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障害者に働きがいが感じられる仕事を 
朝日雅也教授に聞く

法定雇用率が引き上げられ、産業界の人手不足も手伝い、障害者の就業は進んでいるように見える。しかし、本来あるべき障害者就労はどのような姿なのか。現状はあるべき姿に向かっているのだろうか。障害者就労問題に詳しい朝日雅也埼玉県立大学教授・副学長にお聞きした。朝日先生は、障害者がその強みを活かし、働きがいを感じられる仕事を選べるよう、就業に多様な選択肢を用意することが重要だと述べる。 

        
朝日雅也
(あさひ・まさや) 埼玉県立大学副学長・教育開発センター長、保健医療福祉学部社会福祉子ども学科教授 1958年生。国際基督教大学卒業、日本社会事業大学院社会福祉学研究科博士前期課程修了。国立職業リハビリテーションセンター、日本障害者雇用促進協会(現高齢・障害・求職者雇用支援機構)等に勤務。1999年から埼玉県立大学保健医療福祉学部講師、同助教授を経て、2007年教授、現在に至る。日本職業リハビリテーション学会会長、埼玉県障害者差別解消支援地域協議会会長、埼玉の障害者雇用を進める関係機関連携推進会議議長、埼玉県発達障害者支援地域協議会委員長、他。

元々障害者職業カウンセラー

―ご専門は。

朝日 障害者福祉や職業リハビリテーション・就労支援を中心に、共生社会の実現に向けた教育研究を展開しております。

―障害者支援の現場の経験もあるのですか。

朝日 元々障害者職業カウンセラーという仕事をしており、この大学開設前は現場で働いていました。現場で一番長かったのは、国立職業リハビリテーションセンター(所沢市)です。大学は開学の3年前から県の設立準備室で準備に携わり、1999年の開学とともに教員になりました。

―埼玉県立大学とはどのような大学ですか。

朝日 保健医療福祉学部一本で、看護、理学療法、作業療法、社会福祉こども、健康開発の各学科があります。

企業と支援機関の連携が必要

―昨年4月から法定雇用率が引き上げられ、障害者の就業環境は改善しているように見えますが、そもそも障害者就労に関してどのような考え方でのぞめばよいのでしょうか。

朝日 法定雇用率は目的ではなく手段、目安に過ぎません。障害者を一緒に働く労働者として、企業・職場が受け入れていくという考え方が大事です。結果として、障害のある方が人口割合と同じくらいの割合で職場に存在しているというのが望ましい姿です。
 その時に、受け入れ企業の対応として、かつては企業の経済活動として障害者を雇用すべき、法定雇用率を満たすべきであるとされましたが、今はいろいろな支援を必要とする障害者の方が増えています。身体障害者が中心の時は、エレベーターをつけたりスロープをつけたりすれば、あとは本人の責任で仕事をできたのですが、今障害者就労支援の現場では精神障害とか発達障害などの人が増え、設備、ハード面の改善だけでなく、雇用管理であったり、障害の特性に応じた合理的配慮の提供が義務づけられています。企業は確かに経済活動として障害者を雇用しなければいけませんが、企業だけで自己完結するのではなく、様々な支援機関と連携をしてみんなで支えていくということが大事だと考えています。

多様な選択肢を用意する

―障害者就労でも企業への就職でなく、いわゆるB型事業所など福祉的な就労についてどう考えたらよいでしょうか。

朝日 就労継続支援B型事業所は、障害者総合支援法にもとづく、いわゆる福祉的就労と呼ばれている分野です。障害者の就労は、その方がどういう働き方をしたいかに応じて、いろいろな選択肢が用意されることが大事です。ただ、一般の雇用であれば最低賃金を下回る金額では雇えず、労働者としての権利が保障されます。B型事業所は福祉サービスの利用なので、最低賃金という考え方自体がなくて、みんなで作業して原材料費とか光熱費を引いて残りが果実として生まれればそれを従事した人に工賃として分配する。同じ働いているのに、前提となる仕組みが違います。
 障害のある人が全部企業で働くべきだとは思いませんが、しかし一方で本来そういう力が発揮できるのに支援者や地域の都合でB型にいなさいというのもおかしい。いろいろな選択肢が用意されるべきで、選択制や流動性を担保していく必要があると思います。
 その意味で、就労継続支援A型は中間に属するところで、福祉支援でもあるが、労働者として処遇もされる。望ましい姿だと思いますが、実際は、たとえば週に数時間しか提供できず、仕事もないので、B型の工賃より上で最賃以上もらえればよしということで、本来の目的と違った方向で展開してきた現実があります。

