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空家増加の背景に相続問題 NPO空家・空地管理センター

空家の増加が、所有者の負担になるだけでなく、社会問題化している。所沢市を本拠とするNPO法人空家・空地管理センター(上田真一代表理事)は、空家に関する相談、管理業務を受ける民間組織の草分けだ。同NPOは、どのような仕事をしているのか。空家の増加にはどのような背景があり、どんな問題が起きているのか。同NPO理事・東京相談センター長で、東上沿線の富士見市とふじみ野市の空家対策にも関わる伊藤雅一さんにうかがった。

 

所沢市にある北斗不動産ホールディングスという会社が母体

―空家・空地管理センターとはどのような組織なのですか。

伊藤 NPO法人で平成25年7月に設立されました。元々所沢市にある今の北斗不動産ホールディングスという会社が母体になっており、同社の社長である上田真一がNPO法人の代表理事を務めています。

―どのような経緯でNPOができたのですか。

伊藤 所沢市は平成22年10月に全国で初めて空家条例を制定しました。そこから、低価格で良質な空き家管理の提供についての要望がありNPOを立ち上げるに至りました。現在、空き家の適正管理を軸にワンストップ相談窓口として、空き家の巡回管理に伴う報告事項(植木の繁茂や建物の劣化状況)、売りたい、貸したい、壊したい、直したい等空家にまつわるいろいろな相談に対応をしております。

東京・西新宿に相談センター

―NPOではどのようなサービスを提供しているのですか。

伊藤 第1に、相談窓口で様々な相談に応じます。窓口(センター)は現在、東京・西新宿に開いており、全国の加盟店でも対応します。第2は、空家の管理で、月100円で目視点検と写真を1回4枚報告書に添付し送るコースと、もう一つは建物のカギを借りておいて、通風、水を流したり、月に12枚写真を撮って報告書として送る「しっかり管理」コースがあります。後者の費用は月4000円からです。

他の業務は、空家に関する啓発活動、自治体の支援などです。

―地域はどのあたりをカバーされているのですか。

伊藤 各地域の宅建事業者を中心にNPOに加盟していただいており、実際の相談や管理業務は現地で対応できるようになっています。会員は全国で20社ほどですが、1都3県の他、札幌、仙台、盛岡、大阪、名古屋、岡山など都市部中心に管理は15都道府県129市町村、相談は18都道府県459市町村をカバーしています。

―宅建業者さんはどのような目的でNPOに加盟するのですか。

伊藤 NPOの場合は、お客さんは「どうしたらわからないので教えてください」という形で来ます。まず話を聞いて、それなら植木をまずきれいにしましょうとかゴミを片付けましょうとか、カウンセリング期間が長くなる傾向にあり、そこでの利益は出ませんので、そんなことをやっていられないという事業者が多いことも事実です。ただ、管理だけを長期にわたってやっていくということではなく、空家は相続問題から発生することが多いので、遺産分割協議をやっている間に半年空家になるとか、親族間でまだどうするか決めていないので決まるまで空家にせざるを得ないとか、そうした空白期間をつないでいただくためのツールのようなイメージで準備しています。NPOにはそのような意義を理解してくれた会社が入ってくれます。

―新宿の相談センターに来られた場合は。

伊藤 ここでいったんお受けして、どんなお悩みかお聞かせいただき、地域に対応できる業者がいればおつなぎするという形になります。

相談室

―NPOの財政的基盤はどこで支えられているのですか。

伊藤 私どもは非営利でやっており、管理・相談業務で利益は出ていません。ただ、家の売却、賃貸、税金、相続に一番近いのが宅建事業者さんですから、ビジネスにつながることも一部あります。相談していく中でたとえば10人に1人くらい売却になったとか解体になったとか、の時は事業者さんの方からフィーのようなものもいただいています。他は、宅建業者等が加盟した時の加盟金などです。

