ラドンガスを吸入したり、低線量の放射線を浴びることで、健康を増進したり、病気を治そうという低線量放射線療法(ホルミシス療法)。放射能に対するアレルギーが強い日本では、抵抗のある人も多いが、健康志向の高まりで関心が強まっている。ホルミシス療法にいち早く注目し、いろいろな方面から行動を起こしている方々もいる。日本におけるホルミシス研究の主導者である服部禎男元電力中央研究所名誉特別顧問にお話をお聞きした。
以前、放射線はすべて有害と考えられてきた。ところが、1982年にアメリカのNASA(米航空宇宙局)の研究者であるトーマス・D・ラッキー博士が、微量の放射線を当てると、免疫系が強くなったり、ガンにかかりにくくなるなど、体によい効果があるという論文を書き、世を驚かせた。日本では、当時電力中央研究所の初代原子力部長であった服部禎男博士の主導で、10以上の大学で動物実験、臨床研究が展開された。
そして、最終的に従来の放射線治療の数百万分の1の弱い放射線を用いた低線量放射線療法である放射線ホルミシスが認知されるに至った。放射線ホルミシスは、副作用もなく、難病と言われる病気の多くが克服できる可能性をもたらした。患者に希望の光を与えるものだ。
生体エネルギーがアップ
低線量放射線治療は、ラジウムから発するラドンガスを吸ったり、鉱物を埋め込んだプレートから発する微量放射線で治療する。どのような効果が期待できるのか。まず生体エネルギーを上げてくれる。第2に、体温が上がる。たとえばがんの人は低体温が多く、体温が上がることは体によい。第3に、免疫力がアップする。
実験で、人間に換算すると60歳代の3匹の末期ガンの鼠に微量放射すると、5週間でガンは消失し、肌が若返り生殖行為が盛んになったとのこと。
大学の研究者がとったいろいろなデータがある。活性酸素を消す代謝酵素は3千くらいあるが、ホルミシス効果で体が赤くなると、それが一斉に活性化していることがわかった。
その時、160種類くらいあるホルモンも5割程度アップする。アドレナリン、ドーパミンやセロトニンも一緒に出てくる。代謝酵素とホルモンが体の中を回り、体が変わる、という。
玉川温泉も基本は一緒
有名な玉川温泉(秋田県)や三朝温泉(鳥取県)などラジウム温泉は全国にいっぱいある。玉川温泉は地熱で熱い岩の上に寝ているとガンが治るという評判で、多くの患者が押し寄せる。ホルシミス療法も、基本は一緒で、ラジウム温泉をより科学的にした治療法と言える。
ラドンガスを吸う安倍首相
2013年、安倍晋三首相がラドンガス吸入器を使っていると週刊誌で報じられた。安倍首相はラドン吸入機を2百万円で買い1万7千ベクレルのラドンガスを毎日吸っているという。今回、元気で政務をこなしている秘訣はここにあるのかもしれない。
ホルミシスの普及を進める超党派の議員連盟も出来た。日本では福島の原発事故もあり、まだ放射能に対する拒否反応が強いが、その有効利用法も徐々に浸透を始めている。
放射線ホルミシス研究を主導
服部禎男さん
長らく原子力発電に携わり、日本における放射線ホルミシス研究の主導者である服部禎男元電力中央研究所名誉特別顧問にお話をうかがった。同氏は、2017年、原発の意義とホルミシス効果の有効を述べた『遺言―私が見た原子力と放射能の真実』(かざひの文庫)を著した。
服部禎男(はっとり・さだお) 1933年生まれ。東京大学工学博士。名古屋大学工学部卒業、中部電力入社。東京工大原子核工学修士課程修了。米国オークリッジ原子力研究所原子炉災害評価研修課程へ。1972年動燃事業団・新型原子炉開発本部へ出向。1980年電力中央研究所の初代原子力部長に就任。1986年米アルゴンヌ原子力国立研究所と金属燃料高速炉および乾式再処理に関する研究協力を開始。1989年電力中央研究所原子力担当理事、2001年同所名誉特別顧問。
トーマス・D・ラッキー博士
-放射能と人体の関係についてどのように言ったらよいでしょうか。
服部 放射能は程度によってDNAを適当に刺激してプラスの効果があります。DNAが元気になる。ただやり過ぎると有害効果が出てくる。その微妙な使い方が重要です。
