鶴ヶ島市在住の田口美恵子さん(サンシャイン・ドリーム企画代表)は、ある時は学校・PTAで、ある時は老人ホーム、ギャラリー、レストラン、ホテルなど、地域の様々な場で音楽のコンサートなどイベントを企画、運営している。「パリ祭 イン・ヌエック(国立女性教育会館)」など自ら主催する大舞台のコンサートも開いてきた。そのバイタリティあふれる活動を突き動かすのは、音楽は人間関係を豊かにし今の時代に必要だという思いと、自身も楽しいからという。
PTA主催のコンサートが始まり
―このような活動を始めたのはどういう経緯からですか。
田口 私は結婚して子どもが生まれて坂戸から鶴ヶ島の富士見団地に引っ越してきました。子どもは3人で、子どもの成長とともにPTAの本部の役員になり、それから図書館の読み聴かせ、公民館、保健所の健康づくり、自治会と、いろいろな場所を変えて、地域の活動が広がってきました。
―音楽のコンサートをするようになったのは。
田口 PTAの中学校の本部役員の時に、PTAは予算があるのにどう使うかわからない。みんなで考えようとなったが案が出ない。そんなもったいないことはないので「では音楽はどうですか」と委員長である私は真剣に役員さんに声かけしました。シャンソン歌手に知り合いがいたので関西の人ですが聞いてみると「行きます」という返事をいただき、すぐに公民館を借りて役員さんに役割分担を振り分け手づくりのイベント(「大村禮子シャンソンのゆうべ」)を企画した。参加者250人、保護者、地域の人、行政の人、驚く人数が来てくださり大成功に終了したのが1992年。これが始まりです。
―それまで、音楽に関係していたのですか。
田口 いいえまったくです。ただ子どもの教育は大事と思っていて、PTAの役員になっていい子ども達を育てるにはすべてのことを実践しなければいけないと考えました。昔から朗読、読み聞かせ、唄は大好きでした。
それと私は学生時代から福祉・教育関係のプロになって働きたいと思い、1年間病院勤務をした後群馬県庁の職員になりました。当時法律で特別養護老人ホームができた頃で、モデル県を宣言し施設を創った時に、初代の栄養士として就職しました。職員数が少なく何でも屋さんをやり10年が過ぎました。120人の赤裸々に繰り広げられる人間模様は20代の私にとって衝撃でした。入所している老人の人たちにどうしたら喜んでいただけるだろうかと毎日真剣に考えいろいろなことをやりました。それがきっかけで音楽は人間を元気にすると実感したのです。
―それから、イベントの企画をすることに。
田口 こんな経験があったからでしょうか、人を喜ばす企画が苦にならずに自分も楽しみながらいろいろ実施をする機会が多くなりました。自分の性格にも合っていたのかもしれません。いろいろな方々から声がかかり相談を受けるようになったのです。何をやっていいかわからない。私も好きなので、自分の考えを率直に申し上げ、この方がいいのではないですかと言ったりもします。すると相手の方もそれでいきましょうということになり、私も楽しんでやっていました。
森林公園でイベント実施 1998年
―森林公園のイベントを。
田口 ある時、朝日新聞で、国営武蔵丘陵森林公園で公園緑地管理財団(現公園財団)が主催する「夢プラン」募集の記事を見ました。緑を使ってよいアイデアはないか、あなたが主役で人を集めてイベントを実施してくださいとあるのです。当時私は小学校のPTAの副会長をしていました。森林公園は大好きな場所です。少し遠いけれど、今の子ども達は、親も忙しく緑や花を見る機会がなく日常が過ぎ、子とのコミュニケーションもとれないことが多い。こんな時こそ、緑や花を見て、自転車に乗ったり、家族で弁当を食べたり、ゆったりと楽しむことが必要だと感じたのです。PTAとして見守りながらみんなで森林公園へ行く企画を作り提出しました。最初の年90の応募の中から26件が採用され、トップバッターを我がチームが実施することになりました。アーティストをはじめこの指とまれのスタッフたち大学生達を巻き込んだ。1998年の「森に響かせよう夢コンサート」です。審査があり賞をいただいた。それをきっかけに森林公園で2001年「21世紀かがやき夢コンサート」、2004年「21世紀きらり夢コンサート」を実施。本当に大勢の人たちが来てくださり、森林公園の入園者も増えたと聞いています。
―ボランティアなのですか。
田口 森林公園からも出演者グループからも運営費をいただいてやっているわけではなく、テント3張は森林公園から借りましたが、他は全部自費です。印刷から出演者の依頼、参加者の呼びかけもすべて自分のネットワークでした。やっている時は夢中で目的達成のために真剣でした。その結果、夢プランの審査で最優秀賞になったら新聞に記事が出て多くの人の目に止まったのです。しばらくして地域の鶴ヶ島富士見連合自治会からお呼びがかかり夏祭りの総括をしてほしいという。辞退をしましたがどうしてもということで受けさせていただきました。町内のことですので、大人から子どもまで市民総参加型、出演者も公民館で活動しているグループに声かけし参加していただきましょうと提案。よさこいソーラン、津軽三味線、小学校・中学校の音楽団など2日間合計で350人の出演者で大成功でした。私は総括は3年で降りましたが祭りは今年で43年目になりました。
お店の活性化、開店記念、ギャラリー、老人クラブのイベント
