EM(EM菌)は、「Effective(有用な)Microoranisms(微生物群)」の略で、乳酸菌や酵母、光合成細菌など、人間にとって有用な微生物の集まりのこと。琉球大学名誉教授の比嘉照夫博士によって開発された。
EMは、抗酸化作用、非イオン化作用、エネルギー転換作用の3つの効果を持ち、これにより蘇生(シントロピー)現象が引き起こされるという。たとえば、EMを使って生ゴミを肥料にすればおいしい野菜がたくさん獲れ、掃除に使えば臭いや汚れを簡単に除去できる。
EMは1982年から実用化され、当初は農業への応用から始まり、現在では生態系の復活や健康・医療・建築・災害対策など、幅広い分野に応用されている。
川越市で農業を営む野村耕司さんは、EMを露地野菜の栽培に活用している。EMを有機肥料と合わせ発酵の種菌として用い適切な土づくりをすることで、化成肥料や農薬を一切使わずに、健康でおいしい野菜づくりを実現している。
野村さんにお話をうかがった。
―EMを、畑でどのように使うのですか。
野村 EM原液(「EM1」)を種菌として使い、活性液を作ります。餌として糖蜜のほか、ジュースとか糖分のものを入れて、ヒーターで暖かくして、培養します。大きいタンクを使って1週間くらいかかります。
―原液をうすめるわけですか。
野村 最終的に2000倍に増やして使います。1リットルが2トンになるわけです。
―そうして作った活性液を畑にまくわけですね。
野村 収穫が終わったトウモロコシの木を細かく切って、チップにします。そこに米ぬかとEMの活性液をまいて、耕して ビニールを張る。それで種をまくと、結構よく育ちます。
―EMで何が起きていると言ったらよいでしょうか。
野村 EMが種菌となって発酵するわけです。EM菌という微生物も生き物という認識で、畑の中に入って発酵するには、餌になる米ぬかとかトウモロコシのチップがいるのです。
―このやり方はどの作物も共通ですか。
野村 そうです。
―これで何が変わるのでしょうか。
野村 土がふかふかになり、よい土になります。そして作物が元気になり、おいしくなるわけです。
―それはどうしてだと思いますか。
野村 発酵した成分を作物が吸うわけですが、微生物が一度肥料成分を使ってしまい、アミノ酸や糖分の形になって植物が吸収する。するとおいしい野菜になります。普通の野菜は化成肥料の成分を吸いますから、窒素成分が葉にたまりおいしくないし、発がん性があったり有害にもなります。
―お宅では、肥料と農薬は使わないのですか。
野村 化成肥料は使っていません。有機のものだけです。農薬も使いません。ただ、種や苗に農薬がついていることはありますが。種も取れるものは自分で取るようにしています。
―肥料を使わないで育つ。
野村 普通はほうれん草を作るのに石灰をまくのですが、僕は全く使いません。米ぬかは10アール当たり300キロくらい入れますが、化学肥料を使っている人は「それでは絶対できないはず」と言います。EMを使うとグングン育って化成肥料使うよりも早く大きくなります。
―農薬を使わなくて虫が来ないですか。
野村 たとえばサトイモは、連作障害を防ぐため普通は土壌消毒といって畑に薬をまいてビニールをかぶせます。EMを使うとそれをしなくて済みます。白菜も虫がつきやすいのですが、ほとんど虫が来ません。EMは土壌にとってよい菌で、その菌がうまく畑の中で発酵してふかふかの状態になると、薬を使わなくても虫は来ないし、病気にもならないのです。
―作物が健康に育つということですね。
野村 人間の健康と一緒です。病気になった人は薬を飲むが、腸の中がいい菌ばかりの人は元気で薬を飲む必要がない。つまり土が健康であれば農薬を使わなくても作物ができるということです。
―味もよくなる。
野村 今の慣行栽培の仕方は、薬漬けというか農薬を使うことが前提で、できた作物はりっぱに見えるが、食べてみると味がちょっとであったり、苦味やえぐみがあります。EMは全く違います。
サトイモは普通は親芋は捨てて子頭を食べますが、EMで作ると親芋も全部おいしく食べられます。また、サトイモは普通は下茹でをしてから料理しますが、これは一切いりません。
EMは特にネギと相性がいいようです。ネギにはクログサレという病気がありますが、EM使うとぜんぜん出ません。そして、やわらかくできます。直売所でちょっと値段を高くしても、うちのネギを買ってくれるお客さんが多い。お客さんにゆでる時間は半分でよいと言われました。
―なぜおいしくなるのでしょうか。
野村 発酵がうまくいき、土がいい状態を保てば、虫も来ないし、おいしいのです。