―こういう組織は他にあるのですか。

伊藤 同じようなことをしているところはありますが、うちは広域に相談をお受けしている兼ね合いで、相談件数も格段に多く経験値も高いと思います。

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全国の空家は846万戸で全住宅数の13.6%

―今全国に空家はどのくらいあるのですか。

伊藤 「住宅・土地統計調査」(2018年)によると、全国の空家は846万戸で全住宅数の13.6%を占めます。シンクタンクの予測では、これが2038年には2200万戸、全体の30.5%まで増えます。ただ、最新の2018年の数字は事前の予測より増加のカーブが緩くなりました。原因はよくわかりませんが、除却や利活用が進んでいると思いたいです。

NPO空家・空地管理センター資料

―空家はアパートが多いのではないですか。

伊藤 確かに2018年で賃貸住宅の空家が431万戸あり、最大です。しかし、貸すことも売ることもしない、目的が決まっていない「その他住宅」の空家が347万戸あり、増加が目立っています。売りたいとか貸したいとか決まっていれば不動産業者の窓をたたけばよいわけです。空家には一軒一軒理由がありますが、「その他住宅」の多くはどうしたらよいかわからない、ただ放置している、という状況です。私たちの対象となるのも、こうした空家です。

―マンションの空家も含まれますか。

伊藤 「その他住宅」空家のほとんどは、木造の戸建てです。マンションは貸しやすいのでよほどのことがないと空家問題は少なく、私どもはタッチしていません。

 

親が亡くなると実家は不要になる

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―空家が増えている背景はどのようなことですか。

伊藤 根本の背景は人口減少と高齢化にありますが、空家発生のきっかけは相続にあることが多いです。今持ち家率が今83%くらいまで上がっており、その方々が今年から後期高齢者にさしかかっています。子どもたちはすでに自分の家を買ってしまい、親が亡くなると実家は不要になる。すぐには処分に踏み切れない。加えて相続でもめることもある。

―こちらへの相談の内容にもそうした社会的な背景が見えますか。

伊藤 相談で多いのはやはり相続の関係です。少し前までは自分の家の相談が多かったが、ここ数年は親の家の相談が多くなった。これから相続する方は相続の仕方、いいやり方はないか、親が病気になりそうで家が空くとか、相続した後は兄弟で話しがもつれているとか、どう売ればよいかとか。あとは、親が病気、認知症になり、売ることも貸すこともできないということで、管理の相談とか。

―相続でもめるとはどういう内容が多いですか。

伊藤 相続の相談で半分くらいの方は親族間で意見が合わないケースでしょうか。長男は売りたいと言っているが、私は維持し続けたいとか。私が親のめんどうを見ていて口づてで家はお前にやると言われたが、そうならず話し合いを続けているとか。

―相談はどのタイミングが多い。

伊藤 相続直前、直後が多いですかね。

―結局、アドバイスは相続問題を別にすれば、管理して維持するか、壊すか、利用するか、ということですね。

伊藤 管理か利活用か。持ち続けたい資産なのか処分したい資産なのかによって出口は大きく変わります。持ち続け維持するにはお金がかかってくる。処分にもお金がかかる。壊さなければいけないとか。

植木が伸びる、雑草が生える、建材が飛び散る放置空家

―放置された空家が問題になっています。

伊藤 一番多いのは、植木が伸びる、雑草が生える、建材が飛び散る。この家は空家で、放置しているということが周りに見えてしまうとゴミが捨てられ、泥棒も多い。オーナーはこの家を管理しているよと見せておかなければいけない。植木、雑草をカットしたり。

NPO空家・空地管理センター資料

―空家はライフラインはどうなっているのでしょうか。

伊藤 大事にしている方は電気、水道、ガスは通したままにしています。しかし、いらない、売るときは更地にして売るつもりというような方はすべて閉じてしまう。すると建物もあっという間に傷んでしまいます。

―建物が建っていると税金が安くなることもあるのではないですか。

伊藤 建物が残っていた方が固定資産税は安くなる。傾いていても建っていればよい。それも放置案件を助長させている面もあると思います。

―周辺に迷惑をかける放置空家は取り締まる法律ができていますね。

伊藤 2015年に施行された空家等対策特別措置法に基づき「特定空家」に指定されると、助言・指導、勧告を経て最終的には強制的に解体される可能性もあります。ただ現状、強制解体までいくのは非常に少ない。

