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有機農業のカリスマ 霜里農場(小川町)金子美登(よしのり)さん

埼玉県小川町で有機農業の普及に大きな貢献をした金子美登(よしのり)さんが2022年9月24日、74歳で死去しました。金子さんを偲び、本紙第15号(2008年7月)の記事を再掲します(その後変化している部分もありますが、そのまま掲載します)。


 

和紙の里、小川町で、金子美登(よしのり)さんは、1971年から有機農業に取り組む。営む霜里農場は生活も自給自足、いまや循環型有機農業の手本となり、日本だけでなく世界から研修生、見学者が訪れる。食の安全が叫ばれ、金子さんの思想、行き方はますます注目を浴びている。

金子美登さん

「命の糧」を消費者に直接届ける

60品目の旬の野菜、年中切れ目なく

たんぼ、畑それぞれ1.5㌶、全部で3㌶。他に山林が1.7㌶ 家畜は乳牛が3頭、ニワトリが2百羽、合鴨が60羽います。

基本的には豊かに自給する有機農業で、その延長線で消費者とつながっています。昭和50年から消費者と提携を始めた。当時はいくら無農薬をうたって作っても市場では認知されませんでしたので自分で消費者を探すしかなかったんです。消費者の方も公害問題などがあり、私たちのような変わった人を探していて、日本の有機農業運動は消費者と生産者が直接提携するという形で始まっています。

消費者への発送

季節の旬のものを週1回ぐらい届けて、それに対してこれは命の糧であり商品ではありませんので、「お礼」、お布施をいただいて生計を成り立たせている。(作物)個々には値段がないんです。 一袋いくらとか、命を支える福袋みたいなものです。

始めた当時は、10軒の消費者でした。見通しがたったのは93年に百年に一度の冷害があったときです。米はとれなかったんですけど、うちは麦をすぐ撒き小麦粉で、ジャガイモ、サツマイモもたくさん植えて届けて、10軒がびくともしなかった。「金子さんの言っていたことがよくわかりました」とおほめをいただいたんです。

土づくりなど技術を磨いてきますと、野菜がたくさん採れて余るようになって、20軒になり、今は全部で30軒の消費者に、年間で60品目の旬の野菜を1年中切れ目なく届くように作っています。

日本はめぐまれており、どんな季節でも20品目ぐらいはそろう。日本は工業でなく、農業に向いているのにさかさまの国づくりをしているからおかしくなっていくんだなと思います。

うちは消費者と甘えのない親戚のような関係ですね。東京の消費者にも届けていますが、「地震がくると金子さんちを思い出す。金子さんちに行けば大丈夫だ」と。有機農業で消費者とつながるのは、食べ物だけでなく、そういうことまで含めた安心感まで提供できるんです。

自給自足の生活

母屋も、じいさんとばあさんが80年前に植えてくれた木を2百本切りまして、自分で建てた。これも自給、「地産地消」ならぬ「地木地家」ですね。

屋根に太陽電池がありちょっとお金払うぐらいで電気がまかなえ、井戸水をあげていましてライフラインが切れてもうちは水が使えるんです。

トラクター燃料は廃食用油

トラクターの燃料は15年ぐらい前から廃食用油を使っています。トラクターは運転する本人が一番排気ガス吸うので何とかしたいなと思って。墨田区にある会社から買っていますが、軽油より安いんですこれが使えれば石油ショックはないですね。廃食用油が出た範囲だけの燃料はできますので。ただ、使うのに勇気がいりますが。

金子さんとトラクター

バイオガス自給

94年からは身近な資源を使って、エネルギーの自給もしていまして。太陽電池の他、家畜の糞尿とか台所の生ごみを使ってバイオガスの自給をしている。下に発酵槽があり、有機物を分解してメタンガスと炭酸ガスを出し、それを調理用のガスに。発酵槽は8立米で、約2立米のガスが出る。冬場は発酵槽にお湯を回し液温を上げてガスの発生を多くしています。

ウッドボイラー

ウッドボイラーといいまして、大きい木材を入れておくと朝までちょろちょろ燃えていまして 床暖房とお風呂、台所の給湯までまかなえる。 うちは石油が上がっても関係ない。(この装置は)これから多分注目されてくるんではないか。

家畜たち

アイガモ

アイガモは、アヒルのメスにマガモのオスをかけてできる。飛べない鳥で、水田の除草に使っています。

アイガモ

毎年水田は1㌶作るんですが、半分はアイガモを入れて倒れにくい品種を作っています。アイガモを入れると2年目ぐらいまで草の出が少ないんで2年目はコシヒカリを。アイガモは10㌃を約30羽なんですが、田植えしたときにハヤけた雛を入れ稲とアイガモが一緒に育っていくのがアイガモ水稲同時作というやり方。穂が出る前に引き上げます。

