トップページ 狭山茶   健康
  

狭山茶ガイド
コク」が特徴
「お茶博士」工藤宏さんに聞く

埼玉で生産される狭山茶とはどんなお茶で、味にどんな特徴があるのか。「深蒸し茶」とは何か。狭山茶にまつわる素朴な疑問に対し、「お茶博士」とも呼ばれ、お茶に詳しい、入間市博物館学芸員の工藤宏さんに、答えてもらった。

 

入間市の金子台が一大産地

―狭山茶とは何だと言ったらよいですか。

工藤 ゆかりのあるお茶づくりは鎌倉時代から行われていましたが、現在のように蒸して作る煎茶づくりが始まってから今年で200年になります。「狭山茶」という名で統一されるようになったのは1875年、アメリカ輸出のための狭山会社ができて以降です。

   
         入間市金子台の茶業公園にある説明板

―生産しているのは主にどのあたりですか。

工藤 埼玉と東京の一部でつくられているのが現在の狭山茶です。埼玉では入間市が圧倒的に生産量が多い(50%以上)。他に、所沢、狭山、飯能、日高、鶴ヶ島など。東京でも東京狭山茶の名で、主に瑞穂町、青梅市でつくっています。入間では狭山丘陵と加治丘陵にはさまれた台地を金子台と言いますが、そこが狭山茶の一大生産地です。

         

   
        入間市金子台に広がる茶園

―入間市で多い理由は。

工藤 古くから茶作りを始めたこと、地質的に向いていることもありますが、機械化が導入されないとあれだけの面積は無理です。お茶は元々は丘陵の斜面で栽培していたが、金子台の平たん地を利用することで大規模化できました。

―品種は。

工藤 日本の緑茶の7割近くはやぶきたでこの地域もやぶきたが多いが、ここ5年ほど、埼玉で開発した品種が多くなっています。さやまかおり、ふくみどりなどです。

        
          さやまかおりの木(入間市博物館)

蒸すのに時間をかける

―この地域の製造の仕方で特徴がありますか。

工藤 狭山茶はお茶の生産地としては北で気温が低く、以前よりはかなり平均化してはきましたが、他産地に比べて生育上茶葉の肉が厚く硬い傾向があります。そのため、蒸しに時間をかけます。また製茶には、荒茶(肉で言えば各部位に分けていない肉)から仕上げ茶にする段階で火入れという工程があります。火入れは保存性を高め、もう一つは香りと味を特徴づける役割があります。他地域より火入れの時間が長いのが特徴です。

味にコクがある

―その結果として味はどのような特徴があると言ったらよいですか。

工藤 「コク」があります。「コク」とは深い味わいのような味覚のこと。昔から、文献に書かれてあります。ただ、味は、よい香りが立たないと味になりません。まず香りがたち、口に含んだ時に舌に深くてうまい味が感じられる。それが「コク」です。

深蒸し茶は淹れる技術がいらない

―深蒸しとは。

工藤 蒸し加減で、蒸す時間を長くします。蒸す時間が長いと、形状が細かくなり、渋味とかえぐみがなくなり、味がまろやかになります。今、市場では深蒸しがほとんどです。

―深蒸しの方がおいしいからですか。

工藤 それぞれの人の好みですが、深蒸しなら、お茶の淹れ方は関係ないこともあります。お湯が熱かろうがぬるかろうが、深蒸し茶は子どもでも平均値以上をとれる。それに対して普通蒸しのお茶は淹れる技術が必要です。茶農家でも深蒸しはいやだという人が結構います。

手もみ茶の技術が狭山茶の品質を向上させる

―手もみ茶は。

工藤 手もみは、手で蒸し加減を感じて、もんでいきます。この地域の茶業者で若手の人たちは、手もみの保存会に入っている人が多い。手もみをやると、手の感覚、五感が研ぎ澄まされます。手もみは少量しかできませんが、機械化は自分たちの手もみ作業を代行してもらうことが基本になっている。だから機械で作っても手もみをしている人はうまい。

―手もみをする人が多いことが、狭山茶の品質を高めている面があるということですか。

工藤 入間市手揉狭山茶保存会は、全国の品評会で産地賞を14連覇しています。個人賞もぞろぞろ。それだけ技術的に優れた人がいっぱいいて、そのことが小生産地だが、経営を継続できる手助けになっていると思います。

―手もみ茶が一番おいしいのですか。

工藤 普通の煎茶とまったく味が違います。ただ、私は手もみは手わざを見せるのが一番の妙味かなと。出来上がったお茶の針のような形。ああいうところに見どころがある。個人的には手もみの味が一番とは考えていません。

2番茶で紅茶にシフトも

―抹茶や紅茶なども出ていますね。

工藤 狭山茶は抹茶の技術ではかなわないし、茶葉自体が向いていません。最近は世界的に抹茶需要が高まり、埼玉県茶業研究所でも抹茶製造の研究を始めていますが、茶道のお茶というより、ケーキや飲み物に入れる工業的用途の商品に使うのが主です。

