明石農園代表 ブルースカイ王国代表(三芳町)
三芳町で明石農園を経営する明石誠一さんは驚きの人だ。サラリーマン家庭に育ちながら農業をライフワークと決め、新規就農者として農園を開いた。しかも、困難な無肥料・無農薬の自然栽培に挑戦し、今では3町歩(3万平米)の農地を耕す。コミュニティ作り、環境保全にも力を注ぎ、近くの雑木林で毎年演奏会も開く。昨年、ドキュメンタリー映画「お百姓さんになりたい」(原村政樹監督)にも取り上げられた。このほど富士見市で開かれた講演会で明石さんのお話をお聴きし、その概要を紹介させていただいた。
固定種という昔ながらの種を使い野菜と穀類60種類を栽培
明石農園は三芳町の竹間沢というところにあり、無肥料・無農薬の自然栽培というやり方で農業をしています。
私は元々東京の板橋区出身で、新規の就農者です。富士見市の渋谷さんという方のところで1年間研修させていただきました。それがご縁で、地元劇団の「南畑お月見一座」に参加させていただいています。農園を開いたのは2003年からです。
新規就農なので、畑は全部貸していただいています。全部で3万㎡ありますが16ヵ所と各地に点在しています。
自然栽培に特化した農業を展開しており、すべて固定種という昔ながらの種を使います。野菜と穀類60種類を栽培していますが、そのうち40種類が自家採種です。販売先は個人宅配が主で月に200軒ほど、あとは自然食品店で扱っていただいています。
小麦や大豆も作っているので委託加工して販売します。あとは畑でのもぎ取り体験もやっています。
家庭菜園スクール開校・農福連携事業で施設からの就労受け入れも
2013年に富士見市の島田さんという方と農業体験スクール(家庭菜園スクール)を立ち上げました。
2015年から農福連携事業ということで、各福祉施設に農業指導に出向いたり、施設から就労を受け入れたりする活動もしてきています。
「ブルースカイ王国」という団体を主宰、近くの雑木林で演奏会
4年前から「ブルースカイ王国」という公民館登録団体で、近くの雑木林で演奏会を開いています。
以上が農園の活動のあらましで、昨年「お百姓さんになりたい」というドキュメンタリー映画(原村政樹監督)で取り上げていただきました。
7年かけてやりたいことを探し農業にたどりつく
なぜ農業をやりたいのと思ったのか。子どものころからこういうことを考えていたという私の意識年表を作ってみました。
小3の頃、みんな幸せになれたらよいなと自分の中で気づきました。
その後、いじめとか周りが気になったりもいろいろ経験して、
高3になり大学選びになって「あなた何になりたいの」と聞かれて、おっと思いました。本当にやりたいことを見つけることをしてこなかったからです。そこから7年かけてやりたいことを探しました。これでもないとあれでもないと。そして農業にたどりつきました。
「ライフワーク」と「ライスワーク」を分けて考える
農業にたどりつき、やり始めたのですが、好きなことで食べていくのはなかなか大変です。日々の生活があるので好きなことだけでは生きてはいけない。その時に「ライフワーク」と「ライスワーク」を分けて考えた。夜バイトしてライスを得て、農業をライフワークとしたのです。農業をやりたいからこそバイトをがんばれる。今は農業が徐々にライスワークにもなってきました。自分が純粋に好きなことと、今生きるためのことをやる。そのバランスが大事だと思います。
自然の中にも人間社会にも不必要なものがない
自然栽培を通じて、自然の中には不必要なものがないということに気づかされました。害虫は子孫を残すために枯れた植物を食べてウンチをする。そのウンチが土になる。害虫ではなく土を作るお役目である。そういう自然の摂理を学んだのです。自然から生まれた人も、人が作る社会も、必要のないものはないんだなと。自然がそうなのだから人の社会もそうだろう。実は自然の摂理の中では矛盾した競争と共存が同居している。よい悪いではなく、両方が大事なんだと感じる。きっとそれが効率よくまわるのではないか?そんな思いで、いろいろなコミュニティづくりにも関わっています。
書くこと