埼玉で困っているのは、トリインフルエンザの問題でアイガモをつぶしてくれるところがなくなったことです。おいしいんですけどね。

ニワトリ

ニワトリは、平飼い養鶏ですと、雛を入れるときに30㌢くらいの切り藁、落ち葉、籾殻を入れておきます。そこに糞を落として自分でかきまぜたりしますので、最終的にはさらさらの鶏糞になるんです。近代養鶏は餌が薬漬けですから、分解しないので、臭いがすごく、(鶏も)いつもおどおどしていますけど、こういう飼い方ではまったく臭いがなく、肥料は必要なとき必要なだけとって田んぼや畑に使う。オスとメスが一緒ですから鶏も精神上いいですよ。近代養鶏はメスばかり狭いかごに押し込める。うちなんかトリインフルエンザが入っても全部がばたばた死ぬことはないと思う。敵対的共生関係で こういう健康的な飼い方をすれば生き残っちゃう。

牛は3頭です。1㌶の農家で1頭が標準型だと思うんです。いつも1頭しぼって乳が飲めるようにしている。すごくうまいですよ。

太陽電池でバッテリーに電気をためて断続的に電気が流れるようにしていまして、お腹さえすいていなければ外に出ない。小屋がなくても飼えます。放して飼うと本当におとなしい。

この子は男の子なんですが、竹やぶを開墾してくれているんです。お腹がすいて雨が降って地がゆるんだとき角で倒してまたがって葉を食べるんです。

テレビにも出てこの子はすごい有名ですおでこに名前がついているんです。「ななちゃん」って言うんです。

ナナちゃん

奇跡のイチゴの有機栽培

農法の秘訣

農薬を使わないでできるのは、1つは土作り。堆肥あるいは緑肥などで。2つ目は季節栽培です。この季節には何をまいて何を食べるかを、つかむことです。3点目は輪作ですね。3年同じ科ものを作ったら4年目必ず違う科のものを入れる。4点目は、自然の仕組みが多様なように多品目のものを作ってやって、そのなかでもゆり科のネギ、ニラ、タマネギなどをちりばめてやると病害虫を抑える効果がある。昔風邪をひくとおばあちゃんがネギを焼いててぬぐいでまいてくれたけど、意味があるんです。

苗作り:木の温室

ここは苗を作っている場所ですけど、岡山県で百年続いているガラス温室をヒントに自分の山の木で温室を作りました。雨にあたる部分は年一回柿渋と木酢液を塗っており、そうすると30年ぐらいもつ。21世紀型で環境に優しいのが、木の温室ではないかなと。

苗作りの温室

他に、踏み込み温床といって関東地方の伝統的な技術ですが、堆肥を積むように、きつく平らに落ち葉、藁、牛糞、米ぬか、オカラなどを積んで、30度の温度がずっと続くようにしている。苗も買った苗でなく、自分で作った苗の方がずっといいですよ。

踏み込み温床は苗を作った後切り返して来年の苗用の土になるんです。

堆肥だからおいしい

これは堆肥場ですけど 材料は枝葉をくだいたのに鶏糞、米ぬか、生ごみを積み込み、水分を60%にして、時間があれば2週に1回ずつ4回切り返して田畑にまく。年間約50トン作っています。

堆肥

堆肥の何がいいかというと最終的にはバクテリアの種類、数が多い。バクテリアはアミノ酸とか核酸、ビタミンを出してくれて、それを根から吸うから有機農産物がおいしいとか、香りがいい、日持ちがする と。化学肥料だけで作ったのは入院して点滴で生きているようなものといえるほどの差がある。人間は自然の子なんだから原点に戻って、いい土からできたものを食べないと弱ってしまうんです。

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イチゴの温室 天敵でアブラムシ退治

イチゴ

無農薬のいちごは普通はおそらく食べることはできません。いちごの場合大体40回から50回農薬をかけるんです。減農薬でも25回ぐらいかける。うちはかけないでほぼできる技術の見通しがたった。奪い合いがおきるくらいないちごですよ。いちごの有機は奇跡のようなものです。

風通しが悪くて肥料分が多いとアブラムシが出るんですけど、大麦を入れますとムギクビレアブラムシが出る。これはいちごにはつかない。それを天敵が食べにきて、いちごの(アブラムシ)方も食べてくれる。ボリジーという花が天敵を呼び寄せる花なんです。こういうものも使いながら無農薬のいちごができる。

