さいたま市岩槻区の田園風景の中に、ひときわ映える瀟洒な建物。重度の心身障害児に医療と養育を施す入所施設、「カリヨン(鐘)の杜」だ。旧県立小児医療センター跡地に、昨年4月開設された。カリヨンの杜の役割などについて、運営する社会福祉法人、桜楓会の高野暢彦理事長補佐にうかがった。
知的障害、身体障害の2重の障害を持つ子が対象
―この施設はどのような目的で開かれたのですか。
高野 重度の心身障害があって、日常的に医療ケアを必要とするお子さんをお預かりすることです。埼玉県は、東部にこうした医療型障害児入所施設がありませんでした。また、県立小児医療センターが新都心に移転し、新しいセンターに通えないお子さんを引き続きこちらでフォローすることも一つの目的です。
―対象となるのはどのような障害児ですか。
高野 知的障害、身体障害の2重の障害を持っているお子さんで、なおかつ日常的に医療的な管理が必要な子です。人工呼吸器をつけていたり、気管切開してあったり、胃ろうを作ってあったり。なかなか一般の施設には受け入れてもらえないようなお子さんが中心です。
―普通の病院では対応できないということですか。
高野 病院だけでは医療的処置が終われば役目をはたしてしまいます。ベッドを空けるために家に帰るか、別の施設を探すことになります。
―こちらではずっと医療ケアをしていただけるということですか。
高野 うちでは急性期の医療の提供は行いません。慢性期の医療的な管理を行いながら、家に戻れないお子さん方が入所していることになります。
―急性期の治療を行わないのはどうしてですか。
高野 医療的な人員、機器が十分ではありません。それは総合病院にお任せするということです。
児童虐待被害の子が増加
―入所ですと、介護の部分も関わってきます。
高野 生活の部分で介護、子供なので療育。うちは病院ですが、それらも提供していきます。
―県内に他に同種の施設はあるのですか。
高野 同種の施設としては、埼玉医科大学のカルガモの家(川越市)、嵐山郷(嵐山町)、中川の郷療育センター(松伏町)があります。
―医療的ケアを必要とする重度心身障害児は増えているのですか。
高野 出生数自体が減ってきており、医療的進歩がありますので、近年は増えてはいません。1万人あたり3人と言われています。ただ、児童虐待は増えています。
―児童虐待とは。
高野 健康な体で生まれてきたけれど、親御さんなどから暴力等を受けて障害をもってしまったとか、あるいは深刻な病気にかかって命はとりとめたが親御さんが十分な処置を怠り障害は残ったなどのケースです。埼玉県は児童虐待が多い地域です。
日中の一時預かりも
―こちらはどのくらいの収容能力があるのですか。
高野 長期入床が28床、短期が22床。週2日は外来診療、それ以外にデイサービスということで日中の一時預かり(4名)もあります。現在入床は20床ほどです。
―医師は何名いるのですか。
高野 常勤は4名です。
―こちらに子どもを預けるにはどのような手順をたどるのですか。
高野 入所であれば、住まいの地域を管轄している児童相談所に相談するか、今かかっている病院に相談する手順になります。直接、私どもが受け入れることはありません。
―児童相談所から持ち込まれることもあるのですね。
高野 児童相談所から、病院での治療は終わったけれど家庭に帰すことはできないということで、こちらに移されることがあります。
経営の安定化が課題
―運営する上での課題は何ですか。
高野 やはり経営の安定化ですね。県から補助金が出ているわけではありませんので。県内の重心児について親のレスパイトということでお預かりすると一日2万円でますが。また、国の施策では大人になり障害者になっても同じ施設で生活できるようにと言っていますが、それをやると点数が下がり経営が成り立たないという問題があります。我々も「者」のベッドを補完的にもっていますが、「者」の方が診療点数が低いのです。たとえば、嵐山郷は長年やっておられてほとんどの人が「児」ではなく「者」に変わってしまっています。
(取材2019年1月)
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