世界でCBD(カンナビジオール)という化合物が注目されている。大麻から抽出する物質だが麻薬成分は含まれず、日本にも茎から採れたものは輸入されている。てんかんの治療薬の他、サプリ、食品など製品化が進み、世界で大麻草の需要が拡大、いま「ゴールドラッシュ」ならぬ「グリーンラッシュ」が起きているとも言われる。医療大麻に関する啓蒙活動を進める三木直子さん(Green Zone Japan 、Project CBD日本事務局)にお話をうかがった。
CBDは陶酔作用はなくて医療効果はある
-CBDとは何だと言ったらよいですか。
三木 CBD(カンナビジオール)は大麻草という草から抽出される天然化合物です。大麻は日本では危ないというイメージを持っている人が多いと思いますが、元々は薬草の一つで何千年も前から民間療法で使われてきています。日本でも戦前までは薬として使われていたんです。それが第二次世界大戦後に進駐軍の命令で大麻草が禁止されたという歴史があります。それ以降、覚醒剤などと一緒になって大麻もいけないものと思っている人が多いですが、大麻草には本来体を癒やす医療効果があります。
-大麻には麻薬的な作用もあるわけですね。CBDは違うのでしょうか。
三木 大麻にはいろいろな植物成分が含まれ、その一部がカンナビノイドというグループです。そのカンナビノイドの中で一番多いのがTHCという成分で、精神作用があり、摂ると酩酊感があります。お酒で酔っ払うのと同じ。なので麻薬とごっちゃになって、いけないものと思われがちですが。もう一つ、たくさん含まれているのがCBDで、これは陶酔作用はなくて、医療効果はあります。それでアメリカでも2013年頃から注目を集め始めました。
大麻草の中でも麻薬成分のTHCを少ししか含まない品種をヘンプと呼ぶ
-大麻の中でもCBDならOKということですか。
三木 大麻草の中でもTHCを少ししか含まない品種(大麻は4500種くらいある)のことをヘンプと呼んで大麻草と区別するという法律が2014年にアメリカで成立しました。ヘンプはアメリカでは合法で、今日本に入ってきているのはヘンプから採れるCBDなんです。
ただ、日本には大麻取締法という法律があって、大麻草でも茎と種から採れるものだけが合法ですという決まりがあります。そのため日本で使えるCBDはヘンプの茎から採れたものです。日本の法律にも反せず完全に合法的なものとして今流通しています。
-アメリカではヘンプから作ったものはすべて合法なのですか。
三木 アメリカではヘンプを原料としていれば、CBDが多く含まれている花穂と葉を含めて全部使って抽出しても合法ですが、日本向けは茎からだけ作っています。
-THCはアメリカでも認められていないのですか。
三木 アメリカには連邦法と各州の法律があります。連邦法ではTHCはまだ違法です。州法ではTHCを含めて医療大麻が合法になっている州が33州、嗜好大麻も含めて合法な州が17あります。
-アメリカ以外は。
三木 カナダは全部合法、ヨーロッパでも合法な国がいくつかあり、タイ、ウルグアイも。世界的に合法化が進んでいます。
日本では大麻の茎の利用は認められている
-日本では大麻草を神社のしめ縄に使っているのですか。
三木 大麻には産業用大麻と医療用大麻があり、品種が違います。日本でも戦前は大麻の茎から繊維を採りしめ縄や布地や紙などを作っていました。GHQが大麻を禁止すると言った時日本政府は驚いた。それまで5万軒くらい大麻農家がいたからです。そのため交渉して繊維を採るための茎は禁止しないでおいたんです。今でも群馬県などに戦前からの大麻農家があります。たまたま茎を禁止しない法律があり、それが今も続いていて、それを適用して茎から採ったCBDならよいだろうということになっているわけです。
難治性てんかんの発作が止まる
-アメリカでCBDが注目されるきっかけは何だったのですか。
三木 2013年にCNNで放送されたドキュメンタリー番組があります。シャーロットという5歳の女の子が、非常にまれなドラベ症候群という難治性てんかんにかかっていました。番組では、コロラドで、CBDオイルでその子の発作がピタッと止まった様子が紹介されました。大麻がてんかんに効くことは昔からわかっていたのですが、そんな小さな子どもが摂ることは近年ではなかったのです。放送されてすごく注目され、同じような子を持つ親が、コロラド州に移住したり、社会現象になりました。母親たちが声をあげ、CBDを合法にしようとする運動が広がります。それまではTHCに注目が集まっていましたが、CBDが突然有名になり、医療大麻の合法化をすすめる力になったのです。
