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民俗芸能で人を楽しく元気にする 荒馬座

力強い太鼓とお囃子に乗って鮮やかな衣裳の踊り手が舞う。各地に伝わる郷土芸能を舞台化して演じる荒馬座は、楽しく、観る人を元気にする一級のエンタテインメントだ。東京・板橋に本部を置く荒馬座の活動と歴史について、劇団事務局の岡宏司さんにお聞きした。

荒馬座

1966年、東京・板橋で生まれた荒馬座

荒馬座は何の劇団なのですか。

 日本の太鼓や踊り、唄や和楽器で構成した舞台公演、太鼓や民舞の普及活動をおこなっている創造団体です。

―発足したのはいつですか

 1966年、東京・板橋で始まりました。

―どなたか中心になった方がいたのですか。

 創立メンバーは9名で、当時秋田のわらび座から始まった歌舞運動が盛り上がっており、首都東京で民俗文化の花を咲かせるようとわらび座に研修に行った人達が東京に戻って立ち上げたのです。

―なぜ板橋だったのですか。

 各地の民俗芸能は働く人達の中で生まれ育ってきました。働く人々の町である板橋で ご縁があって 受け入れてくれることになりました。

―最初から清水町の現在地ですか。

 最初すぐ近くの工場の寮を借りその後何度か変り、1985年、清水町で鉄筋3階建て、防音装置のついたけいこ場つきの建物を建てました。

荒馬座民族芸能センター
荒馬座民族芸能センター(板橋区清水町)

―特定の支援者とか団体があるのですか。

 あればいいですが…。地域で文化活動をしている方々、保育園や幼稚園・学校などで太鼓や民舞の実践をしている先生方を中心に。あるいは演劇鑑賞会とか子ども劇場などの鑑賞団体、また首都圏各地の太鼓民舞サークルの方々にもにも支えられて活動しています。

現在に生きる私たちが明日を生きる力として楽しむように

―皆さんの思いは、民俗芸能を保存していこうということですか。

 保存というより、現在に生きる私たちが明日を生きる力として芸能を楽しむようにしたい。芸能は元来日常のいろいろな喜怒哀楽の中から生まれ、お祭りの場で演じられてきました。ハレの場の「まつり」で芸能を楽しみ、明日からの日常をがんばろうみたいな活動です。伝統的なお祭りを現在に活かし、明日を生きる力となるようなものとして引き継いでいきたい。

また昔からお祭りはいろいろな願いを込めて行われてきた。東日本大震災の時も、東北は芸能の宝庫で多くの芸能団体が大きな被害を受けましたが、困難を乗り越える力となってお祭りがまた取り組まれて来ています。

―伝統的民俗芸能をそのまま紹介するのではなく、手を加えているのですか。

 舞台で上演するにあたって再構成しています。現地で行われている形に近いものもあれば、舞台用にかなり再構成した演目もあります。新たに創作した演目もあります。例えば「2001水俣ハイヤ」。九州には各地にハイヤ節があるが たまたま水俣の漁師でハイヤ節の名人がいてその人から教わり、一緒に作った。自治体から依頼されて新たな太鼓囃子を作った例もあります。三重県の大安町(現いなべ市)では「大安寿太鼓」というのを地元と協力して作って地域の新しい芸能を作る手助けをしました。伊豆七島の式根島、会津若松、長野県の生坂村、埼玉の神川町などでも自治体などの依頼で太鼓囃子を作調しています。茨城の日立市では「十王鵜鳥舞」という踊りを作り、地域の中学校の生徒たちに受け継がれています。

大安寿太鼓
大安寿太鼓

―地域と協力することがあるのですね。

 まず私たちが各地の芸能を習って身につけるところから始まりますが、いろいろ教わりながら 舞台作品として構成することもあります。地域の方々とおまつりをつくったり、地域の保育園やサークルとおまつりや舞台公演をつくったりすることもあります。

はちの巣太鼓
鶴ヶ島市の保育園と一緒に制作したはちの巣太鼓

太鼓と踊りが主で現在30ほどの演目

―公演の演目の数はどれくらいあるのですか。

 今日常的に上演しているものは30程度(荒馬座のWebサイトで紹介)、最近はあまりやる機会の少ないものを入れると50以上あります。

―太鼓が主ですか。

 太鼓囃子と踊りや唄、篠笛や三味線などの和楽器の演奏です。

―太鼓囃子は太鼓と笛ですか。。

 太鼓と笛、それと江戸囃子では鉦(かね)。鉦も地域や演目によっていろいろあります。

荒馬踊り、ぶち合わせ太鼓

―演目でよくやるポピュラーなのは何ですか。

 「荒馬踊り」。東北のねぶた囃子に乗って踊る駒踊り。これが今、保育園や幼稚園とか学校の子ども達の実践の中で非常に多い。運動会とか学芸発表会でも演じられる。あとは一人の太鼓を3人で交代でたたく「ぶち合わせ太鼓」、エイサーもよくやります。 

荒馬踊り

独自の衣裳は自分達で全部作る

―衣裳はどう手当てするのですか。

 ハッピなどは舞台美術の方にデザインをしてもらい染め物屋に出す。独自の衣裳、出し物は自分達で全部作ります。

―道具類は。

 小道具、大道具などは、作れるものは自分たちで作りますが、舞台の大道具や小道具を作っている専門の方にお願いすることもあります。現地の芸能の保存会で使っているものそのままを作ってもらうこともあります。 