「しっかり管理」

―NPOとして管理の代行を行っているということですね。

伊藤 管理の目的は周辺の方に迷惑をかけないようにということなので、私たちが現場に行って見ているのは、瓦が落ちていないか、危険な傷みやすいところが剥がれて飛散していないか、雑草、植木の状況など。「しっかり管理」では内部が見えるので、雨漏りは起きていないか、窓が開きにくくなっていないか、床がたわんだりしていないか、建物の構造上のチェックまで行います。

―草取りや植木の伐採は。

伊藤 私どもがやるのではなく、造園業者などから見積もりを取って打診します。

―壊すのはどのような場合ですか。

伊藤 一つは売却の場合。中古住宅として流通できるという判断なら住宅として売りますが、買う方が更地として欲しいなら壊します。もう一つは、建物が傷んだり傾いていて周りに迷惑空家になっているケース。壊した後駐車場にするとか。

―中古住宅として売れるのはどういう場合。

伊藤 一戸一戸違いますが、不動産の査定のルールがあるので、査定報告書を加盟店担当者が作成し周辺相場も含めアドバイスをします。売却に向けて建物を大規模に改修するなど新たな投資をしなければならないケースもあり、それが新築を建てるくらいかかるなら壊した方がよいことになります。

―リフォームして賃貸に出すという例もあるわけですね。

伊藤 持ち続けたい方で、建物がまだしっかりしているなら直して貸すという選択もあります。しかし、たとえばキッチン、風呂、トイレ、洗面台、壁紙、畳、ふすまなどとやっていくと300万とか400万とかかかる。それを負担できるかどうかが分岐点になる。自身で修繕を行うことで貸し出せたとして、賃貸事業は空室のリスクもあります。将来的に不動産事業を自分でやる気持ちがあるかどうかもポイントです。

またNPOは「AKARI」というサービスを提供しています。これは固定資産税相当額で5-10年間借り上げさせてもらい、その地域の加盟宅建業者さんがリフォーム等の投資をして期間内で回収する。オーナーさんからすると使わない空家で、すぐ売るわけにはいかないが、リフォーム費用は出せない、なら事業者に借り上げてもらいリフォームしてもらい、5年から10年後にはリフォーム済みで手元に戻ってくる、というしくみです。

―賃貸に出すには早い方がよさそうですね。

伊藤 親が亡くなって気持ちの整理が出来た後、すぐに貸せばよいですが、そのまま3年とか5年放置してしまって、荷物も残ったままとなると、荷物を出しクリーニングし設備を直さないと貸せない。投資が100万、200万とかかる。ある程度持ち続けたい資産であればすぐ利活用をした方が費用が低く済みます。

―伊藤さんは富士見市に空家対策の当事者なのですか。

伊藤 富士見市の空家等対策協議会副会長とふじみ野市の同協議会の委員をしています。NPOとふじみ野市は正式に連携協定を結んでいます。

―空家に関し富士見市の地域特性はありますか。

伊藤 ベッドタウン 市として課題として問題視しているのが、再建築不可で、流通しにくい空家が放置されていることです。

渡す資産について早めにきちんと整理して誰に渡すのか決めておくこと

―伊藤さんの目で空家問題の一番重要なポイントは何ですか。

伊藤 そうですね。親の方から言うと(相続で)渡す資産について早めにきちんと整理して誰に渡すのか決めておくこと。生前の元気なうちにエンディングノートとか遺言を準備しておくことです。それをやっていないことで次の世代が困っていることが多い。

さらに、たとえば自分が住んでいた4LDKに、もう住む必要はないなら、賃貸に出して毎月10万円生み出す資産にして子どもに渡すという方法もあります。自分は小さいアパートに越す。自身が急に亡くなることで、家財もある大きな家を投げられても困るが、そういう段取りをしておけば喜ばれる資産として引き継がれ、空家の発生も防げます。

伊藤さん

(取材2022年3月)

空家空地管理センターHP

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