退職後の収入を確保したり、生きがいを得るため、高齢者にとっても働くことが大切である。また国全体としても労働力を確保し、財政状況を改善するためにも、高齢者就業の促進が一つの課題だ。高齢者に就業機会を提供してくれるのがシルバー人材センターで、どこの町にもある。シルバー人材センターとはどんなところで、どのように利用できるのか。埼玉県ふじみ野市、富士見市、三芳町を受け持つ入間東部シルバー人材センター事務局の渡邉智弘次長にご説明いただいた。
会員制の公益社団法人組織
―シルバー人材センターはどのような組織形態ですか。
渡邉 公益社団法人で会員制の組織です。会員の総意で運営されることになっています。
―法的な裏付けがあるのですか。
渡邉 昭和61年に施行された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」は高齢者の就業機会の確保を国と自治体に義務づけ、シルバー人材センターの役割を法的に認めています。
―所管官庁は。
渡邉 厚生労働省です。
―行政からの支援があるのですか。
渡邉 国と市から補助金があります。また市から仕事の発注をいただいています。
―職員は。
渡邉 職員はセンター独自の採用で、行政との交流もありません。
入間東部センターは2市1町の広域センター
―設置は市ごとですか。
渡邉 基本は市町村単位で設置することになっています。ただ、当センターは、入間東部ということでふじみ野市、富士見市、三芳町をエリアとしている広域のセンターです。これは市町村の平成の大合併の時に、上福岡市、大井町、富士見市、三芳町の4市町で合併しようという話があり、センターも一緒になろうと計画されました。住民投票の結果、上福岡市と大井町の合併だけになったのですが、センターは広域の方が効率的に運営できるのではないかと、その後平成28年にふじみ野市、富士見市、三芳町のセンターが合併し、公益社団法人入間東部シルバー人材センターになりました。広域は県内では当センターと朝霞地区(朝霞市・和光市・志木市)の2つです。
―入間東部センターは各市に拠点があるのですか。
渡邉 ふじみ野市亀久保の本部事務所の他に富士見市、ふじみ野市上福岡、三芳町に事務所があります。
―職員は。
渡邉 全部で30名です。
―「いきいき埼玉」とは。
渡邉 埼玉県シルバー人材センター連合。各センターをとりまとめている上部団体で伊奈町にあります。
60歳以上、年齢の上限はない、平均74歳
―仕事をするには会員になる必要があるわけですね。
渡邉 就業機会の提供を受けるにはまずセンターの会員になっていただきます。
―会員の条件は。
渡邉 60歳以上で、健康で働く意欲があればどなたでも。年齢の上限はありません。
―実際にどのくらいの年齢の方が働いているのですか。
渡邉 平均年齢は74歳くらい。80代後半の方も簡単な仕事ならやっていただいています。
―男女比は。
渡邉 当センターでは3分の2が男性です。
―住所はエリア内でないといけないわけですね。
渡邉 ふじみ野市、富士見市、三芳町在住が条件になります
―どういう人が多いのでしょうか。
渡邉 様々ですが、基本的には定年退職して何もしないのもどうかと入会してこられる方が多い。今定年年齢が上がっているので、会員の平均年齢も上がってきています。
―仕事の能力は、最低限これくらいはできないとという条件はないのでしょうか。
渡邉 ありません。公益法人ですので、どなたでも受け入れることになっています。
―資格は。
渡邉 特に資格は必要ありません。ただ、高所作業の剪定などの特殊な仕事の場合は講習を受けていただきます。
臨時的・短期的または簡易な業務
―勤務時間は。
渡邉 シルバー人材センターが提供する業務は臨時的・短期的または簡易な業務とすることになっており、おおむね週に20時間以内が基準です。
―短いのは。
渡邉 どんなに短時間でもかまいません。1時間単位です。
―仕事は継続するのですか。
渡邉 継続する仕事が多いですが、スポットも請け負います。
―継続の場合、更新の期限は。
渡邉 基本は1年ごとに契約を更新します。公共的な仕事などで人気がある仕事の場合は定期的に入れ替える場合もあります。
請負契約
―契約の流れは。
渡邉 会員登録時に希望職種や時間をお聞きし、随時発注情報をお知らせします。希望に合った仕事があれば、当センターが発注者と請負契約を結び、さらに当センターが会員と請負契約を結び、業務を実施していただきます。