-有益と有害と境界線はどのくらいですか。
服部 境界線についてはトーマス・D・ラッキーという人が、丁寧にデータを整理して、自然放射線(日本で平均年1.5ミリシーベルト)の100倍くらいが一番体にいいよと、ラッキー曲線という曲線で表しました。それが始まりなんですが、放射線は危ないと決めつけている人がいるので、なかなかうまく周知されないんです。
-年100ミリシーベルトあたりですか。
服部 それくらいです。100ミリシーベルトあたりまでなら健康にまったく問題がないことが調査から明らかになっています。
-それ以上だと有害だということですか。
服部 絶対に有害ということではありません。ある段階から有害になっていく。微妙なラッキー曲線は世界から注目を集めました。
-ラッキー博士が最初にホルミシス効果を唱えたのですか。
服部 ラッキー博士が未知のホルモンだということで「ホルミシス効果」と名づて世界に発表したのです。
-それを日本にも紹介したのが服部さんですね。
服部 これはすごい人だなと思い、会いにも行って、教えていただきました。ラッキーさんの面構えには感動しました。私は尊敬しています。世界のスーパーリーダーだと思います。
放射線でDNAが目覚める
-放射線はDNAに働きかけるのですか。
服部 DNAは、何も仕事をしなくなるとボケてくるんです。それに適当な刺激を与えると目が覚めて活性化する。その微妙な働きをラッキー博士が見つけた。
-ホルミシス効果でDNAが活性化することで病気も治るということですか。
服部 DNAの居眠りでいろいろな病気が出てくる。軽い放射線で居眠りをさせないように刺激して仕事をさせます。元気になるし病気を治し、よいことをいろいろやります。ただ、オーバーにやればDNAはこわれる。
-ホルミシスを体験するにはラジウム温泉に行けばよいのですか。
服部 100ミリシーベルトくらいを浴びればよいわけです。温泉に行かなくても、いろいろな方法があります。
放射能がこわいという通説
-原子力、放射能がこわいという通説はどうして形成されたのでしょうか。
服部 当初、放射線に関する理解が十分でなくエックス線利用で障害が起きたこと、原子爆弾の悲劇、原子力発電所事故などいろいろありますが、さらに石炭、石油火力でおおもうけするという大きな組織ができてしまったこともあります。原子力施設で作業をすれば少しくらいの放射能は浴びるわけで、それがよくないと言えば、原子力利用にブレーキがかけられるのです。
超小型原子炉
-服部さんは原子力発電を推進すべきとのお立場ですね。
服部 従来のエネルギー源は、ものを燃やさなければいけません。燃やせば必ず炭酸ガスが出るわけです。膨大な炭酸ガスが排出され、地球温暖化、環境問題に有害です。そうではなく、原子力エネルギーを活用し、放射線を適度に使うのがよいということです。
-小型原子炉を唱えていらっしゃる。
服部 原子力発電の安全性を高めるために私が発案したのが超小型原子炉です。シンプルな構造なので、ヒューマンエラーが発生する余地もなくなり、安全に低価格で発電できます。設計が簡単になるのは本当に楽なことなんです。万が一事故が起きても小さな原子炉ならわずかな放射線で済み、簡単に始末できます。1万キロワット小型原子炉をあちこちに分散して配置すれば、世界のエネルギー問題は解決できます。
最後のつぶやき
-お年は。
服部 もうじき87歳です。
-『遺言―私がみた原子力と放射能の真実』という本を出されましたが、「遺言」とはどういう気持ちからですか。
服部 これ以上書かないと言い方をした方が世間の敵は少ないだろうと。最後のつぶやきですという意味です。これ以上書いて暴れるつもりはありませんと。
(取材2020年5月、本記事は服部さんのインタビュー、著書、及びホルミシス療法関係者への取材により構成しました)
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