 大事なのは、職業リハビリテーションのエッセンスになりますが、ILO(国際労働機関)が唱える「ディーセントワーク」(Decent work、働きがいのある人間らしい労働)を提供していくことです。働き方にはいろいろなパターンがあってよいですが、少なくともその人が働くことで得られる尊厳のようなものを確保していく必要があると思います。たとえばB型で工賃は少ないが、働くことで自分の存在価値を見出したり、自己有用感、効力感を感じていくことが大事なのです。

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職業リハビリテーションの考え方

―先生のご専門である、職業リハビリテーションについてご説明いただけますか。

朝日 リハビリテーションには総合性、医学、教育、社会、職業の側面があり、その職業の面からとらえたものです。日本の法制度では、職業訓練、指導、カウンセリングとか狭い意味でとらえられがちですが、障害があって働くことの意義を実感したり、生活全体において働くことがきちんと位置付けられるようにするとなど、福祉的な労働も視野に入れて職業的資産、価値を高めていく、活動の総合体として位置づけられます。
 実際は福祉か雇用、労働かというサービス体系は異なるが、制度の事情であり、障害のある方の働くことをトータルにとらえて、障害のある方が能力を発揮し、社会的にも認知され、重要なライフステージの重要な要素として働くことに総合的な支援をしていくような意味に変わりつつあるところです。

―多様な就業形態を用意することが大切ですね。

朝日 そうです。全員が働くことを望むわけではない。家庭にいるとか、学生であるとか、働きたいと思う人が当たり前のように職場にいる風景が望ましい。そういう意味では、同じ職場で同じ仕事をしていくのが大事ですが、中には福祉的支援が濃厚に必要で企業だけでは受け止められない実態があることも確かです。障害者総合支援法にもとづくA型、B型、あるいは生活介護という事業形態でも、生産的な活動をしている人もいます。そういう人も働く人として認めていくことも大事です。

 

短時間労働の可能性

―もっと短時間労働が認められるとよいという声があります。

朝日 法定雇用制度上は週20時間勤務しないと対象にはなりませんが、中にはそんなには働けないが、一般の職場で週10時間なら働いてみたいという方がいる。雇用率制度にはカウントできないので企業は消極的になるが、このような選択肢を用意することで、月は一般職場、火曜はB型、水曜はお休みのような、状況や希望に沿った選択肢を増やしていくことが大事です。この働き方しかないのでどちらに入りなさい。できないなら働けないとするのではなく、働くことを通した社会参加を実現したいので、いろいろなバリエーションがもっと用意されてよいでしょう。
 東大の先端技術研究所の近藤武夫先生は、1時間労働も許容する超短時間労働で障害者を雇用するしくみの実験をされています。

―それを実現するには。

朝日 制度の見直しが必要です。雇用率制度だけでは漏れてしまう人に対しては福祉政策と融合させるしくみがあるとよいです。

―最低賃金を下げてくれたらもっと採用できるという声が企業にはあると思いますが。

朝日 難しいところですが、雇用の枠組みで障害のある人を雇った場合、最低賃金以上が支払われるべきだと思います。現状でも手続きを踏めば最低賃金の特例適用という制度もありますが、合理的配慮を適用するのはその人が職場で力を発揮してもらうためにであり、最初から力を発揮できないと決めつけないでどうしたらできるかと合理的配慮が適用されるのがあるべき方向です。そういう中で最低賃金を下回るのはどうかなというのが私の考えです。
 しかし、すごく障害の重い人を企業だけで雇い合理的配慮を適用したりできるかということです。賃金補填は難しいが、必要な支援は考慮すべきです。

