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高齢者の社会参加、「多世代共創」を促すには、まず居場所づくりが重要

 高齢者に社会参加してもらうことは、本人に生きがいや収入をもたらすだけでなく、地域活性化、財政赤字縮小など様々な社会課題を解決するのに重要なテーマだ。また、その際高齢者だけでなく若い世代を含め多世代でものごとに取り組めば、社会的意義はより大きいだろう。しかし、それにはどうすればよいのか。社会的課題に取り組む方法を研究する「社会技術」という考え方がある。政府の研究支援機関、国立研究開発法人科学技術振興機構・社会技術研究開発センターでは、「持続可能な多世代共創社会のデザイン」という研究を進めている。まとめ役の大守隆さん(元内閣府政策参与・元大阪大学教授)に、特に高齢者の社会参加を促す社会技術に関し、お話をうかがった。

社会技術:社会の諸問題を解決する技術

―社会技術研究開発センター(RISTEX)とは、どのような組織ですか。

大守 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の下部組織です。社会技術とは、様々な解釈があり得ますが、基本は、社会を対象とし、その諸問題を解決するための技術ということです。

―進められている研究は。

大守 RISTEXには大きな研究領域が4つあり、私はその1つ、「持続可能な多世代共創社会のデザイン」という研究領域を取りまとめています。

持続可能な地域社会を作ることが目標

―研究の問題意識は。

大守 究極的な目的は持続可能な地域社会を作ることです。そのための方法として多世代で何かをやる、「多世代共創」が有効なのではないかという仮説をたてました。

いろいろな世代が参加し共同で何かをやるという機会が現代社会では減ってきました。昔、子どもが育った環境は家業があり、道をはさんだ工場でおじいさんが仕事をしている。今はそういう体験ほとんどなくなり、昼ごはんを食べるのも同世代の人とだけという時代になっている。それをもう一回戻し、多世代でいろいろなことができるのではないかということを考えてみようということです。

もう一つ、問題意識として、日本の高齢者は、数が多く、多様な能力を持っているのだが、十分生かせていない。高齢者の社会参加促進と、一方で財政赤字などの課題を、同時に解決するためのヒントが多世代共創にあるのではないかと考えています。

―個々の研究は公募されたのですか。

大守 解決すべき課題に対してどういう多世代共創が有効と考えられるか、フィールドと呼ぶ地域を決めて実践をしていただき、何らかの形で社会に実装されるような形までこぎつけていただく。5年前から開始しましたが、毎年多くの応募が来て、今まで、そうした形の13本のプロジェクトを採択しました。

「持続可能な多世代共創社会のデザイン」プロジェクト一覧 (氏名は研究代表者)

  総括:大守隆(元内閣府政策参与・元大阪大学教授)

1.羊と共に多世代が地域の資源を活かす場の創生 金藤克也(さとうみファーム代表理事)

2.漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生 大塚耕司(大阪府立大学教授)

3.農山漁村共同アトリエ群による産業の再構築と多彩な生活景の醸成 大沼正寛(東北工業大学教授)

4.生業・生活統合型多世代共創コミュニティモデルの開発 家中茂(鳥取大学教授)

5.ジェネラティビティで紡ぐ重層的な地域多世代共助システムの開発 藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所研究部長)

6.未病に取り組む多世代共創コミュニティの形成と有効性検証 渡辺賢治(慶応義塾大学教授)

7.空き家活用によるまちなか医療の展開とまちなみ景観の保全 後藤春彦(早稲田大学教授)

8.多世代共創による視覚障害者移動支援システムの開発 関喜一(産業技術総合研究所上級主任研究員)

9.分散型水管理を通した、風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築 島谷幸宏(九州大学教授)

10.未来の暮らし方を育む泉の創造 古川柳蔵(東京都市大学教授)

11.多世代参加型ストックマネジメント手法の普及を通じた地方自治体での持続可能性の確保 倉阪秀史(千葉大学教授)

12.地域を持続可能にする公共資産経営の支援体制の構築 堤洋樹(前橋工科大学教授)

13.地域の幸福の多面的側面の測定と持続可能な多世代共創社会に向けての実践的フィードバック 内田由紀子(京都大学准教授)

14(*).ソーシャル・キャピタルの世代間継承メカニズムの検討 要藤正任(京都大学特定准教授)

15(*).寄付を媒介とした多世代共創モデルの提案 岸本幸子(パブリックリソース財団専務理事)

16(*).多世代哲学対話とプロジェクト学習による地方創生教育 河野哲也(立教大学教授)

注:(*)の付いた3プロジェクトは俯瞰・横断枠として採択


―いつまで続くのですか。

大守 今年度で終了します。終わったものも多く、まだ進行しているのは8プロジェクトです。

多世代共創で元気になる

―今までの成果をまとめていただくと。

大守 多世代でやることの効果は大きいということです。この領域を立ち上げた後、国連でSDGs(持続可能な開発目標)をまとめました。それとの違いを5点感じています。

 1つは、やると元気になる。つながる喜びです。一緒にやることで、高齢者は元気になるし、受験勉強で疲れた若い人は生き生きとし勉強の意味を見直すようになります。EUがお金を出して6ヵ国でやっているTOY(together old and young)プロジェクトでは一人暮らしのお年寄りが子どもと一緒になる機会を作る。たとえば本の読み聞かせ。最初は参加を渋っていた一人暮らしのおばあさんが、一度出てきたら人が変わったように元気になり、活動を続けているという話です。