一般の方向けの公演と保育園・学校・福祉施設の依頼公演

―公演はどのような場所で。

岡 一般の方向けの公演と依頼公演があります。一般向けは地域の催しもの会場、ホールを使わせてもらう。この2月では、狛江エコルマホール(2日)、大泉町ぶんかむら大ホール(8日)、美里町遺跡の森館(11日)、くにたち市民芸術小ホール(16日)、3月には、上尾市文化センター(1日)、ひの煉瓦ホール(9日)があります。依頼公演は保育園、学校、福祉施設などで、数的にはこちらが多く、年間で200か所ほど上演しています。 

荒馬座上尾公演チラシ
上尾公演チラシ

―保育園や学校は子どもに観てもらうということですか。

 鑑賞会もあるし、ワークショップと言って一緒にたたいたり踊ったりする場合もあります。あるいは観てもらった後参加コーナーを作ったり。

―依頼公演の会場はどうするのですか。

 学校の場合は体育館を使うことが多い。保育園の場合は子ども達の遊ぶ部屋やホールを舞台に仕立てて。

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―公演の地域は。

 東京、関東が多いですが、呼ばれればどこにでも出向きます。2024年には子ども劇場という鑑賞団体の主催で、福岡、鹿児島、熊本などを回りました。

―海外公演も。

 2008年には国際交流基金の助成をいただきブラジルで移民百周年のイベントに参加、  それ以前もパラグアイ、ベトナム、中国、カナダなどにも。

専従座員の他、準座員も

―劇団のメンバーは何人ですか。

 現在14名、そのうち舞台に立つのは10名です。

―皆さん職業とされている。

 そうです。専従です。

―どういう経緯で参加された方が多いのですか。

 ほとんどは講習に参加しているうちに座員になった人です。講習には1日教室とか土日だけ一定期間とかありますが、毎週1回9ヶ月間けいこを重ねて一つの舞台を作る「研修生」という制度があり、これを修了して、荒馬座の活動を仕事にしてみたいと思った人が多い。

荒馬座研修生修了発表会
研修生修了発表会(2024年12月)

―準座員という形のメンバーもいるのですか。

 準座員は研修生を修了して専従ではないが荒馬座の活動に加わっている人です。今100人ちょっとで、公演に参加する人もいます。2024年11月の富士見市での公演は「富士見市荒馬座を観る会」という実行委員会が主催しましたが、その核になるメンバーは準座員でした。

荒馬座富士見市公演
富士見市公演(2024年11月)

―教室は板橋だけでなく埼玉県美里町でも。

 美里にもけいこ場(美里民族芸能センター)があります。荒馬座の活動をする中で、北埼玉、群馬の方で太鼓や民舞をやる人がずいぶん広がりました。

荒馬座美里民族芸能センター
美里民族芸能センター

―音の問題もありますか。

 はい。板橋は防音がしっかりした建物ではありますが、周囲は住宅です。美里の方は周りに人は少ない。それでも夜は早めに切り上げるようにしています。

防音問題、感染症対策を乗り越えて

―今、課題として取り組んでいることは何ですか。

 これまでは、太鼓を習ってみたいという人は保育園関係とか若い人が多かったですが、シニア向けにも広げていきたい。最近は55歳くらいから70過ぎの人も講習に参加しています。また、未来を担う若い世代にもつないでいきたい。前回の研修生は高校生が2人いましたが、上は60歳過ぎで、年齢差が大きい人同士のけいこはお互いにとって面白い経験になると思います。学校での伝統文化体験プログラムや鑑賞教室もさまざまにおこなっていますが、とにかく若い世代の人々に体験してもらい、日本の民族芸能の魅力を知ってもらい、できればその担い手となってもらいたいと思っています。

荒馬座体験教室チラシ
体験教室チラシ

―防音の問題はどうですか。

 板橋にも小さいホールはいっぱいありますが、太鼓不可というところが多い。保育園も太鼓たたくと周辺から苦情が来る場合があります。最近は太鼓を使わない踊り中心の作品、音源を使った作品を作ったりして対応していますが。

―コロナ渦ではどうでしたか。

 コロナは大変でした。人が集まってはいけない…ということでは公演活動、太鼓民舞のワークショップは成り立ちません。財政的にも厳しいものがありましたが、支えてくれるたくさんの方々のおかげで続けてこれました。。2020年12月の富士見市のキラリ☆ふじみ公演はほとんど無観客で観客は125人、初めて配信も行いました。そこから2年ぐらい、会館を借りられても客席を格子状に。動画の配信もしていますが、それだけで満足はしてほしくない。生の舞台で、日本の昔から伝えられている人々の喜怒哀楽をたたえる太鼓囃子、踊りを体感してもらいたい。

―荒馬座は創設からもうすぐ60年ですね。

 来年は60周年で節目になります。コロナを乗り越えてきて、今年は巳年でヘビは再生と復活の象徴ですから、元気な荒馬座として駆け回りながら 新たな創造活動を展開できればと考えています。(取材2025年1月)

荒馬座ホームページ

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