ソーシャルファームは実践の積み重ねが必要

―ソーシャルファーム(社会的企業)について、どう考えられますか。

朝日 ソーシャルファームは明確な法規定がないので、定義や考え方にばらつきがあります。イタリアとか諸外国の取り組みを踏まえると、利益を追求して、株主でなく参加する人たちにその利益を配分していく。そこで従来の枠組みを超えた働き方を提供していく枠組みです。特に、多様な働き方を提供したり、障害者の他、引きこもりとか高齢者とか単身親世帯のお母さんとか通常の働き方の難しい人たちを結び付ける有効な方法ではあると思います。いろいろな実践を積み上げて、整理していく必要があります。

―実際は経営を成り立たせるのが大変のようです。

朝日 共同労働のようになれば、出資者となり、労働者ではないので、最賃を割っても仕方がないという弱さもあります。そこを雇用関係にすると従来の働き方の枠組みを抜けきれないことになります。社会的利益の探求を目指すということで、理念的には高い志を表明しやすい半面、仕事を確保し、一定の利益を上げ、配分していく点では、努力が求められます。しかしながら、労働者共同組合に関する法制化が進められていますので、労働者としての権利を的確に保障することが担保されれば、今後の展開に期待が寄せられます。 

障害者の強みを活かす

―障害者が就労するのに適した有望分野や職種は何でしょうか。

朝日 障害のある方が働いていく上での有望な分野、職種については、難しい面があって、こういう仕事が向いていると言っても、実際の産業構造でその仕事がなければどうしようもありません。そうなると、現状の労働市場とか産業構造に向き合っていかなければなりません。その際には発想を転換して、障害のある人の強みをどう活かしていけるのかと考えるべきだと思います。従来はこれなら障害のある人でもできそうだという考え方でした。会社や役所で障害者に合った仕事はないかと、仕事を切り出す。しかりコピー取りやシュレッダーがけだけでは、切り出すものがなくなることに。
 そういう仕事も大事ですが、障害があるからこそ強みを活かせる部分は、どんな分野でもあるのではないでしょうか。障害のある人には高度な仕事は難しいと思われがちですが、たとえばITの関連で、非常にこだわりが強いという特性を活かして、商品管理をしてもらうと、たちどころにデータ管理をできる人がいる。従来のやり方から変わっていくことが大事です。職種なり働くチャンスの上で重要な視点になっていくでしょう。 

―どうすれば強みを見出せますか。

朝日 雇用する企業だけでは難しいので、支援する機関と連携して。たとえば2年間訓練をする中で見いだされた特徴があるとします。支援する側が半信半疑でも、ある企業にとっては待っていた能力かもしれません。支援する人も発想の転換をしていくことが、今まで難しかった障害のある人の働く機会を増やすことには重要だと思います。

―強みとなりうるのはどのような能力でしょうか。

朝日 発達障害の方でよく言われるのは、衣料の量販店や、電子部品メーカーでもそうだが、障害のない人ではたくさんある多品種のストックのありかがわからないが、障害があると瞬時にどこが足りないかわかる。それを活用すると、店舗の商品を補充したり、オーダーに従ってピッキングをしたり、想像を超える力を発揮している例を聞きます。
 あるいは、精神障害で昼夜逆転しやすい人がいる。在宅で仕事をするなら、海外との取引などに活用できるという話も聞きます。もちろん、それがご本人にとって、よければですが。課題と片づけるのか、もしかするとこの仕事には強みになるのではと考えるかだと思います。

―農業はどうでしょうか。

朝日 農業が期待されていますが、のんびりできるとか、自然と触れ合えるとか、心身安定によいとか、セラピューテックな観点からある意味で過剰な期待がもたれている部分もあると思います。実際はすごく大変で、朝早く水まきしなければいけないのに、起きられず来なくて困るとか。天候に左右もされます。うまくいっているところは、水耕栽培であるとか工場管理されているところが多い。

人手不足がきっかけになれば

―昨今の人手不足で障害者就業が促進されると考えますか。

朝日 かつて高度経済成長期にはやはり人手不足があり、製造業種を中心に知的障害者などが大量に雇われてきました。ところがその後製造業の海外移転や情報集約化で、障害のある人の採用が難しくなった歴史があります。最近の人手不足をきっかけに、これからは障害のある人の強みに着目をしていけば、今はいろいろな支援機関があり、企業が自己完結で取り組む必要がなくなってきているので、連携をしていけば就業の促進につながる可能性があると思います。