東上線成増駅、下赤塚駅から高島平方面に15分ほど歩くと小高い、うっそうとした森に行き着く。ここは戦国時代に千葉氏が拠点とした赤塚城があったところだ。城跡は都立公園になり、周辺には千葉氏ゆかりの神社やお寺、東京大仏、植物園、郷土資料館、美術館などが集まり、格好の散歩コースとなっている。赤塚城址周辺の見どころを紹介する。(以下の記事は板橋区郷土資料館学芸員の細樅雄貴さんのご説明、板橋区教育委員会「まち博ガイドブック 下赤塚・成増・徳丸・高島平」、「板橋区文化財マップ」、『板橋マニア』などを参考に作成しました)
千葉氏の居城だった赤塚城
千葉氏とは この地域は元々豊島氏が開発したところだが、その後千葉氏が移り住んできた。1456年、下総の市川城を追われた千葉実胤(さねたね)・自胤(よりたね)兄弟は太田道灌の助けで武蔵国に入り、弟自胤は赤塚城に居を構えた。自胤は武蔵千葉氏として勢力を拡大する。1486年太田道灌の死後は、関東一円を支配した後北条氏に従うが、1590年豊臣秀吉の小田原城攻めで後北条氏が滅び、赤塚城も廃城となった。
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本丸(郭)跡
赤塚城は武蔵野台地北東端に立地し、北側は徳丸ヶ原と呼ばれる湿地帯で先に荒川が流れる。古代は陸と海の境だったところだ。段丘の上に築かれた中世の典型的な平山城で周囲には空濠などの遺構がわずかに残っている。こんもりとした森に覆われた高台に本丸(郭)跡があり、都立赤塚公園の一部として整備されている。桜の名所だ。
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溜池公園
本丸跡から下りたところに昔から溜池と呼ばれていた池がある。水濠だったとされ、その後田んぼの潅漑用貯水池として利用されていた。周辺が公園になっている。周囲には梅の木が植えられ、毎年梅祭りが開かれる。
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千葉氏ゆかりの寺社
赤塚城主であった千葉氏のゆかりの神社や寺院がある。
赤塚氷川神社 赤塚氷川神社は千葉自胤が1457年に武蔵国一の宮氷川神社から祭神を勧請したと伝わる。上赤塚村の鎮守だ。長い参道にケヤキの古木の他桜も植えられ、春には花トンネルになる。二ノ鳥居脇に明治初年に造られた富士塚がある。
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赤塚諏訪神社 赤塚諏訪神社は千葉自胤が信州諏訪大社の分霊を勧請して祀り、赤塚城の鬼門除けにしたと伝わる。本殿には見事な彫刻がほどこされている境外の旧参道入口のこぶケヤキは「父ノ木様」と呼ばれ、乳授けの信仰がある。
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この神社と徳丸北野神社、赤塚氷川神社では毎年2月に五穀豊穣を祈願する田遊びという神事が行われる。1976年に国の重要無形民俗文化財に指定されている。
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松月院 元々宝持寺という名だったが千葉自胤が1492年、自分の檀那寺として寺領を寄進し院号を松月院と変えさせたといわれる。徳川家康から御朱印を贈られた古刹だ。墓地には千葉自胤一族の墓の他、「次郎物語」の作者である下村湖人の墓もある。幕末の砲術家高島秋帆が1841年、徳丸ヶ原で西洋砲術の演習を行った際、同寺を本陣にした。境内には高島秋帆顕彰碑が建っている。境内には樹齢百年のヒイラギの大木、門前の壇信徒会館脇には旧赤塚村役場跡地の碑が建つ。
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大堂 近くにある大堂は大同年間(806-10)建立の区内最古のお寺。堂前の銅鐘は暦応3年(1340)鋳造、学僧として名高い建長寺四十二世中巌円月の撰文の銘文が有名で、国重要美術品に認定されている。
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東京大仏(乗蓮寺)
赤塚城二ノ丸跡に建つ浄土宗の寺院で、大仏(阿弥陀如来)がシンボルになっている。以前は板橋区仲町にあったが、道路の建設・拡張などで寺域が減少、1970年代に現在地に移転した。東京大仏は1977年、若林隆道第24世住職が関東大震災や東京大空襲の犠牲者を供養し、災いが2度と起きないようにとの願いから建立したという。青銅製で高さ13㍍、重さ32㌧、当時奈良の大仏、鎌倉の大仏に次いで日本で3番目の大きさだったとのこと。境内には藤堂高虎の「がまんの鬼」など津藩藤堂家に伝えられた石造物も移設展示されている(以上の説明は乗蓮寺ホームページを参考にしました)。
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区立赤塚植物園
東京大仏の間近、赤塚城の城域だった丘陵地に1981年に開園した。10267㎡の園内に約600種の植物が植えられている。1986年には万葉・薬物園が完成した。
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竹の子公園
昔から竹林があった場所に新たに鳳凰竹、金明竹など約13種の竹を植え、1984年に開園した。
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不動の滝
東京大仏通り沿いの崖下に小さな池がある。東京の名湧水57選にも選ばれた不動の滝だ。昔、大山詣りに出る人が滝に打たれ心身を清めたみそぎ場だった。滝の落ち口には寛政11年(1799)造立の石造不動尊像が祀られている。水量は減ったが、今でも水が落ちている。
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郷土資料館、美術館
赤塚城本丸跡下溜池公園のほとりに板橋区立郷土資料館と美術館が建っている。郷土資料館は去年で開館50周年を迎えた。区に関連する出土資料、古文書の他、高島秋帆関連資料、煎茶、甲冑、カメラなど様々なコレクションが充実している。美術館は1979年に開館。江戸狩野派をはじめとする近世絵画、大正から昭和初期の前衛美術、板橋区ゆかりの作家の作品を中心に収蔵している。
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(取材2023年5月)