東洋大学の創立者である井上円了について記事化した。元々哲学堂を訪ね、こんなものを作ったのは一体どういう人だろうと思ったのが始まりだ。取材して、一番興味深かったのは円了の妖怪研究だ。円了は哲学と同時に妖怪の研究に打ち込み明治26年に大部の『妖怪学講義』を著わしている。円了の妖怪に対する興味はどのようなものだったのか。公式には哲学の立場から妖怪を解明したというもので、妖怪のような超自然的現象を否定したとなっている。しかしこれだけ年月をかけ研究したのだから、並々ならぬ興味をいだいていたことは間違いないだろう。本当は奇跡や神秘を確かめたかったのかもしれない。『おばけの正体』(大正3年)という本がある。これは明治31年に出した『妖怪百談』の内容に新たな事例を加えて、約130件の「おばけ」の実例を一つ一つ検証したもので、一般向けの本で実に平易に書かれてある(青空文庫所収)。
円了はこの本で、自分の子どもの頃隣室の障子の骨の間から何者かが覗き込んでいるのを見たという体験から始まり、多くの事例を調査している。まとめて「妖怪の8、9分どおりは、迷信より起こるところ断定して可なり」と述べている。いわゆる妖怪だけでなく、占いや風水、神仏参りなどを含め、ほとんど人が安心を願うために生み出された迷信とする。それでは、そのように解釈できない真の不思議はないのか、円了は妖怪には実怪(真怪、仮怪)、虚怪(偽怪、誤怪)があり、真の不思議は真怪であるとする。真怪とは「超理的妖怪」であり、宇宙の万物、森羅万象すべて不可思議、不可知の妖怪である。真怪は、天道であり、公平無私、平均権衡である。迷信を翻し精神を安定すれば一家の幸福だけでなく国家社会の繁盛をきたすとも言う。円了は本書では真怪について詳しくは述べていないが、私はとりあえず以上のように理解しました。 井上円了記事