でそれ以来全くストレスにやられなくなりました。家族連れで外国で生活すると、それぞれの国で言葉も違い、習慣も違い、食べ物も違い、いろいろと問題もありましたが、氣を勉強していたおかげで、長期間に渡る海外赴任を楽しく過ごせました。
―現在は仕事は離れられたのですか。
和田 09年に58歳で退職したのですが、その後JICAの個別派遣専門家としてサウジアラビアに行き、技術研究所の組織運営のアドバイザーを2年間して来ました。その後日本国際協力センターというところでUAE(アラブ首長国連邦)のプロジェクトの立上げの仕事をして、13年夏で仕事を離れました。
和田氣圧療法研究所(現「氣ひーりんぐ研究所」)
―自身の研究所を開かれているのですか。
和田 学院を卒業後、和田氣圧療法研究所(現「氣ひーりんぐ研究所」)を開きました。時々頼まれて、氣圧療法をしたり、任地でも仕事の合間に講習会を開いたりしていました。ただ、本格的に氣圧療法を行うにはそれなりの設備も備えなければいけません。
―今後の活動は。
和田 できれば、これを普及していきたいです。藤平先生は、「世の中をいっぺんに明るくすることはできないが、ろうそくの火を1本ずつ増やしていけばいずれは明るくなる。お前たちは氣圧療法を勉強したが、そういう形で世の中に役に立つよう努力して行くように」と言われました。これを胆に銘じています。
夢は大きいです。まずは、誰でも氣の健康術ができる状況をつくりたい。一つの拠点があり、何人かの氣圧法習得者がいて、お医者さんとも連携して相談コーナーと診断・治療とができるスペースがある。そういう施設を作りたい。
―現状で和田さんに依頼するには。
和田 現状は施術の設備がありませんので、私が出向く形になります。教室は川越市の古谷公民館で開いています。
(和田さんの連絡先 080-5400-2510 メール mbuextendki@gmail.com)
(取材 2015年1月)
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