 2つ目は、いろいろなことをやる中で価値観が変わっていく。持続可能な社会の意味を深く考えるようになったり、何が自分たちの生きる目標か、子どもに遺すべき世界は何か、などを考える。もとは手段だった活動をする中で目標自体の意味合いが変わってきます。

 3つ目。子どもとの触れ合い中で大人はいろいろな問題意識や気づきを与えられ、そこで大人の発想も変わってくる。

 残りの2つは日本特殊ですが、4つ目は、地域の自然の重要さに気づかされる。日本の地域社会は自然資源の上に作られている。

 最後は、高齢者です。日本の場合、大きな未活用資源 これをモビライズするにはまさに社会技術が必要だということです。

高齢者は複雑で屈折している

―最後の高齢者の問題をお聞きしたいのですが。社会参加の促進にはどういう技術が必要なのでしょうか。

大守 高齢者は複雑です。一方では寂しくて出番を求めている。しかしだからといって都合よくタダ働きさせられるのも嫌だ。おれはまだ人に頼らず生きていけるという気持ちもある。そのようにちょっと屈折した心境の高齢者をどうやって、うまく生き生きと働いてもらうかは、簡単ではありません。

多世代で活動しているので来てくれませんかと誘う。してほしいことを最初は具体的に言わずに、とにかく多世代でやりたいと言うと来てくれる。最初に、昔この仕事をされていたから手伝ってくれませんかと言うと、ていよくタダで使うなと反感を受ける。来てもらって、ある程度信頼関係が出てくると自分からやりましょうと手を挙げてくれる。

 その辺がかなり微妙な社会技術なのです。うまく巻き込んでいく方法論はノウハウです。

 

ドイツの多世代ハウス

―そのような仕組みは日本社会にはないですね。

大守 日本の公民館は特定のグループに占拠されていて「居間」がありません。ドイツには「多世代ハウス」という拠点があります。ドイツ全土500ヵ所を超え、政府が補助金を出しています。行けば安くお茶が飲めたり、特に目的がなくても行けるスペースがある。従業員が様子を見ながら声をかける。冊子を見せてうちではこんなことをやっている、興味があれば参加しませんかと。まず来てもらう、そのうちにだんだん信頼関係ができて来て、じゃあ私がこれをやってあげましょうか、という参加につながる。日本の公民館にはそういう機能がない。

―まず居場所ですね。

大守 居場所という物理的な場は大事です。一番前の席と一番後ろの席、柱の影の席とかいろいろありますが、その人の集団に対する感覚によって座る席が違ってくる。だんだん、中心に座るようになり、進行役も買って出るようになる。心理的な距離感によって位置取りができることが重要だということがわかってきた。この辺が社会技術です。

―高齢者で居場所作りの他、ポイントとなるのは何ですか。

大守 ヒアリングです。聞き取ることで、高齢者は自分の知識の有用性を再確認する。聞き手にとっては地域資源の発掘、見直しにつながります。もう一つは、互助です。  

ベトナムの互助組織

―互助でうまくいっている例がありますか。

大守 ベトナムに、非常にうまくいっているプロジェクトがあります。インタージェネレーションセルフヘルプクラブという互助組織。全土で1900くらいあります。それぞれ5070人前後のメンバーで、7割は女性、7割は社会的弱者を入れるという条件。最初は多少のお金が必要だが、後は自前で回し、互助的な活動をします。よく工夫されている。日本でも地域社会の抱えている問題は、現場感覚で総合的に横割りで解決しないと、行政的な発想だとどうしようもないところにきています。

―今の日本では、高齢者の社会参加の問題が大きいということですね。

          
               大守さん

大守 今の日本で重点的にケアすべき人たちのグループは3つあります。一つは、一人暮らしのおばあちゃん。元気なうちは何でもできるけれど、潜在的には人とのつながりを欲しているという人たち。もう一つのグループが引退企業戦士。仕事を定年になった男性。狭い家で奥さんから煙たがられている。奥さんは地元とのつながりがあるが、旦那は接点がなく、会社人間だったから垂直的な人間関係には慣れているが水平的に人間関係が作れない。家にいても仕方がないので、マクドナルドとか馬券売り場で時間をつぶす。

 もう一つが失われた世代と言われる就職氷河期の世代。ひきこもりが多いとも言われ、社会にうまく組み込まれなかった。一方で新しい生き方を模索している。

 そういう人たちをどうやって前向きな方向に動かしていくか。が大事。そのための社会的技術が、少し見えてきた気がします。

―就労でなくてもよいわけですね。

大守 もちろんおカネになればよいですが、それ以上に、自己肯定感が高められるような出番と居場所が必要です。娯楽でも趣味でもよいですが、そこにどういう付加価値、達成感とかやりがいを付け加えることができるかです。

地域デビューの日

―何か妙手があるとよいですが。

大守 私が提案しているのが、3月頃に特別な日を設けて、企業引退戦士予備軍が地域デビューをする日にしたらどうかということです。成人の日のようなもの。その地域で活動をしている様々な団体が出店をだして参加を呼び掛けるようなイベントで、デビューするきっかけになります。呼び込んでもらわないと、自分で探して門をたたくのは難しい。

                   (取材2019年7月)