板橋のときわ台駅と中板橋駅の中間あたり、石神井川に下頭橋という橋がかかっている。通りは旧川越街道だ。私は何度か通ったが、特に気がつかなかった。前に区立郷土資料館で「渋沢栄一と高島秋帆」展が開かれたのを取材した際、展示の最後に下頭橋のたもとの祠にかかっている扁額(渋沢栄一の名がある)があった。それで下頭橋について調べると「乞食の六蔵」伝説があることを知った。現地に赴き、佐藤耶蘇基という人の書いた「下頭六蔵菩薩の由来」(昭和4年)という冊子を目にし、記事を作成した。佐藤氏は、六蔵の石碑を掘り起こし、物語を後世に伝えた人であるが、正体もその後の消息も不明である。六蔵伝説自体もそうだが、佐藤氏にも興味をそそられる。下頭橋は、過去に六蔵、旅の僧、佐藤氏と、不思議さと崇高さをあわせもつ登場人物があり、いろいろなことを考えさせられ、文字通り頭を下げずには通れない場所である。世の中には、独自の信念を貫き、後からみれば大切なことを成し遂げる人がいるものである。
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