ニンジンで失敗したことがあります。最初のうち葉はよく育ったのですが、途中で虫が付き始め、EMとは違う液をまいたら、全部虫だらけになりました。ところが、青々と茂った頃に、ニンジンをとって食べると苦くておいしくなかった。虫に食べられて葉っぱがなくなってから食べるとおいしいんです。虫というのは、作物が呼ぶ。作物が、「もう限界だ、食べてくれ」と虫に来てもらう。そして虫の糞の成分をニンジンが吸う。するとバランスが保たれ、おいしくなるのです。虫がいるから来るのではなく、呼ぶ。食べてもらい、もういいよと言う時には、天敵に来てもらう信号を出す。天敵が虫を食べるのです。
虫がひどいからと農薬を使って虫を殺して育てるとたぶんおいしくないニンジンができる。土をよくするために虫を呼んでいるのに、農薬はそれを抑えつけてしまう。自然に逆らうといけないのだと思います。
―収量はどうですか。
野村 多いものもあるし、少ないものもあります。ジャガイモなどは10アール当たり5トン、普通の倍とれます。話ではもっとすごくて4倍とれると言いますが。
―作物はどんなものを。
野村 露地野菜です。今なら、ほうれん草、縮み菜、ニンジン、ブロッコリー、キャベツ、タマネギ、ブルーベリー、春菊、ダイコン、ノラボウナ、ワサビナ、アカカラシナ、ルッコラ、ネギ、サニーレタス、サトイモなど。
―年間で多いのは。
野村 トウモロコシ。人気があります。ほうれん草、枝豆もわりと作っています。夏はナスとかキュウリとか。
―種類が多いですね。
野村 多いです。お客さんにいろいろ欲しいと言われますので、それじゃあ作りましょうと。
―手間はどうですか。
野村 手間は、うちの場合はかかってないと思います。これだけの野菜を無農薬で作っているところはあまりないのではないかと。直売所でもうちくらい品数を出している人はいないです。
―販売はどこで。
野村 ふれあいファームセンター(狭山市)という直売場です。僕の野菜だけ、「EM自然農法」と掲げています。お客さんもだいぶ覚えてくれています。ただ、今手がないので水、土、日曜日しか出していません。
―市場に卸はしない。
野村 しません。普通に卸すと普通のものと一緒になりますし。直売ならお客さんと話ができます
―値段は。
野村 少し高くしていますが、たいして変わりません。
―野村さんは農家の跡継ぎですか。
野村 おじいさんの代からここで農業をしています。妻は看護師をしており、母と2人で農業をしています。
―おいくつですか。
野村 34歳です。
―EMはいつから。
野村 就農した最初からです。ぼくはアトピーのアレルギーでした。調べてみると原因は化学物質であったり、農薬であったり。僕が農業をやるなら、それを使わないでやろうと思ったのです。
―EMに注目したのは。
野村 高校生の時に、先生が「EMボカシ」というのを作っていた。本を読んだりしたりしたら、EMを使うことで、化学肥料がいらないやり方があることを知りました。
―埼玉県でEMで農業をされている人は他にいますか。
野村 騎西町の方がいるようです。他は聞かないです。
―EMとは結局何なんでしょうか。
野村 発酵の技術ですね。自然の仕組みを生かす技術。酒を造ったり、チーズを作ったりする技術を畑で応用したのがEMです。
―EMをうまく使うには。
野村 使い方がちょっと難しいです。観察力でしょうか。使ってみて土がよくなったかどうかもわからなくてはいけないですし。経験がないとなかなかうまくいきません。
―今後の課題は。
野村 いろいろ失敗はしています。決まれば畑作りはうまくいくが、高温であったり、雨が多かったりで、土の状態が変わってきます。その辺はもっと勉強が必要です。
最終的には、完璧な野菜を作りたいです。収量も倍くらい、虫もつかないし、誰が見ても最高の野菜。それも手間をかけずに楽に作りたい。
―EMにはまだまだ偏見を持っている人もいます。
野村 一度食べてもらえばいいです。EMは、あくまで発酵の種菌です。
―今度、NPO(EMネット埼京)の理事長になられるそうですが、農業以外へのEMの他の使い方について。
野村 どの分野でも、好きなように使って効果があればよいと思います。
野呂美加さんは、ロシアのチェルノブイリ原発事故で被爆した子供たちに北海道で療養してもらうという運動をしている人ですが、EMを飲んでいる子供は元気になって帰っていくそうです。EMは放射線を下げる作用があります。福島でも使われています。ただ、科学的なメカニズムがわからないので、公式には認められていません。その辺の解明とPRが今後の課題です。
―密集地で農業をされる悩みはないですか。
野村 昔、畜糞を使っていた頃は苦情もありましたが、今はそれはないです。たまに、土が落ちているとかうるさい方もいますが。EMなら楽にできます。日陰になっても、できる作物もありますし。住宅に囲まれていると、他の農薬が入ってこないという利点もあります。
(2014年12月取材)
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