病気は土作りで問題ないです。みつばちは、受粉用、形をよくするように入れています。アブラムシがどうしても出ちゃうときはナナツボシテントウムシを日だまりの南斜面からとってきて百匹くらい放し、すぐ恋をして幼虫ができてアブラムシを食べてくれる。

5月になるとクサカゲロウがこの農場に住み付いており、幼虫がアブラムシを食べる。

この環境は害虫、天敵、ただの虫がバランスよく生きている。農薬は害虫を短期的には抑えるけれども天敵が死んじゃうので次のサイクルで害虫が大発生してしまう。最終的には天敵、害虫、ただの虫がバランスよく住みつくような環境になればいいと思うんです。

昔の山は野鳥が百種類くらいいた。害虫がわっと出てもどれかの野鳥がバランスを取ってくれた。今は手入れしないから害虫が増える。山を含めた循環が、有機農業には大事なんです。

有機農業を世界に広める

これから農家を後継者が継がなくなるということを感じましたので、研修生を切れ目なく受け入れています。ここ5、6年は7名から8名。約百名を送り出し、全国で独立している。新しい消費者は、研修生が独立するときにこの人とやってくださいということで 紹介しています。

(研修生は)10人中9人が非農家なんです。この国を動かす起爆剤は非農家だと思いますね。農家は代々田畑があり恵まれているんだけと、その価値が見えないような国造りが行われているんでしょね。

(研修する)彼らは独立して、大体40、50軒の消費者に野菜とたまごが届けられるような腕を磨いてくださいと。 そうすると1家庭1万円ぐらいいただければ、ほどほどに食べていける。

有機農業の支援法ができまして支援策が重なってくると、有機農業に転換したいという人が増えてくるのでは。アンケートでは、米農家の7割が販路と技術が確保されれば有機農業に転換したいと、全体でも5割程度が転換したいという方向になっています。

思ってもみなかったのは外国の人との出会いです。もう37カ国の人が研修にきている。生産者と消費者の提携による有機農業が海外では有名になり、アメリカ、イギリス、今フランスでもものすごい勢いで増えている。

先進国は農薬を使った反省から有機農業なんですが、アジア、アフリカは、化学肥料も農薬も買えないけど自立して有機農業をと、立場が違います。いつかは37カ国をまわってみたい。

みんなが元気に、展望のもてる村づくり

20年前から有機農業と地場の食品産業がともによくなって、それを地域の消費者が支えて内部循環するまちづくりということで取り組んできた。最初は地元の造り酒屋と有機米を使った自然酒作り、その次は商工会の仲間が小麦を石臼で轢いて乾麺、6年ほど前から私たちの麦と大豆で生醤油、大豆で豆腐。山向こうでずっと作り続けられてきた小川青山在来という、一番おいしい大豆です。この大豆はえんれいとかに比べて糖度が1.5倍高いので、うちの町はこれで町おこしができてしまう可能性があるなと思っています。

私自身はこの集落で、有機農業でみんなが元気になって展望がもてるような村つくりをしたいなと考えています。私が始めて30年目に村のリーダーが金子と同じ方向でやると言ってくれ、大豆から取り組みました。 おかげさまで町の豆腐屋さんとときがわの豆腐屋さんが全量買い上げてくれまして。再生産きく価格で買ってくれると村は元気になります。元気になると村は美しくなります 去年は、大豆、麦に続いて、米も3分の2くらい有機に取り組み、うちの集落は有機で全面展開できるところまできた。

食品問題と日本の農

先進国で食料自給率が4割を切り穀物自給率が27%などという国は日本だけですよね。これは異常で、もう一回あたりまえの姿に農業を戻さないといけません。

食に関わる一連の事件から、食料を自給しない国はこわい、国民は感性で食の自給が命の根本ではとかなり気がついてきていますね。最近は野菜を譲ってくれとひっきりなしに電話がかかってくるようになりました。

子供が親のめんどうをみないですから自分たちがしっかり健康を守る。平気でかなり高い豆腐を買い支えてくれる。(農業は)もうからなくていいけれど来年もがんばるという価格が保証されないとやる人はいないですよね。一連の食にまつわる事件がおきてからは、有機農業も地場食品産業も消費者もいいという時代になってきている。これは非常に新しい時代を創るチャンスだと思います。

(本記事は、08年3月、関東農政局の主催した報道関係者との現地調査によるものです)

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