広告

ドイツの失敗に学べ

 相変わらず雑本しか読めないが、最近面白い本に巡り会ったので紹介させていただきたい。一つは、『ドイツの失敗に学べ』(川口マーン恵美、WAC)。著者の川口氏は、元々音楽大学でピアノを学んだ人だが、40年前からドイツで暮らし、これまでもドイツの動向に関して本も書き発信してきた。本書は、近年のドイツ経済の凋落に関し2005年から15年続いたメルケル前首相、それを引き継いだ現政権の政策が原因であると主張する。具体的には、○無制限の移民・難民の受け入れ、○再生エネルギー・EV化の推進、脱原発、○中国との蜜月、○LGPT擁護、○EU本部の権限強化、などである。この考え方には賛否両論があるだろうが、実際に各面でほころびが見られ、政治勢力としていわゆる極右が台頭、アメリカではトランプ政権が誕生する。

もう一つは、『戦後史の正体』(孫崎享、創元社)。著者は外務省で国際情報局長やイラン大使を務めた方。本書は2012年に発行されており、戦後1945年から2012年まで日本外交を分析。戦後史を動かしてきた原動力はアメリカから加えられる圧力と、それに対する「自主」路線と「追随」路線のせめぎ合いであったとする。自らの体験に加えて豊富な資料を読み込み、記述は説得力があり、真に迫っている。特に終戦から占領期は、吉田茂元首相を対米追随路線と描ききっている。戦後の首相で自主路線をとったのは、重光葵、石橋湛山、芦田均、岸信介、鳩山一郎、佐藤栄作、田中角栄、福田赳夫、宮沢喜一、細川護熙、鳩山由紀夫で、このうち何人かはアメリカの意向で排除された可能性が示唆されている。

3つ目は、『ごみ収集の知られざる世界』(藤井誠一郎、ちくま新書)。著者は清掃行政を研究する大学の先生だが、自ら清掃車に乗り込んでゴミ収集を行うなど徹底して現場を取材し、実態を詳しく知り「ゴミ博士」と呼ばれている。とかく先行研究・統計を読むことが優先される学問の世界でこのような徹底した現場主義は新鮮ですがすがしい。読んで明らかになったのは、清掃現場の過酷さ、担当者の苦労であり、世の中のことはどんなことでもその背後にそれを支えている人達の働きがあるということを改めて自覚させてくれる。4つ目は『性風俗のいびつな現場』(坂爪真吾、ちくま新書)。著者は障害者に対する性サービスを行う「ホワイトハンズ」を運営するほか、性風俗に関する著書が多い。本書は、激安店、熟女店など、底辺の風俗店の実態をルポ、分析している。障害・病気を抱えたり、シングルマザーであったり、生活に十分な職を得られない、いわゆる貧困女子にとって、こうした風俗店が最後のセーフティネットとなっている、ということを言いたいのだと理解した。

広告
東上沿線物語
タイトルとURLをコピーしました