川島町の田園風景の中に、西洋風のしゃれた建物がひょっこり建つ。宝飾品の加工を行う(有)アークジュエリースタジオの店舗と工房だ。同スタジオは、持ち込まれたジュエリーを、お客の希望に合ったデザインに作り替えるという、独自のやり方で社会のニーズをとらえている。インテリアに凝った店舗、バラの咲くガーデンも人気で、毎年オープンガーデンを開く。鹿山洋介社長にお話をうかがった。
形見分けの宝石を預かる
-お仕事はどのような内容なのですか。
鹿山 ジュエリーを、お客様のご希望で形にする工房です。一般的にジュエリーのお店というとお店側が作ったものが並べられ、そこから選んで買うだけだと思いますが、私たちのところは違っていて、お客様が望む形のものをお作りするというコンセプトです。
-すでに出来上がった商品は置いていないのですか。
鹿山 作り置きしているものも一部ありますが、それに重きを置いていません。お客様から持ち込まれたものとか、お客様が望む形のものを、こちらでお手伝いをしながら作り込んでいくやり方をとっています。
-たとえば、どのようなお客さんですか。
鹿山 ご結婚指輪を作りたいが、既製品はいやなのでオーダーで作りたいと言って来られる方もいれば、お母さんから宝石をもらったが、デザインが古いので作り替えたいという方もいます。
-石を預かって加工する形態が多いということですか。
鹿山 完成した、いったん製品になって留まっている石です。たとえば、形見のものだったり、身内の方からいただいたものだったり。あるいは自分の人生で、成人式でもらったもの。でも成人式でもらった宝石は、40代、50代の今は似合わない。しかし記念のものだから作り替えたいとか。そういう方が多いですね。
-どういう形にしてほしいというイメージはお客さんが持ってこられるのですね。
鹿山 持っている方もいれば、持っていない方もいます。宝石の好きな方はイメージをお持ちですし、そうでない方はたまたま形見でもらったが、普段は宝石はつけない。しかし、このままではなくしてしまうかもしれない。この機会に、自分に合うものを作りたいが、どんなものがいいだろうかと、相談に来る方もいます。
いずれにせよ、お客さんに中心になっていただきます。通常は、お客さんはお店に合わせなければいけません。お店がこういうふうに売っているから買うとか、お店の扱っているものから選ぶとか。ここは逆なんです。
-そういう形の宝飾品店は他にあるのですか。
鹿山 探せばあるかもしれませんが、ほとんどないに等しいと思います。僕の今やっているスタイルは非常に難しいやり方です。なぜかというと、お客さんから預かったものはどこでどう作ったかわからない、製作してみないとわからない。そこにリスクがあります。たいていのところは、自分の持ち前の材料で作ったものを手っ取り早く売る方が売り上げが作りやすいので、そちらに力を入れている。
加工の途中で見てもらう
-デザインはどなたが。
鹿山 スタッフ全員で考えます。
-具体的にはどのように。
鹿山 まずお客様に、これを作り替えたいなら、どのように使いたいですか、普段に使いますか、あるいは結婚式などだけに使うものになりますか、をお聞きし、さらにお客様の好みを聞いて、デザインをラフ画に描いていきます。お客様がこれがいいと言ったら、そこから掘り下げて、いろいろな話をしていきます。
-デザイン力とセンスが問われますね。
鹿山 自分は長く、この業界でやってきていますから、いろいろな人たちの品物を作った件数の累積、いろいろなデザインストックを自分の中に持っています。この方ならこれが合うかなとか、この方ならこの方がいいかなとか、がだいたいご提案できます。
-技術も必要です。
鹿山 加工にもいろいろな技術があって、指輪を磨くのは研磨技術、細工をしたりする彫金の技術も必要です。
-古い指輪を作り替えるのに値段と時間はどのくらいかかるのですか。
鹿山 作り替えについては5万円くらいから、安ければ3万円くらいから。日にちは1ヶ月以上ですね。加工の途中で必ず見てもらいます。預かって2週間後くらいに見てもらい、OKならその2週間後に納めるというのが最短のスケジュールです。
大量生産の仕事を見切り独立
-鹿山さんは元々宝石業界にいたのですか。
鹿山 最初ジュエリーの大きな会社に5年ほど、その後小さなところに2年勤め、7年で独立しました。大手の企業で得られない技術は独学で覚えました。
-独立は何歳の時ですか。
鹿山 27歳の時。最初は量産品の下請けです。問屋さんから数百個というロットの仕事をもらって、スタートしました。
-現在のような形態になったのは。