 最近一番シフトしているのは紅茶です。狭山茶の産地は2番茶まで作ることが少ない。2番茶を利用して付加価値をつけるのに、発酵させて作る紅茶にシフトしている人がいます。だんだん「狭山紅茶」らしい飲みごたえのある、いいお茶が作られるようになっています。

お茶のリラックス効果

―工藤さんはお茶の薬効についてはどう考えますか。

工藤 私もがん治療に有効な免疫細胞の研究で本庶佑先生がノーベル賞を受賞したと聞いた時緑茶のカテキンのがん予防効果が頭に浮かびました。今後、がん予防のカテキンの研究が進むのではないでしょうか。その他では心理的な効果があると思います。お茶に含まれるテアニンというアミノ酸成分はリラックス効果やアルツハイマーへの効果もあるとされ、難しい課題で会議や打ち合わせをする時「お茶で一服」というだけで和やかになる。お茶でなごむ、くつろぐ、やすらぐ、いやされる、という効果があるのです。

自園・自製・自販という6次産業化のシステム

―狭山茶は農家で直接お店を出して販売しているのも特徴ですね。

工藤 この地域は、全国的に見ても小さい産地です。静岡、鹿児島などに比べて、量は圧倒的に少ない。それでも、なぜこの地域の人たちが再生産を繰り返し営農できているのか。やはり自分の茶園を持ち、工場を持ち加工して、販売もする。販売は、自分で販売するのと問屋に卸すのがありますが、自園・自製・自販という6次産業化のシステムが基盤になっている。自分の茶葉を使い、自分で値段をつけられる、中間マージンのリスクが小さく、それだけ歩留まりが高い、という特徴があると思います。

       
        狭山茶の茶業農家(入間市の大西園)

        

試飲、レクチャー付き販売

―お茶の需要が低下しているようですが、どのように販売していけばよいのでしょうか。

工藤 私は、お茶屋さんが試飲させるのが大前提だと思います。試飲させることと、お茶について味の特徴とか飲み方をレクチャーをすることも必要です。あと、中元や盆暮れにおみやげをあげる機会に、お客さんが自分でお茶をブレンドし、自分で名前をつけて贈れるような売り方もよいのでは。茶袋も100gだけではなく、ジッパー付きの50gとかの小包装にする。100gでは余り、どう保存してよいか悩んでいることが多い。 

首都圏をターゲットに

―狭山茶のマーケットとしてはどの辺を狙えばよいのでしょう。

工藤 茶業者に参考にしてもらいたいのは、過去に狭山会社を興した繁田さんの繁田商法です。狭山茶は国内のどういう人に好まれるか、テイスティングと市場調査を行った。結果、寒いところで狭山茶は好まれる。甲府より北の方にのれん分けして販路を築いた。それと、足元の首都圏です。首都圏に日本の人口の4分の1いる。旅行者もいる。なぜそこをターゲットにしないか。狭山茶業界では、昭和7年に東京上空に飛行機を飛ばして狭山茶のビラをまくなど大規模な宣伝活動を行った歴史がある。現代の狭山茶業界もこのようなパワフルな意気込みが欲しいです。

自分で茶葉栽培からお茶づくり

―工藤さんは元々学芸員だったのですか。

工藤 私は元々入間市役所で市史の編纂の仕事をしていました。それが終わったら、平成6年に新設の博物館に異動して、平成25年まで勤めました。今は肩書はそのまま学芸員ですが、非常勤で週2、3日来ています。

―お茶との関わりは。

工藤 当市は金子地区など農家でお茶をやって代々村役人だった方も多く、入間の歴史をやるならお茶のこともと。元々農家の子ですので、茶業の歴史をかじるように。そのうち博物館ができて、地場産業としてのお茶をやろうと本腰を入れることになりました。

―今お年は。

工藤 66歳です。

―「お茶博士」と呼ばれ、講演なども多い。

工藤 狭山茶を含めた日本茶の歴史、お茶と茶器の変遷、煎茶文化の歴史などについて、講演や執筆を行っています。

         
            工藤さん

―自分でお茶づくりもされている

工藤 茶葉もどういう風なものを使ったらよいか自分の好みでいろいろ試しています。やはり狭山茶は、品種でいうとさやまかおりとか、さやまみどり、ほくめい、ゆめわかばなどが自分としては向いているなと。やぶきたはスタンダードですが、ウーロン茶だとか紅茶はもう少しインパクトがないとだめなので、インパクトのあるものがよいなと。

―ウーロン茶や紅茶をつくるのですか。

工藤 そうです。量は多くないので手で作ります。緑茶も手もみで作っています。

―できばえはどうですか。

工藤 最近中国人の方やプロの方にウーロン茶をテイスティングしてもらい、売れるか売れないかで判断してもらったら、手前みそですが、「十分売れます」と。                                (取材2019年11月)