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農業で障害者就労、生活の場も提供
「ソーシャルファーム」掲げる
埼玉福興 
(熊谷市)

埼玉県熊谷市を拠点に、障害者に生活と農業による就労の場を提供する「埼玉福興グループ」。仕事を見つけにくい人たちの雇用を生み出す「ソーシャルファーム=社会的企業」を理念に掲げ、既存の制度を利用しながらも、ビジネス的手法で事業を展開、他の民間企業とも連携する。小豆島から苗を取り寄せてオリーブの栽培に取り組むことでも注目を集める。新井利昌埼玉福興社長にお話をうかがった。

 

「埼玉福興グループ」は、埼玉県と群馬県で障害者支援事業を展開している。埼玉福興株式会社を中心にグループを形成。NPO法人グループファームは生活寮である年代寮と、就労継続支援B型事業所オリーブファームを運営。群馬県にあるNPO法人Agri Firm Japanは2つのグループホーム(ホームクラリス、ホームクラリスⅠ)とB型事業所クラリスファーム、信開産業株式会社は小規模多機能型住居介護施設三成の家を運営している。

障害者の生活と就労支援を一緒に

―事業のあらましを教えてください。

新井 基本的には我々は、障害者が働く農業生産法人として水耕栽培でいろいろな野菜、露地栽培はタマネギと白菜を、あとはネギの苗だけを作ったりしています。水耕は600坪、埼玉4町のうちタマネギは2町(群馬のAgri Firmを入れると合計5町)、白菜はプロの仲間と一緒にやっている。ネギの苗は300軒くらいの農家さんの苗を作っている。農家さんとか他の企業さんと一緒に農業を広げていく。そんな組織です。

―就労だけでなく障害者の生活のめんどうもみているのですか

新井 ここ(年代寮)は生活の場所で、生活と就労支援を一緒にやっています。障害者雇用が2人で、就労支援事業B型に属する人が30人です。ここで働くのはいやだという人もいるので、生活だけ支えて外部に雇用してもらっているのが2人。クビになったら帰ってくる。24時間一緒で生活する部分も一緒にやっている企業です。


  年代寮

―年代寮はグループホームではないのですね。

新井 生活寮という古い制度で運営しています。障害者だけで生活から就労まで全部やります。寮母がいますが、食事の手伝いも全員で。そこまで行けるんです。やらせていないだけ。通常の施設では、障害者何人に1人、めんどうをみる人をつけなければいけない。だけど、めんどうをみてくれる人がいなければやれるんです。今の制度のグループホームもやっていますが、ここは古い制度でいけるところまでいくつもりです。たとえば夜も、抜け出してコンビニに行っても、他人に迷惑をかけなければ自由にさせています。

―スタッフは何名。

新井 ここは今10人、うち2人が障害者です。基本的にはスタッフは少ない方がよい。ポイントポイントで助ければ、障害者たちだけでできちゃうのです。

―入所者の年齢は。

新井 20歳から75歳です。若い人が増えているが、一方で高齢化しています。障害者は最後は行くところがなくなる。そんな課題があるため老人介護の小規模多機能事業所(高崎)も運営しています。

 

オリーブの栽培、葉っぱを活用

 埼玉福興では、香川県小豆島の井上誠耕園から苗の提供と技術指導を受けて、オリーブの栽培に取り組んでいる。2015年にローマ法王に献上されたお菓子に埼玉福興のオリーブの葉が使われた。16年には日本で唯一の国際的なオリーブオイルコンテストで金賞を受賞した。

        

―就労の場としてオリーブの栽培に従事する人もいるわけですね。

鈴木 オリーブについては、グリーンケアという理念を創り出しています。今就労支援に入れない障害者が増えてきています。僕らは重度の知的障害から精神障害、発達障害、罪を犯した障害者、さらに支える側でニートとか、シングルマザー、高齢者とか、そういうような働きにくい人たちの働き場所ということで、ソーシャルファームという形でやっています。その中でオリーブは、お茶を飲むだけでも、居場所作り、とかの場。若年性認知症もいるので、一緒に働けない、若くて元気な人といられない若い子とか。オリーブ栽培の現状は働く概念を変えていくということが目的です。

