川越の時の鐘の裏通りにその店はある。オーナーの林裕之さんの夢が叶った店だ。そこでは誰もが、美味しい珈琲を飲み、自分の時間を過ごせる。正に隠れ家のような喫茶店である。
(2024年7月に再訪し、2007年11月記事を再掲します。写真は更新)
フランス語で「隠れ家」
―いつからこのお店を。
林 1997年ですかね。その前はバッグ屋さんに勤めてまして。
―出身は川越ですか。
林 大宮です。
―喫茶店をやろうと思ったきっかけは。
林 中学生の頃、喫茶店を舞台にしているアニメがあったんですけど、それを読んでいるころ、喫茶店やりたいというのが漠然とあったんですね。月日がだんだん経つにつれて、どういうのっていうのをつめてきた。だんだんコーヒーのほうに入っていくわけですね。結果的にコーヒー専門店的な店に、今なってますけど。
―川越のこの場所にしたのは。
林 川越が第2候補だったので。川越来てすぐ、ここに決めちゃったみたいな感じ。ほとんど周りをあんまり知らないまま始めたんですね。結果的に非常に良かったと思ってます。
―あぶりの意味は。
林 コーヒーを焙煎している「あぶる」という意味を兼ねて、フランス語で「避難所」とか、「隠れ家」的な意味の「アブリ」をとって「あぶり珈琲」。
―このお店の設計は。
林 椅子とか自分でほとんどやりましたね。サラリーマンの時、デザインをする部署だったので、専門ではないんですけど本を切り抜くだとか、写真を撮って、スクラップしてまとめていって、イメージができた。ベースにあるのは、自分がお客さんで来たい店。じーっと本を読めるような店づくりにしたかった。
家具にこだわりが
林 それぞれバラバラな椅子とかなんですけど、一つ一つ自分で腰掛けてみて、そこから見える壁の様子とか、カウンターの様子とか。全部いちおう確認して「よしよし」というんで、こういうセッティングになっているんですね。
―スージークーパーが合ってますね。
林 あれもアンティーク屋さんでセールのときに。セールとはいえ、すごい金額でした。20数万円。30万円近いです。
―あの中は全部、スージークーパーなんですか。
林 ほとんどそうですね。だいたいワンセットで買ってるんで。
―珈琲の話。
林 珈琲の味はですね、単純には僕が美味しいと感じるコーヒーなんですけど。飲食全てそうだと思うんですけど、どんどん自分の中でレベルって上がっていっちゃうんですよね。食通の方っていうのはある意味、不幸だなと思う。美味しいと感じるものが、自分の回りからどんどんなくなっていく。僕も、自分で言うのも変ですけど、自分が美味しいと感じる珈琲がすごく狭くなって、少なくなってきている。それは自分の中だけの問題で、お客様がどう捉えるかは、自由に、とは思ってるんですけど。
スペシャルティという豆がある
―淹れ方とか。
林 一番はやっぱり生豆でしょうね。素材を良いのを使ってない限り、どんなことしても美味しくはならない。
―なんていう種類。
林 大まかにいうと、今、注目されているスペシャルティという分類に入る豆ですけど。発祥はアメリカなんですけど。その農園とかを守るために、良い豆を作った農園からは適正な良い価格で買っていこうよという動きの一環で、スペシャルティという名前が発生しているんだと思うんですけど。だからまあ土壌から考えられている。
―個人的に好きなコーヒーは。
林 ケニアの抜群のグレードの豆が。日本に流通してなかったランクの豆を仕入れているので。
―お客様はどんな。
林 地元の方が多いですね。裏通りなので。
リフレッシュする場として
―雑誌もおもしろいものを置いていますね。
林 なるべく、現実から離れた時間を過ごせる場としての道具だと思って。ニュートラルな自分になってほしいという意味では、新聞は現実の世界なので、置きたくない。
―最近の川越の変化について感想は。
林 大河ドラマかなんかで、川越が一部使われたのかな。それをきっかけに観光をどんどん進めていって成功したパターンだと思うんですね。なにっていうものがない割には、何となく面白い町になってきた。これから継続するのは大変なことだとは思うんですけど。うちみたいな小っちゃな店が、それぞれが一生懸命やることが、まちの活性化の一つの役に立つんだとは思ってるんですけど。
―今後の夢は。
林 夢、今かなっちゃってるんで。夢はかなえるものだと思ってるんですけど、今まっただ中で日々楽しいです。