栃木県那須町にある芦野温泉。那須と言っても、周辺は温泉地でも観光地でもない。山あいの一軒宿。しかし、この温泉は、各地からバスツァーが押し寄せ、マスコミにもたびたび取り上げられる人気だ。源泉は高phのアルカリ泉で足腰に効き、独自の薬湯も備え、帰りに杖を忘れる「杖忘れの温泉」とも呼ばれる。それとともに、特に高齢者に優しい場づくり、接客も人気の秘密だ。
お仕事中の合間、スタッフの方にお聞きした。
―那須でもここは温泉地ではないですね。
「まったくの一軒宿です」
―ここは元々温泉が湧いていたのですか。
「違います。何もない場所でした。元々はテニスのリゾート地から始まっています。創業者は吉田榮喜と申しまして昭和50年に、「リゾートテニスクラブグリーンウッド・テニスクラブ」を完成させました。その後、温泉が出てからは、温泉施設がメインで運営してきております。ただ、テニスも今でもコートは40面近くあり、学生の夏場の合宿とか、大会も開かれています」
高アルカリの単純泉
―温泉を掘ったということですか。
「掘削したら、非常に泉質のよい温泉でした。お風呂はすべて源泉を使っております」
―源泉の特徴は
「アルカリの単純泉ですが、phが高く、高アルカリの単純泉です。ツルの湯(第1源泉、ph9.89)はヌルヌル、ツルツルし、肌がきれいになります。メラの湯(第2源泉、ph9.2)は、シミ、そばかすの原因となるメラニン色素を抑制する効果があるのと、水素を加えており、水素は分子レベルでは一番細かいものなので、皮膚から吸収されて体がよく温まります」
―薬草の湯があるのですね。
「薬草の湯は、うちの名物となっています。独自に配合した生薬(那岐の湯=実症用、10種)、那美の湯(虚症用、7種)を、揉みだして入れています。体がピリピリし、代謝が促されます」
座骨神経痛、腰痛
―どんな効能があるのですか。
「腰痛、肩こり、リウマチ。私の知る範囲では、座骨神経痛、腰痛がよくなった例があります。また、体を芯から温める効果が大きいので、神経部分へ作用、神経痛にも有効です。個人差がありますが、人によっては皮膚の荒れが解消された方もいます」
―杖を忘れると言われるのですか。
「「杖忘れの温泉」と言われることが多いです。足腰の悪い方が杖をついてお越しになり、温泉に入ると、杖を忘れて帰ってしまうという例が結構多かったのです」
各地からバスツァー
―バスツァーで日帰り入浴に来られる人が多いのですか。
「栃木、茨城、埼玉、東京(はとバス)、千葉、福島など関東近辺から、日帰りツァーが運行されています。はとバスの温泉ツァーで人気ランキングの1位になったこともあります」
―宿泊もできる。
「湯治目的の方は何日かお泊りになることが多いです。お泊りの方は、メインの大浴場の他、宿泊棟の1階の専用の内風呂をご利用いただけます」
―シングル館とは。
「当館では、最近はシングル館というホテルを設置しました。お泊りは普通は2~4名ですが、うちは1人で湯治で来る方がおられ、身内を亡くされて1人になってしまった方も来られる。そこでシングル館という1人で泊まれる棟を設けました。今満室が続いている状況です。そういう方は、芦野湯で新たな人とのつながりができたりします。
―イベントも盛んなようですね。
「イベントも当館の特徴です。日帰りですと、「湯治のごご」といい、毎日1時半から開いています。暖かい時期なら従業員がダンスしたり。お泊りなら、従業員が芝居をやったり、歌を歌ったり」
―人気はまだ続いていますか。
「震災の影響はありましたが、昔からの方は今も常連で続けてきていただく方が多い。入館者は、平日の日帰りで2、300人、土日では1000人近くになります」
(取材2019年2月)
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