旧大井町(現在のふじみ野市)は、江戸時代に大井宿と呼ばれる宿場町として賑わっていた。街道の宿場で大名や幕府役人など公人が泊まったのが「本陣」だ。そして、川越街道のこの大井宿には大井本陣があった。大井本陣は元禄11年(1698)に置かれ、代々新井家が世襲していた。この大井本陣には、川越城主の他、喜多院住職で徳川家康の相談役であった天海僧正なども逗留したという。
大井本陣では、明治以降は、郵便局を営んでいたが、その敷地に昨年カフェブラウンズ(Caffe BROWNS)がオープンした。歴史的なスポットにおしゃれなカフェ・・・。その狙いなどについて、店主の松本里江子さんにうかがった。
伊能忠孝も逗留
―ここは、大井本陣の跡だそうですが、何か名残りがありますか。
松本 ここは私の実家ですが、私が子供の頃は、黒塀と、入り口に大きな門がありました。現在は、お店の庭には川越街道に面して、ふじみ野市の教育委員会が設置した、大井宿を解説する案内板があります。当時は、お向かいも柏やという旅館でした。
―本陣には川越の殿様が立ち寄られた記録があるのですか。
松本 ふじみ野市の文化財の担当の方によりますと、川越藩主ご一行は参勤交代などで江戸に赴く途中に、また徳川家康によく呼び出された喜多院の天海上人も、ここで宿泊して江戸を目指したそうです。伊能忠孝の逗留の記録も残っているそうです。
明治以降は郵便局
―明治以降はどうなったのですか。
松本 本陣が廃止され、電報電話局と郵便局となりました。近くにある旧大井町役場のような造りの建物で、2階が電報電話局、1階が郵便局でした。
―新井家は郵便局長だったわけですか。
松本 曾祖父、祖父と父はそうです。
後北条氏の家臣だった新井家
―元々新井家は大井の土着だったのですか。
松本 うちは元々、戦国時代は北条氏に仕えていました。小田原に一族で住んでいたのですが、(北条氏照が)八王子の出城を築いた時、うちの先祖は次席家老として移ったそうです。豊臣秀吉の小田原攻めの際、7名の家来が八王子のお殿様(氏照)の正室を守って、東久留米にある北条家のお寺である浄牧院に逃げました 浄牧院で、正室は八王子・小田原の落城、氏照の切腹を聞いて自害。家来は見届けをし、毎年お盆の時にお寺に集まり供養しようと決めて別々の方向に向かいました。そして、私の先祖はここに逃げてきたわけです。今でも浄牧院はうちのお寺で、7人の武士のうち、当新井家ともう1軒だけが続いています。
2017年5月にオープン
―カフェはいつオープンしたのですか。
松本 2017年5月。ちょうど1年になります。
―カフェを開いたのはどうしてですか。
松本 いろいろなお話がありましたが、できるだけ旧来の風情を残してお金をかけずに何かできないかと考えました。今、築50年の古い家の2間だけ改築してカフェとしています。庭は半分は駐車場、半分は残しています。当初は、カフェやレストランを経営されている方に運営をお任せしようと相談したのですが、教えてあげるからやってみたらと言われまして。
―どのようなコンセプトのお店ですか。
松本 イタリアンカフェですが、チェーン店でなく、個人経営ですので、バリスタ、シェフ、パティシエールを含めて自分たちで一つ一つ作っていこうと。コーヒーは自分たちでこういう豆がいいねと選びました。また、サラダ、スパゲティ、スープ、ソースそしてスィーツも手作りを優先してやっています。
雰囲気ある店で楽しむ、コーヒー、ランチとスィーツ
―売りものは。
松本 日常とは違った雰囲気の店内で楽しむ、コーヒー、ランチとスィーツでしょうか。淹れたてのコーヒーは美味しいです。また、ランチは季節で替わります。春はハマグリやアサリの貝のスパゲッティが多かったですが、今はタケノコ、春野菜などです。また、季節のフルーツを味わえるスィーツも用意しています。
テラス席があるので、季節の良いときは、風と緑を感じながらの食事もおすすめです。
―客層は。
松本 平日のランチはミセスの方。土日はカップルやご家族が多いです。
―1年たっていかがですか。
松本 たとえば、ある時間帯にすごく混んでしまい、お待たせしてしまうことがありました。当店では、サラダ、スープ、パン、ランチ、スィーツのすべてを愚直に店内で手作りしていますので時間がかかり、申し訳けないなと思います。それでも、いろいろ失敗も重ねましたが、お客様に協力していただいて、ここまで来ました。
朝食とディナーをやりたい
―今後の展開はどのように。
松本 実はここは朝日がきれいなんです。鳥も、いろいろな野鳥が来ます。今はオープンが午前11時からですが、本当は朝食もやりたいんです。また、中庭があり、保存樹木に指定されている大ケヤキもあります。その奥に畑や竹山があり、そこにキジの一家が住んでいて明け方に鳴くんです。緑が多くて、とても自然を感じます。この中庭をオープンなカフェスペースにできればと思います。ディナーも再開しようと考えています。
大ケヤキ
(取材2018年5月)
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