農業や園芸の体験を通じて、高齢者や障害者を含む人たちに癒しと生きがいの場を提供する。川越市のNPO法人土と風の舎(渋谷雅史代表理事)は15年間にわたり園芸福祉、園芸療法を実践し、障害者の就労支援にも取り組む。携わる人材を養成するため、9月30日から初級園芸福祉士養成講座を川越で開く。渋谷代表理事にお話をうかがった。
共同で農作業 こえどファーム
-土と風の舎では、どのような活動をされているのですか。
渋谷 園芸福祉に関する活動が中心です。具体的には、まず農場である「こえどファーム」を活用して、子どもから一般の市民、障害のある方まで、誰でも農業を体験し、楽しめる場を提供しています。
もう1つは、我々が施設に出向いて行き、障害者や高齢者など入居されている方と一緒に農園芸活動をする事業で、「お出かけ園芸ひろば」と呼んでいます。高齢者なら生きがいづくりとか、認知症の予防のためとかを目的としています。
第3に、10年ほど前から、障害者の自立から社会参加、社会復帰、就労という流れを、農業とか園芸を使って支援していく事業を行っています。障害者に「こえどファーム」に来ていただく場合と、施設を訪問するパターンがありますが、農業の知識というより、社会性とか協調性とか社会で仕事をしていくために必要なスキルを身に着けていただきます。
-「こえどファーム」とは、どのくらいの広さがあるのですか。
渋谷 川越市下小坂の畑地で4カ所、合計で2400坪くらいあります。休耕地を借り受けています。
-「こえどファーム」はいわゆる市民農園とどう違うのですか。
渋谷 ここでは、区割りは一切なく、共同作業で農業体験をします。火曜と金曜がメンバーが集まる日ですが、 朝10時に今日は種まきしようと言ったら全員で種まきをします。クラブ活動のようなものですね。
-農業を教えてくれるわけでもないのですか。
渋谷 指導者と受講生という関係でなく、お互いに教え合います。ただ、野菜づくりを学びたいということで参加される方もいますので、基本的な知識はお伝えします。
-作物は。
渋谷 夏ならトマト、ナス、キュウリ、ピーマン・・・。 スーパーで買える一般的野菜はほとんど作っています。作っていないのは、お米くらいでしょうか。
-どのような方が参加されているのですか。
渋谷 やはりリタイアされたシニアの方がメインです。あとは、4,5歳の子どもたちが今親子で45組ほど登録されています。定期的に来られる方は、合わせて120組ほどです。
高齢者や障害者には療法効果
-農業体験にはどのような意味があると言ったらよいでしょうか。
渋谷 一番はコミュニケーションというか。団塊世代が定年を迎え、やることがないという話が以前からありますが、みんながよりよい人生を送れる手段にしようというのが一つです。生きがいづくりや健康づくりということです。
それと、園芸療法と言いますが、高齢者や障害者の方にとっては療法的効果を期待できます。植物を通した安らぎとか癒しとかの精神的効果。施設への訪問事業ではそのような効果が主たる目的です。
-高齢者で療法の対象者は認知症の患者となりますか。
渋谷 必ずしも認知症ということでなく、植物を見て育てるという行為が人間の気持ちを活性化したり精神的にゆとりを与えたりしますので、特に病気でないお年寄りでも効果があります。
-障害者の場合は。
渋谷 どちらかというと精神障害と発達障害の方を支援しています。
-障害者の就労支援は具体的にどのように。
渋谷 1つは農業に就労する。パートさんとかを雇用している農家に就職を目指します。もう1つは、ここに来ることで体力や、社会性を高め、就労しやすい能力を身につけてもらうことです。
-「こえどファーム」に来られている障害者はどのくらい。
渋谷 これまで10人ほど。今は定期的に3名の方が施設から通ってきます。
-就職例はありますか。
渋谷 1人シイタケ農家に就職しました。他に飲食業や卸売り業に就職した方もいます。
-障害者にとって農業は適した仕事だと思いますか。
渋谷 最初は農業は精神障害者に向いている仕事だと思っていました。最近は、精神障害だからということではなく、合う人も合わない人もいるし、農家さんがうまく工夫すればどんな人でも農業でやっていけるだろうなという考え方になりました。
-障害者が農業で働ければ社会的意義は大きいですね。
渋谷 今「農福連携」ということで、障害者が農業の分野で活躍する場を広げていこうと 動きが広がっています。普通の工場で働くよりは、農業の方が精神的な面にもプラスだということです。以前と比べると、精神障害に限らず、知的障害、発達障害を含め、多くの施設や団体、企業が取り組むようになっています。
日本園芸福祉普及協会が認定する資格
-園芸福祉士とは。
渋谷 日本園芸福祉普及協会というところが認定をしている資格です。民間の資格ですが、この資格を取ることで、福祉の場での園芸や農業、農園芸を通した地域づくりの基本的な知識を得られます。
-どのような方が資格を。
渋谷 福祉施設の職員の方もあれば、普通の主婦の方や、農家もいます。初級は講座を受けて試験(2018年2月)に合格すれば取れ、現在全国に2300名ほど。実際に活動してレポートを提出すると園芸福祉士となり、300名くらいの方がいます。
-今回の講座の意義は。
渋谷 普段は東京農業大学で毎年講座が開かれており、埼玉県では10年以上ありませんでした。初級の福祉士は埼玉には30~40名で非常に少ない。人材を養成し、園芸福祉活動をもって広めていこうという狙いです。
2002年にNPO設立
-渋谷さんはおいくつですか。
渋谷 53歳です。
-ご出身は。
渋谷 川越です。
-仕事は。
渋谷 元々はエンジニアだったのですが、やめて、NPOの運営と、協会の事務局にも行っています。
-NPOを設立したのは。
渋谷 2002年です。埼玉県が「癒しの園芸活動」といって福祉施設で園芸活動をする人材育成の講座を開催。そこに参加したのですが、実践できる施設がなく、だったら自分たちで作ろうということで始めました。
-この15年間いかがでしたか。
渋谷 一貫して園芸福祉という発想で行動してきましたが、いろいろな人が助けてくれて、徐々にステップを上げてくることができました。今は農業や園芸を福祉施設でやるというのは当たり前の時代になったと感じます。
初級園芸福祉士養成講座
<開催日>
前期:2017年9月30日(土)、10月1日(日)
後期:10月28日(土)、29日(日)
<会場>ウェスタ川越研修室 他
<定員> 25名
<受講料>36,600円
<申し込み締切> 9月20日
<問い合わせ・申し込み>NPO法人土と風の舎
350-1124 川越市新宿町6-14-10
TEL 049-248-9485 Fax 049-248-9486 メール tutitokaze@arion.ocn.ne.jp
(取材 2017年8月)
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