鎮痛作用、神経保護作用、抗炎症作用がある
-CBDはどのような効果があると言ったらよいでしょうか。
三木 大きくいうと鎮痛作用、神経保護作用、抗炎症作用があると言われています。様々な疾患に対して使用されています。
-どのような症状に対して多く使われていますか。
三木 今海外でも日本でも多いのは疼痛ですね。高齢者層で加齢によって関節とか体の痛みのために摂っている人です。それから不安症、うつも多い。
Project CBD資料
-幅広い効果があるのですね。
三木 CBDがどのように私達の体に働きかけるのかすべて明らかになっているわけではありません。CBDは抑うつや幸福感を司る受容体に作用することが知られています。また重要なのは人間の体のエンドカンナビノイド・システムというものに作用することです。エンドカンナビノイド・システムはいろいろな生理機能を調節しています。心身のバランスを調節して健全な状態にもどしてくれ、結果として一見関係のなさそうないろいろな病気に効くのです。
-がんにも効果があるのですか。
三木 がんの治療にも使われています。ただ、まだ人を対象とした臨床試験の結果はそんなになくて、抗腫瘍作用は基礎実験の段階です。
-CBD製品で薬品として認可されているものはあるのですか。
三木 エピディオレックスは イギリスのGWファーマシューテイカルズという会社が開発した、ほぼCBD100%のてんかんの処方薬で、アメリカとEUでは認可されています。
原材料を輸入して日本で最終的に製品にしている会社が多い
-今日本では輸入品しかないのですね。
三木 日本では栽培はできませんから。原材料を輸入して日本で最終的に製品にしている会社が多いですね。たとえばCBDを漢方薬のエキスと混ぜたり、独特の調合をして瓶につめて最終製品にする。また海外から最終製品をそのまま輸入しているところもあります。
-どんな会社があるのですか。
三木 実際に日本に入っている会社で大きなところではエリクシノール、エンドカなど。しかし茎から採ったCBDしか入れませんから、海外にはそれ以外にも非常に多くの会社があります。
エリクシノール社製品
モリンダワールドインク社製品
-茎だけしか使えないと効果が小さいと言えるのでしょうか。
三木 効く人が限られると思います。本当は他の成分も一緒に入っていた方が効果の対象が広がります。相乗的に作用するアントラージュ効果と言われます。日本に入ってきているのは精製して純粋なものが多いので、その分限られてしまう。
医療大麻は効果に個人差がある
-CBDに安全性の問題はないですか。
三木 CBDに限らず医療大麻は効果に個人差があります。同じ病気で苦しんでいる人でもCBDで治る人と治らない人がいます。一つ言えるのはCBDは非常に安全性が高く、飲み過ぎで死ぬということは絶対ないですし、とりあえず試してみて効果があるかどうか自分で体感して判断することをお勧めします。
-副作用はまったくないと言ってよいですか。
三木 あるとすれば気をつけなくてはいけないのは、薬物相互作用です。CBDを分解する酵素は他の多くの医薬品を分解する酵素でもある。他の処方薬を摂っている人がCBDを摂ると酵素を取り合って、他の薬の血中濃度が上がってしまう。効き過ぎてしまう可能性もあります。処方薬を摂っている方は、お医者さんとその点を確認した方がよいでしょう。あるいは必要なら他の処方薬の量を減らすなどして効き過ぎないようにする、注意は必要です。
-どういう人におすすめですか。
三木 やはり疼痛難民。あとは人前に出るとドキドキしちゃうとか、先のことがわからないなど不安から逃れられないとか、夜眠れない方とか。あと日本で普通に買えるCBDでてんかんの発作が止まった赤ちゃんもいます。
舌にたらす
-CBDはどうやって摂取するのですか。
三木 一番多いのはティンクチャー(チンキ)オイルです。小瓶に入っていてスポイト風の蓋がついており、舌下にたらす。あとは、経口摂取するものとしてはグミ、カプセル状、クッキーに入れたり。さらに、塗るスキンケア製品、ベイプといって電気たばこのように吸うものもあります。
-値段は。
