私は富士見市の出身だが、地元出身で有名人と言えば渋谷定輔だ。大正から昭和にかけて農民運動のリーダーで農民作家でもある。私も若い頃『農民哀史』を買って少し読み、印象を受けた。ただ、地域情報を始めてから、ちょっと敬遠していた。農民運動の闘士のイメージが肌に合わなかったこともある。今回きっかけがあり、取材し、本も読み直し、認識が変わった。特に、『農民哀史から六十年』は、渋谷定輔がどのような人であったか、どのような考え方をしていたかを伝えてくれる。自叙伝に近い。新書とは思えぬ、強烈なインパクトのある本だ。彼は、一貫して、農民、生活者の視点に立っていた。立場と、時代の流れから、運動に走ったが、党派的な、いわゆるインテリ左翼的活動には、距離を置いていた。文章は読みやすく、非常に面白く、力強い。「あとがき」にあるが、佐々木元という人と長時間かけて文体を作ったという。一読をおすすめします。記事