農業を選び、農業を始める前に書き留めたノートがあります。やりたいことを書いただけですが、書いたことが現実になっていた。振り返ってみると、全部その通りかなっていた。だから、すごいやり方だなと思う。書くのはタダなので、かなわなくてもよいから書くことをお勧めします。すると自分の思いなどが整理できてとても楽になります。
それぞれバラバラでも、目指しているもの、思いは一緒
「ブルースカイ王国」はどうして始めたのか。
数年前に仲間で「ポストイット会議」というのを開きました。みんなで、ポストイットに、あなたの人生でやりたいこととか、好きなこと、何でもいいから書いてもらいました。それをまとめて見たら、理念的な「みんな幸せに」みたいな思いをみんなが持っていた。思いは一緒だった。日々の生活でやりたいことはそれぞれバラバラだが、目指しているもの、思いは一緒だということが見えました。同じ山頂を目指しているが、上るルートが違う。みんな仲間なんだとすごく安心しました。バラバラでも同じ方向、理想とする目標に向かっていけば力が生まれてくるのではと。
こんな空間がほしい、コンサート会場がほしい、自然体験をしたい、という共通の目標
ポストイット会議から見えたもので、バラバラな人たちをつなぎ合わせるものが見えて来ました。それは、目には見えず、実物としてはないが、感じられたり、体験できたりするものだった。たとえば、こんな空間がほしい、コンサート会場がほしい、自然体験をしたいというようなもの。これがみんなをつなぎ合わせるキーワードかと思って、雑木林の演奏会につながった。雑木林という空間で、自然を体験するとか、子ども達が自由に遊んでいるとか、音楽を楽しめる、食事ができる・・・・。何のカテゴライズもなく誰でも集まれるような自由な空間は、バラバラなものをつなげられるのではないか、ということでスタートしました。肢体不自由なお子さんも参加、ニワトリも放した。売店、音楽、木工の体験、縄ゆい、焚火。演奏者の後ろで子どもが走り回っているが、たまに立ち止まって音楽を聴いたりしている。それぞれバラバラなのに、同じ空間で同じ方向を向いて楽しんでいる。さあみんな一緒にやりましょうではなく、それぞれが好き勝手にやっているのに、雑木林の中ではなぜか同じ方向に向かって進んでいる感じがする。
ミニマムは勝手、マキシマムでは生態
ミニマムとして自分の人生は、好きなことをやった方がよい。だけど、マキシマム全体として生態というかたまりになっている。こういう形がいいなと思って。
たとえ話として腸内細菌とヒトの関係。人の腸内には微生物がものすごい数棲んでいる。人は口からお尻の穴まで、竹輪の穴のようになっていて、腸内は実は体内ではない。微生物は勝手に暮らしているが、彼らも含めて人だ。地球の上に住んでいるヒトは微生物のようなもの。僕らは勝手に生きているが、地球全体は一つの生命体のかたまり。この矛盾が組織の原理原則ではないかなと。
山をきれいにすると海がきれいになる
「ブルースカイ王国」では、演奏会で寄付金を募り、毎年雑木林の高枝剪定をしてくれる職人を頼んでいる。コンセプトは水をきれいにしようということ。山の豊かな森から流れ出た雨水が里山のタンボに入り稲を育て、川に入りサワガニを生かし、最後河口から流れ出てカキを元気にする。山をきれいにすると海がきれいになる。
理想的コミュニティ
将来、こんな理想的コミュニティを作っていきたい。
雑木林の木材を使い、場所・空間を作り、みんなの居場所にする。広いワイナリーのようなところに家庭菜園があり、カフェや食堂が併設されている。雑木林のマキを使い、障害者も入れる銭湯。助産院と、産前産後の居場所、子どもたち放課後の居場所もある。自然も微生物も喜び、僕たちの食卓も豊かになり、未来の子供たちも安心した暮らしが営めるような空間です。
(以上は2020年2月16日、富士見市の水谷公民館で開かれた富士見市地域・自治シンポジウムにおける明石さんのお話をまとめたものです。写真は一部明石農園ホームページより拝借しました。)
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