鹿山 会社を設立して5年後です。このまま大量生産の仕事をしていても、先がないなと思いました。ダイヤと指輪を預かって、ダイヤを指輪にセットする仕事を請け負いでやったのですが、石にキズがあるところを爪で隠してとか、言われる。よくないものをよく見えるようにしてくれと。それがいやになりました。本当によいものを作ろうと思っているのに、いやなものを作る人の方棒を担ぐことになっていたのです。それで、大量生産の仕事から、世界で一つしかない、唯一無二の仕事へ、やり方を切り変えたわけです。
-経営的にはどうでした。
鹿山 最初の5年間は、ほとんど仕事がなかったです。大量生産の仕事と並行して始めましたが、お客さんから見て信用のある店かどうか理解されないと預けてもらうことができないわけです。当初は、どこも直せない修理をただ同然で何年もしていました。お客さんは、どこでも直してくれない修理をたまたまここに宝石店があるのでと、依頼してくれました。でも僕は全部直したんです。それで徐々に信用を得て、仕事が広がり出しました。あの店すごいわよと、お客さんがお客さんを紹介してくれて。
高齢化社会で需要が拡大
-現在は。
鹿山 かなり広い範囲からお客さんが来てくれます。オーダーは全国からあります。
-どのような形で告知を。
鹿山 まず口コミです。友達が作ったから、知り合いが作っていいと言ってくれたから。2番目がホームページ。あとはSNSなどの情報発信で。
-高齢化社会で、遺品の形見分けなど増えて、大事な仕事ですね。
鹿山 ヨーロッパなどでは、母親や父親が使っていたものを、大切に受け継いでいくのは当たり前で、土壌ができている。日本では、遺品をいただいた人のところに、「金銀買い取ります」という人たちが行って、安く買い取って、中国で売る。一度売ってしまったものは戻ってこないです。非常に残念なことですが、ここ数年、そういう業者がはびこり、本来大切に保管し受け継がなければいけないものをみんな売ってしまった人たちがいます。売りたいからでなく、置いておいても仕方がないからとりあえずお金に替えようかと軽い気持ちで。
-こちらでは、金だけの指輪でも直すのですか。
鹿山 直します。たとえば、変形したからまんまるにしてほしい、あるいはサイズがきつくなったので大きくしてほしい、指輪が太いから細くしてほしい。とにかくお客さんの望むことを何でもやります。お客さんのお手伝いをするのがコンセプトです。
わざわざ不便な場所に移転
-スタジオを移したのですね。
鹿山 元々鶴ヶ島市の若葉駅近くにいたのですが、2015年の9月に川島町の自宅に移転しました。
-川島の出身なのですか。
鹿山 自分の出身は、ふじみ野市上福岡の上野台団地。団地っ子です。ここは家内の実家です。
-川島は田園地域で鶴ヶ島の方が便利だったのではないですか。
鹿山 交通の便はよかったです。駅の近くは何か新しいものが開発されたりすると、商圏、人の流れが変わり、商売が大きく左右されます。しかも、駅前の雑踏、夕方になると店の前の道路、渋滞して車ばかり。あれはどうだろうかと。ジュエリーはデザインはすべて自然がモチーフなんです。このロケーションで仕事することに意味があると思っています。
-お客さんが来るのが大変ですね。
鹿山 車で来られる方がほとんどです。もしダメな場合は駅までお迎えに行きます。
-自宅は、インテリアに凝られていますね。
鹿山 元々建てた時からこの雰囲気です。アンティークとかが自分たちの趣味なので、お店をやるためにあつらえたのではなく、元々このような空間でした。皆さん来られるといびっくりされますが、僕らはこの中で普通に生活しています。
しかし、自宅を店舗として開放していますからプライベートな空間がありません。家内がちょっと大変なので、近く隣にちゃんとしたお店を新しく建てて、そこで仕事をしようと思っています。今、仮店舗の状態です。
-スタッフは何人。
鹿山 今、私と家内とスタッフ2人の4人ですが、おかげさまでお仕事が多くて来年の春にさらに2人入る予定です。
オープンガーデン
-ガーデンがすばらしい。
鹿山 庭は家内が造っていました。バラだけのガーデンではありません。年間を通して常にお花があります。あとは、ナチュラルで作った感があまりないこと、建物と植物がマッチしていることが特徴と思います。
-オープンガーデンを開かれている。
鹿山 今年で5年目になります。今年は5月9日から、火曜日と水曜日、6月7日まで10日間です。お茶とケーキを出し、庭を見てもらう。500円の入庭料をいただいていますが、赤字です。
-お仕事にもつながりますか。
鹿山 意図しているわけではありませんが、ガーデンを好きな方はやさしい方が多くて、親御さんの形見を売るよりは作り替えたいという方が多いです。ここを知ってくれるきっかけになるということもあります。
アーク ジュエリー スタジオ ホームページ
(取材2017年5月)
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