『2018年 資本主義の崩壊が始まる』(かんき出版)。こんな物騒なタイトルの本が、書店に並んでいる。足元世界経済は好調で、株価も上昇しているが、同書によると、年内にも金融危機が勃発、日経平均株価は1万円割れまで暴落する可能性があるという。著者は、在野のエコノミスト、野田聖二さん(狭山市在住)。資本主義が崩壊するカギは、自然界の法則である「エントロピー増大の法則」が働いているため、という。
エントロピーが増大、技術革新が生産性上昇に結び付かない
-「資本主義が崩壊する」とは、ものすごく大きなテーマに取り組まれたわけですが、それはどのような考え方なのですか。
野田 技術革新によっても、なかなか生産性は上がっていかないということです。その理由は、エントロピーという自然科学の法則を使って説明しています。
-エントロピーとは。
野田 エントロピーとは「乱雑さ」や「無秩序」を表す指標です。エントロピー増大の法則は、秩序あるものが時間とともにバラバラに、無秩序になっていくという自然界の法則です。たとえば、コーヒーの中にミルクをたらすとミルクが一面に広がっていくようなイメージです。このことは、当然経済にも当てはまると思います。エネルギーの例で言えば、排気ガス公害とか原子力発電所の放射能の問題などがあります。技術革新が進むことで人間にとって役に立つエネルギーは取り出せるけれど、その対価として不要な廃物もしくは有害なものも同時に生み出してしまい、それを処理しなければいけない。それが経済的コストになり、生産性を下げてしまうことになります。
エネルギーだけではなく経済活動全体で見てもエントロピー増大の法則は成り立っていますので、技術革新によって社会の生産性がある面では上がって、より便利な社会になっていくように見えますが、何かを犠牲にして生み出しているわけで、犠牲になっている分までトータルで見てみると、社会の秩序を維持するためのコストが技術革新によって増えてしまうということだと思います。コストの部分が生産性を下げてしまうわけです。
すでに経済成長が鈍化
-少なくとも今まではGDP(国内総生産)が増加し成長してはいますが。
野田 成長率自体は落ちてきています。その要因としては、人口減少の要因もありますが、生産性自体が下がってきていることが大きいのです。
-現在が成長の限界に差し掛かっているということですか。
野田 そうです。日本を先頭に、先進国、さらに中国も同じような状況に向かって進んでいるのではないかと思います。成長率が落ちていること自体が、そのことを表していると思います。技術革新が進んでいるのになぜ成長率が落ちているのか、私自身が不思議でした。
-エントロピーに注目したきっかけは。
野田 景気循環を研究している時に、経済だけではわからない、景気循環の発生が説明できない、掘り下げていくと生命現象と景気循環を同じ視点でとらえなければいけないという考えにたどりつきました。自然科学、生命科学により、生命そのものの発生が解けなければ景気循環もわからないという視点を持つようになったのです。
かつて、1980年代に、公害の問題をどう考えればよいのかという議論の中で、「エントロピーの経済学」が自然科学者の方から問題提起されたことがありました。私は、それを今の時代に合うように発展させ、深めたということだと思います。
生命はエントロピーを減少させるが、その力は弱まる
-エントロピーは人間の努力で減少もするわけですね。
野田 突き詰めると、物質と生命の違いに行き着きます。物質と生命を分けるものはエントロピーなんです。物質は、エントロピー増大の法則が働いている次元ですが、生命の特徴は、エントロピーを減少させる働きがあることです。生命には物質とは違う法則が働いていることを説明したのが、あとがきにも書きましたが故野澤重雄博士が提唱した「ハイポニカ理論」です。「物質法則を超えた自然の性質としての生命法則が存在する」という博士の考え方は、エントロピー減少の法則を言っています。
-エントロピーが減少していければ、資本主義崩壊も止まるのでしょうか。
野田 歴史を振り返ると、中世から近代へのパラダイムの大きな転換があり、その上に近代科学、資本主義も誕生しました。生命がより働きやすい環境だったのが中世で、近代は生命が物質化するという、大きな変化があったのではないかと考えています。資本主義は、一面では物質的に豊かになりましたが、エントロピー増大は止まらず生産性が上がらなくなってくるということです。
2018年にも金融危機発生、日経平均株価1万円割れも
-本の第1章では、2018年に金融危機発生、景気が急速に悪化、日経平均株価1万円割れ、1ドル80円の円高など、「10大予言」を示されています。
野田 生産性の上昇が限界に来ていることが前提になるわけですが、景気循環の視点から見ても、今、これだけ金融緩和を行って、資産バブルが発生している状態だと思います。それによって確かに景気の拡大が長期化して、求人倍率も40数年ぶりの水準まで上昇、一見デフレから脱却して経済成長が戻ってきたような印象を受けます。しかし、あくまで金融緩和によって経済がバブル化した結果だと思います。バブルですからいつかその反動が来るわけです。
-2018年にクラッシュが起き、世界経済、マーケットが崩壊するという予測ですか。
野田 2018年なのか19年にずれるのかは大した問題ではないと思います。前回のリーマンショックより大きくなっておかしくありません。リーマンショックは、それに先立つ金融緩和が危機につながったわけですが、その後危機に対処するためにさらに大々的に世界的規模で金融緩和が行われたのでその反動が出てくると思います。景気拡大がこれだけ長期化していること自体が、危機の目が育っていることを示します。
脳科学者の茂木健一郎氏が推薦文
-ご著書に、脳科学者の茂木健一郎氏が推薦文を寄せ、「資本主義の最良の教科書でもある」と述べています。
野田 資本主義はマルクスが初めてその仕組みを明らかにしましたが、私もマルクスを意識して本書で随所に引用しております。意図したわけではないですが、結果として、教科書になったなと思います。茂木さんという脳科学者にわかってもらえたのはうれしいです。このような推薦文は、脳科学と分野は違うが経済(資本主義)の本質を分かっていただくことができた結果だと思います。
-野田さんの普段の研究の関心はどこにあるのですか。
野田 私自身入り口は経済だったですが、むしろ関心は経済だけでなく、物事の真実を突き詰めたいということが一番の動機です。
-お仕事は。
野田 損害保険の営業をしています。今、AIが進化していますが、その一方サイバー攻撃が頻発したり、たとえば医療機関のシステム障害で被害が出るなど、技術革新が進むとそれを維持していくためのコストがかかる傾向が強まっています。そのコストは、サイバー保険、医療保険などにつながっています。保険の仕事をやらなければ、こういうことに気がつかなかったかもしれません。
野田 聖二
1982年 東北大学経済学部卒業、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年、あさひ投資顧問出向、チーフエコノミスト。2007年に独立、エコノミストとしてセミナー講師や執筆業に従事。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)、『「景気ウォッチャー投資法」入門』(日本実業出版社)がある。
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