三木 今日本の市場で通常は1mgあたり10円から15円の範囲が多いですね。2000mg入っている小さなボトルが24000円はします。安いものではないです。
-摂る量は。
三木 それも個人差があるし、目的にもよりますが、予防的に摂る場合は1日10~25mgくらいの人が多いかもしれません。治療ではたとえばてんかんの発作を止めるのに必要な量は体重1kgあたり10mgとか。
Green Zone Japan
-Green Zone Japanとは。
三木 医療大麻に関する教育啓蒙を目的とした団体(社団法人)です。医師の正高佑志と私が中心になって立ち上げました。私達はCBDも医療大麻の一部であるととらえています。日本では今CBDしか使えないけれど将来的に医療大麻が合法化されTHCも入っているものも使えるようになってほしいという願いをもって活動しています。
Project CBDはアメリカの非営利団体で、元々医療大麻の合法化を目指していた人たちがCBDの研究にいち早く注目してCBDを普及させる運動を始めました。Green Zone Japan がProject CBDの日本事務局になっています。
-医療大麻の普及で世の中をよくしたいということですか。
三木 そもそも大麻が禁止された理由がおかしいと思っています。元々自生していた草で、民間の知恵で伝えてきたのに禁止した。根拠も示さないで、ただ使うなと。それに洗脳されているみたいで考えない、そういう世の中の風潮はおかしいのではないかということです。医療大麻は難治性てんかんの子に効くだけでなく、不安な気持ちを抱えている人もたくさんいるわけですし、アルツハイマーとか認知症の予防にも効くのではないかという研究もあります。医療大麻で益を得られるのは全員そうだと思います。自分の健康を自分で守っていける世の中の助けになってほしいと。
アメリカでは1937年に大麻が禁止されたが、今合法化が進む
-GHQはなぜ大麻を禁止したのでしょうか。
三木 アメリカでは1937年に大麻が禁止されています。その理由にはいろいろな説があります。当時ナイロンとか合成繊維が台頭してきていて、麻製品と競合したとか。3、4年前に禁酒法が廃止になり禁酒に関わっていた政府の役人の仕事が必要だったとか。マリファナを吸う習慣を持っていたのはメキシコからの移民だったから差別したとか。
-それでもアメリカでは現在は合法化が進んでいるわけです。
三木 一つは、アメリカでは1937年に禁止されても手に入ったんですね。1960、70年代にヒッピーの世代がみな大学で経験している。その人たちが今相応の地位についている。そんなに健康に悪いものでないと知っている。日本にはそういう人がいなくて、自分で使ったことがないし、知らないからこわい。政府がダメと言ったらだまって言うことを聞く。
それとアメリカは大麻の合法化は州単位の住民投票で決まります。経験者が多いから活動家が署名を集めて住民投票にかけるところまでこぎつけることができた。日本にはそもそも住民投票という仕組みがありませんが。
大麻の定義変更を
-日本で望まれる次のステップは。
三木 今言われているのは大麻取締法の第4条、医療目的での使用を禁じている項目がありますが、それをはずすこと。もう一つ、第1条に大麻の定義があって、茎と種以外を禁じるとあるが、定義を変える。たとえばアメリカのようにTHCが0.3%以下のものは大麻と呼ばないとして、大麻取締法の対象からはずすということができればアメリカでヘンプ製品として売られているモノはすべて輸入ができます。
日本でもエピディオレックスを使ったてんかんの子どもへの治験をやる動きも出ています。ただ、認められても適用は難治性てんかんに限られるわけですので、多くの人が使えるようにするには大麻の定義を変えることが必要です。
-三木さんはどういう方なのですか。
三木 私は翻訳家です。たまたま翻訳した本から医療大麻を知り興味を持ち調べ始めました。私は夫がアメリカ人でシアトルに家がありますが、シアトルは大麻に寛容です。日本とのギャップが大きいので、情報発信を始めて2017年にGreen Zone Japanを立ち上げました。
(取材 2021年4月)
Green Zone Japan ホームページ
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