富士見市の鶴瀬コミュニティセンターで、10年近くにわたり、毎月、日本の歌曲を中心にした無料の「気軽なコンサート」を開いている女性がいる。「神定れい子ミュージックサロン」を主宰する神定黎子さんだ。参加者は中高年が主で、地域の憩いの場になっている。聴かせていただくと、なつかしい日本の昔の歌にいやされ、また神定さんの不思議なお話に惹き込まれる。神定さんはどんな人なのか、どうしてこのような催しを始めたのか、うかがった。
退職後、歌と作曲を勉強
-神定さんは、元々声楽家ですか
神定 いいえ。元は小学校の教師でした。大学も音楽ではなく早稲田の文学部で日本史を勉強していました。
-どうして歌を。
神定 小学校の教員は音楽も教えるので、どういう発声がよいのか知りたくて、先生につきました。退職してから、本格的に、歌うことと、作曲を始めました。
-コンサートを開くようになったのは。
神定 声楽を習い始めたとき、たとえば「この道」、「浜辺の歌」とか日本のよい音楽を勉強していて思ったのです。こんなにいい歌がたくさんあるのに、なぜテレビやラジオで歌われないのだろうか。そういう歌を聞きたいと思ったら、由紀さおりや安田祥子のコンサートなど、高いお金を払って東京まで行かねばなりません。近くにないだろうか、ないのなら私がやってやると。おこがましいけれど、自分の勉強を兼ねてということで始めました。
-いつからですか。
神定 19年3月から。もうすぐ10年になります。
-場所はずっと鶴瀬公民館・コミュイティセンターのホールですか。
神定 キラリ☆ふじみ(富士見市民文化会館)も考えたのですが、公民館なら比較的安く借りられます。たとえお客さんが1人でもいいやと始めたんです。
日本のいい歌を紹介したい
-どんな曲を歌うのですか。
神定 私の目当ては、普通の歌手のように、私はこんなにきれいに上手に歌えるのよっていう気持ちはぜんぜんないのです。こんなにいい歌があるのに、みなさんあまり知らないと思うから、私が紹介しますから聞いてくださいね、という感じです。こんなにいい歌があるので聞いて。ただ、それだけです。
ただ、それだけだとお客さんはつまらながるのよね。知らない曲ばかりだと。知っている曲、昔はやったなつかしい曲を聞きたいこともよくわかるので、そういう歌もとりまぜて、やっています。だから、知られていないけれどよい曲、昔はやったり、よく知られている歌、それから私の作った歌を入れています。
-毎月多くの曲を大変ですね。
神定 プロでも毎月リサイタルをやる人はいないそうです。新しい歌は大変ですね。ただ、私のは、ふつうの歌手のように歌詞を全部覚えてというのではないです。譜面台を置いて、時々ちらっと見ながらやっているから大丈夫なの。
毎回プロラムは違う
-プログラムが毎回異なるのですか。
神定 毎月テーマを変えています。先月は、ふるさとの歌 あの世とこの世をむすぶ歌、みなさんいっしょにうたいましょう、でした。
-それぞれの季節を映すのですか。
神定 年間スケジュールがだいたい決まっていて、1月は日本の名曲、2月はお話のうた、早春、3月は一般募集、4月は動物たちのうた、5月は母(女、男)、緑、風、6月は雨草木花、7月は山、故郷、お盆、幽霊、8月は海、戦争、9月は一般募集、10月は私の創作曲、11月は秋、12月は1年を振り返って日本化した外国の歌としています。
-同じ歌はない。
神定 同じ歌を歌うとしても1年後になるわけです。
-一般募集とは。
神定 3月、9月は舞台で一人で歌ってみたい人を一般から募集しています。プロのピアノ伴奏付きです。持ち時間1人10分で、12名でいっぱいになります。朗読、楽器演奏、身体表現も可能です。
-ピアノ伴奏は。
神定 藤本ゲンさんという方で、最近はずっとお願いしています。
-自身で作曲を。
神定 そうです。たとえば、7月に歌った「臨終」は、まどみちお氏の詩に私が曲をつけました。誰も知らない歌です。問い合わせをしたら、私が曲を作っても著作権の問題はないそうです。
-作曲はそう簡単ではないと思いますが。
神定 私は才能があるとは全然思いません。自分の感じたように、適当に音を入れるのです。自分で作ったのを先生に見せて、直してもらっています。大作を作ろうという気はさらさらないので、気軽のできているのだと思います。
座禅の修行の経験
-「あの世とこの世をむすぶ歌」など切り口が独特だと思いますが。
神定 お盆にちなんだのですが、ことばを考えるのもおもしろい。
-元々宗教的世界に関心があるのですか。
神定 若いころ、自分とは何かという問題に悩み、これを解決しなければならないと思って、大学時代は、鎌倉の円覚寺の、朝比奈宗源という老師の下で座禅の修行をしました。広島の原爆資料館を見学して人間(や自分)の限界を知りました。
就職も、座禅のできるところはないかと探し、平林寺があったので、新座市で教師になりました。
経費は持ち出しに
-毎月のコンサートの日にちは。
神定 最後の水曜日の午後2時から4時ということにしていますが、公民館が空いていないと変更になります
-無料ですが、経費はまかなえるのですか。
神定 カンパをお願いしています。会場費、お菓子代などはまかなえますが、ピアニストへの謝礼は持ち出しになります。
-お客さんはどんな人が多いのですか。
神定 60代~80代の方が多いでしょうか。今日はどう過ごそうかというような人、しゃべることもなく淋しくしているような人に、「いらっしゃいよ、ただだから、冷暖房完備、お茶菓子もあるよ」、と声をかけています。
-何人くらい。
神定 いつもは30人くらい、多くて50~70人くらいでしょうか。
楽しくて、人の役に立つ
-反応はどうですか。
神定 聞いたこともない歌も多いので、解説はしますが、高尚すぎる!?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ナツメロばかりではないので―。でも勉強になるのではないでしょうか。
-ご自身にとってコンサートを続ける意味は。
神定 今、よく第二の人生をどう過ごすかが話題になっていますが、私の場合とっくに自分の好きなことを始めているよ、って。しかも、それが少しでも人の役にたっている。自分が楽しくて、人の役にたって、これほどよいことはないという思いでやっています。
疲れた時、物憂い時も、会を成功させなければ、こうはしていられないと動き出します。弱い私を、よりよく導いてくれるのが、このコンサートかな。
-生まれは。
神定 昭和16年です。
-出身は。
神定 生まれは東京です。
-富士見市はいつから。
神定 30数年になります。
美しい懐かしいよくわかる歌を!気軽なコンサート 予定
☆ 2016年 8月31日(水)、9月24日(土)、10月26日(水)、11月30日(水)
12月28日(水)
2017年 1月28日(土)、2月22日(水)
☆いずれも、午後2~4時
☆入場無料
☆会場 鶴瀬公民館・コミュイティセンターホール(富士見市羽沢3-23-10)
☆問い合わせ:神定れい子ミュージックサロン 049-251-3657
(取材2016年8月)
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