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沿線歴史点描⑦
ドラマの舞台になった東上沿線

山下龍男

2009年春から始まるNHK朝の連続テレビドラマ「つばさ」の舞台が川越に決まった。昭和36年の開始以来、80番目の作品だが、埼玉が舞台となるのはこれが初めてとのこと。全国47都道府県でこれまで朝の連ドラの舞台として取り上げられなかった唯一の県が埼玉県だったのだ。 

その晴れの舞台に川越が選ばれたことは、沿線住人の一人としてうれしいが、それにしても埼玉県あるいは東上沿線が映画やドラマの舞台となることはまれであった。過去の例でいえば、まず川口の鋳物工場を舞台とした映画「キューポラのある街」(昭和37年公開)が上げられる。最近では春日部市を舞台とするアニメの「クレヨンしんちゃん」あたりが有名どころか。

我らが東上線沿線で映画やテレビドラマの舞台として取り上げられたのは、来春のNHKドラマ「つばさ」を含め川越が多い。蔵造りの家並みをなど絵になる風景が多いことがその第一の理由であろう。 

映画「鬼畜」

川越を舞台とした映画としてまず挙げられるのは、昭和53年公開の松竹映画「鬼畜」(松本清張原作、野村芳太郎監督)だろう。

川越市内にある小さな印刷屋の主人(緒形拳)は、妻(岩下志麻)に隠れて愛人(小川真由美)を囲い3人の子を産ませた。しかし稼業が左前になり手当ても滞りがちとなり、たまりかねた妾の小川は、緒形の工場兼住宅に乗り込んで、3人の子供を押し付けたまま蒸発。突然、子供を押し付けられた本妻の岩下は逆上し、子供たちを虐待する。気の弱い緒形は、ただおろおろするばかり。   やがて連れ子に対する殺意が芽生えた岩下は、夫をけしかけて3人の子の抹殺を図る。ここから、虐待・子捨て・子殺しというまさにタイトル通りの陰惨なドラマが展開する。

小川と3人の子供が住む妾宅、というのも気が引ける桑畑の真ん中にある粗末な家が男衾にあるという設定で、スクリーンには川越市駅とともに東上線の車内や男衾駅がしばしば登場する。また、ロケの行われた昭和53年は、「川越蔵の会」が設立され町並み保存運動が始まった年で、映画の中にも町並み保存を訴える幕を掲げた民家が背景に登場する。本格的な観光地化が始まる直前の川越がとらえられている点でも貴重である。

さて映画のほうは、岩下の鬼気迫る「怪演」をはじめ、緒形のみごとなまでのダメ親っぷり、開き直った女の怖さをみごとに演じた小川、脇役陣の充実など、円熟期を迎えた野村芳太郎らしい名作といってよい。しかし、あまりにも陰惨なテーマのせいで川越市としてもあまり積極的に応援できなかったのか、撮影協力に東武鉄道の名はあっても川越市の名はクレジットされていない。

監察医・室生亜季子」

「鬼畜」公開の昭和53年以降、川越では蔵造りを生かした街並み整備を進め観光都市へと脱皮した。こうした中で放送されたのが日本テレビ系列の火曜サスペンス劇場の人気ドラマ「監察医・室生亜季子」である。昭和61年から平成19年まで、全37作が放映されたが、これは火曜サスペンス劇場の最多作品であり、主演の浜木綿子にとっても代表作となるものだった。

内容はご存じの方も多かろうが、川越の開業医で監察医を務める浜木綿子扮する室生亜季子が、地元川越警察の刑事である左とん平扮する浜田警部とのコンビで難事件を解決するというもの。

「鬼畜」と同じく犯罪サスペンスではあるが、斜陽気味の城下町から観光地へと活気を取り戻した川越市にふさわしく、陰惨さよりも人情味をたたえたドラマとして、火曜サスペンスの看板シリーズとなった。

ロケは、川越市内の蔵造りの町並みや喜多院、菓子屋横丁といった旧市街の定番スポットはもちろん、川越駅や新市街も使われ、市のイメージアップにも大いに貢献したことであろう。撮影協力に「川越市」がクレジットされていたことはいうまでもない。

 

ドラマに見る東上線カラー

私鉄沿線にはそれぞれのカラーがあり、それは、そこを舞台とするドラマにも色濃く反映される。高級住宅地志向の東急や小田急沿線は、エリート家庭を舞台にしたトレンディドラマ。京成沿線なら昔の東映任侠映画や「男はつらいよ」シリーズが思い浮かぶ。

東上沿線を舞台とするドラマとなると、やはり、地味な庶民派路線になるのだろうか。来春のNHK朝の連ドラも、番組宣伝などを見る限りではこの路線に沿ったものである。たしかに、乙に澄ました有閑マダム(今風にいうならセレブか)など、およそ東上線に似つかわしくはない。

(本記事は「東上沿線物語」第15号(2008年7月)に掲載した記事を2020年4月に再掲載しました)