―雇用の形態は請負ということですか。
渡邉 基本は請負です。この他、派遣という方式もあります。
―請負と派遣はどう違いますか。
渡邉 雇用されているかいないかです。通常働く時は雇用契約を結ぶわけですが、シルバー人材センターは仕事自体を請け負っていただく。たとえば清掃をやりますという仕事を請け負う契約をし、仕事を完成させて対価をいただく。これに対し派遣は、上部団体のいきいき埼玉がやっているが、そこが会員を雇用して仕事先に派遣します。
―請負の場合は時給制ではなく、最低賃金は適用されないということになりますか。
渡邉 時給制ではありませんが、厚生労働省の指導で最低賃金を上回るように設定することになっています。
―特に年をとった人など報酬が少なくても楽な仕事をやりたいという要望もあると思いますが。
渡邉 最低賃金以下では会員さんからしかられることもあります。
―報酬は全部会員に支払われるのですか。
渡邉 請負の場合、発注者が対価として支払う報酬は配分金としてそのまま仕事をした会員にお渡しします。それと別に事務手数料としてプラス8%を発注者からいただき、センターの収入になります。
広報紙配布、施設管理、用務員、清掃、見守り、植木
―どんな仕事が多いのですか。
渡邉 様々ですが、実績として多いのはサービス(広報紙配布、施設管理、用務員など)清掃・包装関係(店舗、公園、マンションなど)、保安(見守り、放置自転車)、農林(植木剪定など)、などでしょうか。
―ハローワークで求職するのとの違いは。
渡邉 気軽に仕事ができることでしょうか。うちは基本は請負ですから、雇用されるかどうかも異なります。
6割が企業、3割が公共、1割が個人からの発注
―発注できる仕事の範囲に制限はありますか。
渡邉 危険な仕事など特殊なもの以外はOKです。
―発注者は個人、企業、公共機関とあるわけですね。
渡邉 6割が企業、3割が公共、1割が個人がおおまかな割合です。
―公共機関の仕事はたとえばどんなものがありますか。
渡邉 放置自転車対策とか公園の清掃とか公民館の受付とか。
―企業にとってはハローワークに求人を出すのと違いは何でしょうか。
渡邉 簡易な仕事を雇用契約もなくすぐ依頼できることが大きいと思います。人を探す手間がかかりませんし、辞めたら次の方をすぐ紹介もできます。また雇用したら労災保険が必要ですが、シルバー人材センターの場合は入会時に傷害保険をかけています。
定年延長で会員が減少傾向
―今人手不足の職種もありますが、シルバー人材センターなら人材に余裕があると言えますか。
渡邉 必ずしもそうではありません。センターも会員が少なくなり、人手不足が進んでいる状況です。
―それはどうしてですか。
渡邉 一つは定年年齢が上がり、入会する方の年齢が上がっていることがあります。
外仕事を希望する方が少ない
―特に人が足りないのはどんな仕事ですか。
渡邉 除草と植木の剪定ですね。植木は年度末まで予約が埋まっています。
―草むしりの依頼は多いと思いますが。
渡邉 依頼が多いのですが、やり手が少ないです。若干単価を上げており、今1時間1200円くらいですが。
―除草や植木はなぜ足りないのでしょうか。
渡邉 外仕事を希望する方が少ないのです。人気があるのは、やはり屋内の受付の仕事だとか。
―逆に、事務系の仕事などはそもそも発注が少ないのではないですか。
渡邉 実際はシルバーの方でも事務仕事の能力の高い方も多くいます。我々の発信力が足りない面もある。もっと努力して企業にPRしていかなければいけないと考えています。
―会員になるには会費がいるわけですね。
渡邉 年2400円です。
―会員の交流活動もあるのですか。
渡邉 サークル活動やグラウンドゴルフの催しなど。
―センターの事業は伸びているのですか。
渡邉 令和元年が一番多く、その後コロナでガクッと落ちて、今少し回復しているところです。
インボイス制度で負担が
―センターの課題は何でしょうか。
渡邉 来年消費税のインボイス制度が始まる。配分金に消費税が含まれているのですが、会員さんは課税事業者に登録をしないので、消費税を払い出したという控除ができなくなる。センターがその分消費税をよけいに納めなければいけない。配分金が6~7億円くらいありますので、最終的にプラス10%消費税を納めなければならない。手数料として上載せするとお客さんの負担が増します。どうしたらよいか思案中です。
(取材2022年10月)