―ビジネスまでいかないということですか。

新井 オリーブは今アグリみらい21さんと一緒に、利根川の向こうとこちらで、5600本植えています。10年たてば事業になってくる。10年をどう耐えるかだと思っています。グリーンケアをやりながら、だんだんソーシャルファームにしていこうと。

―オリーブオイルに加工しているのですか。

新井 しぼるところは僕らが技術をもっている。クラリスファームという共通の農園を目指し。国際オリーブコンテストで金賞をとりました。販売はアグリみらい21という仲間の会社が。ただまだ一般に販売するほどの量はありません。あとはオリーブの葉から作ったお茶です。実は実ではなく葉を狙っています。年1回では仕事にならない。毎日葉っぱを取ることで、仕事にしていくというビジョンで。葉っぱを乾燥して粉にして、お茶やお菓子の原料に。ローマ法皇にも献上されました。

 

―グリーンケアにオリーブが適しているということですか。

新井 そうですね。無肥料無農薬栽培ですから何もしないでいい。仕事ができない人間が来るわけだから、仕事をしてもらうという考えが通じない。大地の力で成長を促し、その中で養蜂をやったり、ヤギを飼って動物に働いてもらう。世話をすることを仕事にする。

基本的には、彼らに合わせた仕事を作っていく。この仕事をやってくださいねではなく。問題児を受け入れるところなので、問題児に合わせて仕事を展開する。だから仕事が増えてしまった。

 

―何かをしているはいる。

新井 見守るということです。見守りながら、葉っぱをとったり、皆で草刈りをしたり、ヤギの管理をしたり。今までの資本主義に合わせた仕事はしない。こういう環境でニートとか引きこもりも働ける環境にしていく。働く場所を作ることを目指してはいるが、今までのやり方ではだめ。ここでダメだからと切ってしまうと、彼らはどこも行くところがなくなる。若年性認知症はここでも難しく、こちらがお世話をする一方ですが、働くという意思がある限り、働く現場に置いてあげてあげたい。

 

ソーシャルファーム、株式会社で就労の場づくり

 埼玉福興では、「ソーシャルファーム」(Social Firm=社会的企業)を理念に掲げている。「障害者や、通常の労働市場では仕事の見つかりにくい人たちのために、市場原理に基づく通常のビジネス的手法を基本に、仕事を生み出し、また、支援つき雇用の機会を提供することに重きを置いたビジネス」と定義づける。

               
                                新井氏著書

―ソーシャルファームという考え方は。

新井 僕らは障害者の生活から始まって、その後就労の場づくりを、誰も断らない方針で今まできました。それを株式会社でやっていくのがソーシャルファームだと思います。税金を預かるけれど税金を返す。NPOも制度は使っていますが、株式会社が根幹です。

―社会福祉法人などの組織では何が問題なのですか。

新井 僕らが社会福祉法人から独立したのも、結局自由にならないから。結局、何かやろうと思うと理事長のハンコがなければいけないとか。社会福祉法人では国に顔を向けているようになってしまう。僕らは彼らに顔を向けている。どっちを向くかだと思います。国の下請けみたいにやるのか、半分自由に独自性を持ってチャレンジをみんなの手でやるのかという違いです。

制度が足りないところが多いから、すき間ができて、ニートや引きこもりになったり、あるいは障害者施設を出される障害者がうちにたくさんいます。本当は僕らのところにいるケースは国で見てもらい、何もない安定して生活できている障害者をこっちで受け社会参加させるべきだと思います。

社会的企業の場合、いろいろな企業と一緒に活動し、一緒に調整していけるということもあります。1社でなく何社かでやっています。

 

農業は障害者に適している

―障害者には農業が適していると言えますか。

新井 やはり、こうした箱(建物)の中で人と一緒に仕事をやる方が難しいわけです。人と交流できなくて、みんなといられない。農業は、ノルマはあるがないようなあいまいな部分があります。黄色いカゴを山ほど運ばなければいけないとか、わかりやすいし。どんな重度の障害者でも黄色いカゴは運べる。ネギは作れないけど、ネギの苗だけなら作れるとか。障害があっても社会に必要とされる仕事が農業ならある。