―他にもいろいろな依頼が。
田口 今は皆さん、あの人はイベントを企画する人みたいに思ってくれていますけど、自分から持ち込むばかりではなく、頼まれた時にこういう案もというアドバイスをします。公民館、文化施設はもちろん、学校、レストラン、ギャラリー、ホテル、障害者施設、老人クラブ、お店の新装開店祝い、喫茶店の活性化、行政が主催の活性化イベントなど。これまで200くらいはやったでしょうか。中でも坂戸グランドホテル(2024年閉館)の催しは多かったです。閉館は残念です。地域も坂戸、鶴ヶ島をはじめ東松山、滑川、川越、名栗、神川、上尾、上里、群馬・前橋、赤城山にも行きました。東京にも出向きます。
「パリ祭 in NWEC」
―自分で企画立案したイベントを主催されることも。
田口 ハイ。嵐山の国立女性教育会館(NWEC=ヌエック)でボランティアをして30年と少しになるので、NWECの大講堂600席のホール(あるいは音楽室、ランウンジ)いろいろなことを実施してきました。男女共同参画事業の一つとして、自然環境のすばらしいところで、芸術文化の振興、次世代育成、地域の活性化、また障害者支援などその時々の世の中の状況に合わせた必要なテーマの講演を開き、2009年から「パリ祭 in NWEC」、その他大小様々な「嵐山に奏でる夢コンサート」、東日本大震災支援イベントなどを実施してまいりました。スタッフは「この指とまれ」の主旨に賛同してくださる方々にお願いしました。企画はほとんど私ですが、大きな舞台を実施するといろいろな課題が生まれ、次回はその課題をクリアできるよういろいろな方に力をお借りして当日を迎えます。2017年に、文部科学大臣より社会教育功労賞を受賞いたしました。
―NWECではどんなボランティアをされているのですか。
田口 施設案内や図書の整理、情報課の「あんな本こんな本」の発行、主催事業のお手伝いなどの他に、上記のコンサートを企画提案してきました。NWECの利用率を上げるために、国や行政の事業だけでなく、一般の方もおおいに利用し自分自身の学びの場として、人間の生き方、働き方、ジェンダー問題、国際的な交流を含め世界の人々の学びの場として利用すべきと考えているのです。地震、洪水、噴火、火災など予期せぬことが起きます。2024年には能登大震災も発生し世界では戦争も起きています。本当の幸せ追求を考えたいものです。今こそナショナルセンターとしてのNWECの存在は大であり、災害時の避難先にもなり、縮小するよりアイデアを出し合って活性化に力を注ぐべきだと思っております。
―これからも主催コンサートは続ける。
田口 コロナで中止しましたが、これからも大小さまざま、場所、テーマ、目的によって違いますが、実施しようと思っています。今まで実施してきてまたやってほしいとの声が多く、芸術文化の力は人間生活をする上で重要なキーポイントです。身近なところで本物を追求する営みは不可欠です。私は音を紡ぐ人と人とを結びつけながら生きて考えていきたいと考えています。
音楽家のネットワーク
―ずっとやってこられて音楽家のネットワークも広がったのではないですか。
田口 おかげさまで本当にすばらしい音楽家の人達とお付き合いさせていただいております。元宝塚または劇団四季にいた方とか 東京芸大を卒業しオペラで頑張っている方、音楽大を卒業し地域で長い間研鑽を積まれている方、などが大勢いらっしゃいます。多くの人とつながることができてありがたいことです。感謝です。身に余る光栄です。人生の中で出会った大切な人と考えています。音楽だけではありません。自分の職業も趣味も研鑽をし努力しそれを表現する手段がある人は本当に輝いています。だからこそ人生はどんな環境にあっても自分自身が創り上げるものだと確信するのです。
―東上沿線で面白い人がいますか。
田口 いますよ!いっぱい!歌手をはじめピアニスト、ギター、ヴァイオリン、ハープ、フルート、チェロ、トランペット、アコーディオン、津軽三味線、尺八、唄、落語家、映画監督、鼻笛、その他いろいろ。あらゆるジャンルの、希望の人を提案できます。
楽しんでいたのは自分
―これまで振り返ってみていかがですか。
田口 振り返ってみると楽しんでいたのは私だったかもしれません。企画は夜中でも考えられますし楽しい。一つ一つのステージを作り出す音楽家の才能の素晴らしさ。その表現によってステージは全く変ります。その素敵な人材をそれを楽しみにしている人達に届けられることはさらに楽しさを感じます。
―田口さんにとって音楽とは。
田口 元気と勇気を生み出す癒しの至福の空間でしょうか。人間は多くの人と出会いお互いにいろいろなことを学び合いながら生きています。激変していく時代、いつ何が起きるかわかりません。今こそ、人に学び、人を大切に生きることが求められています。唄や音楽は、言葉にはできない心模様を表現してくれます。私は、音楽を介して豊かな人間関係が作れると思います。だからこそ音楽は素晴らしいのかもしれませんね。認知症を予防するにも音楽が効果的であることも実感します。長い間私の活動にご支援ご協力いただいた大勢の人達に心からお礼申し上げます。今後もいろいろの視点を企画の中に盛り込みながら続けていくつもりですのでよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。(取材2024年9月)
田口さんの連絡先 090-7700-2118