        
       タマネギの収穫                       ネギの苗

―製造業でも単純作業はありますが。

新井 農業は変わらないので、タマネギならタマネギが何十年も続く。こういう仕事を毎日やるということが、ずっと続いてくれれば製造業の方がいいと思いますが、そういう仕事はなくなっている。農業は毎日同じ仕事が続くので障害者だけで回すことまでいける。トラクターも草刈り機も動かす。全部やる。健常者は同じ仕事をするなと言っています。健常者はオリーブオイルを絞る技術を身に着けるとか。彼らの工賃アップはそこでやらないといけません。農業だったら、仕事は変わらない。そしてどんなケースでも吸収できる、グリーンケアであったり、お金が欲しければバリバリ稼げる方法を作ってあげることも。

―農業の方が心を癒す面もあります。

新井 やはり人を育てる。人が育ってくる。製造業では設備や枠の中で仕事しましょうだから、人が育たない感じがする。農業をやってみると精神的な癒しにもなります。

障害者がやれることを仕事にする

―障害者が仕事をしやすくするための工夫はどんなことですか。

新井 基本的には、たとえばネギを全部やらない。苗しか作らない。その代わり他の企業さんと組んでやる。たとえば10のうち障害者が3しかできないなら僕らは3しかやらない。あとの7を企業さんがやる。苗まで育て、あとは資材屋さんが自動まき機を準備してくれて資材を持ってきてくれ営業もやってくれる。うちは人手間と、ハウスだけ。できるところしかやらない。

 

―得意というのは結局単純作業ということでしょうか。

新井 もちろん単純作業です。ただ、今は一つの障害ではなく、精神障害、発達障害、知的障害もいますので、能力が高い子には能力の高い仕事をさせなければいけない。能力の低い子は、たとえば黄色いカゴしか運べないとか、それだけ。仕事が細かくいっぱい分けられるということでしょうか。種蒔く人、土をかぶせる人、水あげる人、穴掘る人、マルチはる人、トラクター動かす人・・・。

―チームで仕事をするのがよいということですね。

新井 基本的には一人では何もできません。だから障害者なのです。しかしチームで組むことでタマネギ60トンとか作るわけです。考え方としては、他の企業さんと組む。障害者向けの仕事を作るということは外部の仲間と仕事をすることで生みます。

 

無肥料無農薬栽培

―無肥料無農薬栽培を採用しているのですか。

新井 水耕栽培もやるし慣行栽培もやるし有機栽培もやるし自然栽培もやります。農業政策がどういう方向に切り換わるかでウエートを変えていけばよいので。ただ、目指すところは自然栽培であり、オリーブは自然栽培です。

―あえて自然栽培をやるのは。収穫量が少ないのでは。

新井 オリーブは実ではなく葉っぱを狙っていますので。自然栽培のオリーブゾーンには天敵(虫)がいない。だから葉っぱが使えます。埼玉の土壌で育てると苦くない葉っぱになります。

 

一本筋の政策がほしい

―障害者就労促進のための制度的課題は何ですか。

新井 基本的には全部そろっていると思いますが、何となくバラバラです。福祉と労働をトータルに考えてほしい。法定雇用率はしっかりと意味があるが、それでだけ考えていると、特例子会社が本当に働きがいのある仕事場を作れているのかということもある。雇用率上限に行き着いたら、どこまで上げるのか。罰金を次の助成金に充てるという考えでいつまでやるのか。特例子会社はいつまで特例なのだろうか。就労継続支援A型事業所制度も制度はすばらしいが、理念に日本人はついていけていない。福祉も労働も、一本筋を通してやってほしい。

―A型事業所は難しい。

新井 岡山で200数十人大量解雇とかの事例が起きています。A型は最低賃金を支払う。ところが基本はみな最賃を払っていなかった。そもそも払えるはずがないのです。障害者に最賃を払うのがどれだけ大変か。

―最賃を下げるという意見もあります。

新井 労働政策でやるなら除外申請をするという仕組みがあります。福祉の方でいけばA型。就労継続支援なので、継続して働ける環境であれば、A型から一般雇用に移る必要はないと思います。持続可能な制度だと思っています。いろいろな制度はある。一本筋でやってくれればよい。

―一貫していないということですか。

新井 労働政策でやるのか、福祉の政策でやるのか。この点を国がしっかりやってくれないと。最賃にとらわれるとほとんど働けないのが現実です。

だから僕らは農業でB型と、グループホームの制度で、きっちり生活保障してあげる。障害者年金と最賃の半分くらい4万5000円で10万をクリアして、グループホームなどの社会制度で生活はしっかりできる。まるまる手渡しで4万円渡してあげることができる。それで誰でも受け入れてあげるという環境ができる。最賃で縛られたら、ほとんど働けません。

 

福祉の中の農業を農業の中の福祉へ切り替え

  

―新井さんはお年は。

新井 43歳です。

―今までで一番のご苦労は。

新井 よく聞かれますが、そんなに大変だったとは思っていなくて。何年か前ですが、どうでもいいやと思ったことはあり、どうでもいいやと思ってから、すごくうまくいくように。結局、一番の問題は障害者ではなく自分の問題だったり、政策だったり。ソーシャルファームでやっていますから、お金も追わなければいけないし、人もしっかり見なければいけない。

―大変なのは事業の運営ということですか。

新井 農業だと暑い、寒い、かわいそうみたいな雰囲気になり、タマネギが半分ロスが出たこともあります。それだとやっている意味もない。国のお金を使って半分捨てるようではやめた方がよいと思って、福祉の中の農業だったものを農業の中の福祉に切り換えた。3年ほどたちます。本気を出して、いやなら辞めろくらい考えないと何も変わらない。暑いだ寒いだかわいそうだと言うなら、自分の給料を分けてやれくらい、そのくらいやらないとやる意味がないと、切り換えて。福祉に染まっていっちゃうダメです。僕らは福祉はあたりまえだから

―障害者の心構えにも問題があるということですか。

新井 障害者は自分なりにみんながんばっています。支える側の人間ががんばらないといけない。みんな暑いから寒いからかわいそうだからとなると、その人の能力をおさえちゃう。本人はがんばりたいのに。

 農業は9~4時で事業所稼働時間が決まっていて、あと30分やればタマネギが終わるのにやめてしまう。そのことの方が彼らによくない。あと30分みんなでやっちゃった方がよい。4時だからと福祉的にやってしまうと、かえってがっかりする。それが福祉の制度であり、考え方。本当はその30分やってあげた方が。みんながんばっているのが一緒に現場にいればわかる。それを福祉で止めちゃう。福祉の制度が邪魔。もう少し柔軟に考えられる制度にしてくれると、最賃にも近づけるようになるでしょう。

 どんな人も可能性があれば受け入れる

―障害者にも個性がありますが、それにどう対処されていますか。

新井 今、能力が高い子は多い。しかしこういう仕事はできないとか飽きちゃうとか。能力の高い人に、箱折りをさせると飽きて他人の家に入り犯罪をおこす。だから、能力に合った仕事を充てる。一方で社会経験が少なくドアの開け閉めができない人もいる。精神は精神で自分勝手、自分都合と考えると、精神障害の理解をしっかりしながら、決めたことを必ずやるとか、そういうことをきちんと本音で言ってあげることが大事です。

―罪を犯した障害者を受け入れているのですか。

新井 医療少年院や刑務所から罪を犯した障害者が来ており、今はチームみたいになっています。ここが受けてあげることで刑務所に入らないで済んだ人もいます。

―どんな人も可能性があれば受け入れるということですね。

新井 書類だけで断らない。会いに行きます。だめでも1回はチャレンジさせてあげないと。やってダメならそれでいいが。それがソーシャルファームです。

―ダメなのはどういう人ですか。

新井 僕らは生活と就労支援をしています。基本は朝起きて仕事へ行って、帰ってくる。そういう普通の生活をしたことがないと、それだけで苦しい。生活とセットなので9~5時だけで済む世界ではない。24時間です。

 今の若い子はがんばらない。反発して向かってくるくらいの元気がない。福祉も新たな人間の世界にいるのかなと思っています。
                       (取材
2018年7月)

    埼玉福興ホームページ http://saitamafukko.com/