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障害者就業を考える

精神障害者向け就労支援事業アドバンス
 

 富士見市の鶴瀬駅からららぽーと富士見への道路沿いマンションに、障害者就労支援事業所のアドバンスがある。あまり目にしない精神障害者向けの施設だ。運営するNPO法人アドバンスの小川憲司理事長にお話をお聞きした。


富士見市には精神障害者向け施設がなかった

―こちらはどのような施設ですか。

小川 障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)の就労継続支援B型(一般就労が難しい人に雇用機会を提供する)の事業所です。主として精神障害の方にご利用いただいています。

―いつ開かれたのですか。

小川 NPO法人は平成23年8月に設立しました。現在地には昨年4月から移りました。

―どのような経緯で精神障害者向けの事業所を設立されたのですか。

小川 私は元々志木市にある「志木市精神保健福祉をすすめる会」で精神障害者の相談に応じる仕事に従事していました。精神障害の方を対象とした施設は周辺にあまりなく、富士見市にもありませんでした。そのため、富士見市から志木の事業所を利用される方が多く、富士見市にも作れないかとのお話をいただきました。行政の方と力を合わせ、NPOを設立したわけです。

ヤマト運輸の仕事場で働く

―今利用者はどのくらい。

小川 今20名の方が、ご利用されています。

―その人たちは就労しているということですか。

小川 継続して仕事の場として利用される方もいますし、中には一般就労へのステップアップのためにトレーニングをしておられる方もいます。その他、病状の安定、体調の安定のために来られる方もいます。

―仕事は何を。

小川 ヤマト運輸に出向いて、メール便の仕分け作業の仕事をします。施設内ではなく企業で一般のパートやアルバイトと一緒に、彼らと近い仕事をすることで、緊張感なり厳しさなりを経験していただけるし、企業の中で一般の方と同じような力を備えるよう努力できます。

―ヤマト運輸のどこの事業所ですか。

小川 新座市にある物流センターで、志木駅からシャトルバスに乗って通います。

―障害者のための施設ではないのですか。

小川 一般の事業所です。

―一般就労に移る人もいるのですか。

小川 一般就労では1週間に20時間は仕事に取り組める力がないと、雇用保険にも加入できません。週20時間が可能になれば、次のステップに移れますので、そこを1つの目標にしています。なるべく長く働けるようにスケジュールを組んでいきます。

給料はいくら支払われるのですか。

小川 ヤマトさんと事業所で業務委託契約をかわしており、他のパートさんと同じ時給単価をいただいております。

通常の就労支援施設よりは高いですね。

小川 他のパートさんと同じ仕事ですから、そこそこにハードです。

―勤務の短い方もいるわけですね。

小川 少ない人は週1回午前中だけとか、無理のない範囲で働く時間を設けるようにしています。そういう方は、作業に参加しない日は休息日ということで、日課としてこちらで過ごすことになります。

 

施設で時間を過ごすことも訓練に

―こちらに来られる人で、ヤマトに行って働かない人もいるわけですか。

小川 行かない方もいらっしゃいます。仕事を希望されても準備が整っていなかったり、定期的に約束した日に来るのが難しい方は無理です。お金をもらって働く義務は果たせません。それでも6割くらいの方は就労に参加されています。

―就労にいけない方はこちらで訓練をするということですか。

小川 ここに決まった時間に来ていただいて過ごしていただいたり、職員さんや他の利用者さんとコミュニケーションしたりすることがトレーニングになります。最初は、1週間に1回だけ、自宅ではない場所に出かけて、家族以外の方との接点を持つというご利用の仕方もあり、一番短い利用として半日があります。

―病気の種類は。

小川 統合失調症、そううつ病、発達障害、てんかんとか。

―年齢は。

小川 30代、40代が主です。

―こちらを利用する前はどのような生活だった人たちでしょうか。

小川 就職したが続かなくて、何年も自宅にいるとか、病院と自宅しか行き場がないとか、いう方です。

精神障害者支援が遅れているのは偏見と誤解が背景

―精神障害者支援は遅れているといえますか。

小川 100年前までは精神病の患者さんは入院治療中心、隔離収容の対象でした。知的障害の親たちが特別支援学校の卒業後の居場所づくりに運動したのは精神障害者より20年早く始まっており、まだ精神障害者は社会的地位とか受けられるサービスとか、まだ遅れています。

―精神障害支援が遅れた理由は何ですか。

小川 精神疾患に対する偏見と誤解があるからではないでしょうか。以前は、統合失調症の方が多くて、見た目など違和感があるというか、説明がないと、偏見が根付いていったのではないでしょうか。政策としてきちんと広報してこなかったこともあります。

―企業側の偏見はどうですか。

小川 最近はずいぶん認識が変わりました。知的障害者に比べると知的水準が低くもないので、指示通り仕事もでき、扱いやすい。逆に重宝されている面もあります。

精神障害は病気を客観的に見つめることが大事

―精神障害者の支援でご苦労されているのは。

小川 利用者の皆さん一人ひとりと相談に応じながら、病気を落ち着かせ、日々穏やかに生活していただくように取り組んでいますが、ご本人の努力ではどうにもならない複雑な症状の場合、あるいはこれから悪くなる前兆が見えないことが多い、など難しいこともあります。

―精神障害者にとって大事なことは何だと思いますか。

小川 身体障害の場合、送迎してくれる人がいない時や体の障害が悪化した時は施設に来れず自宅で過ごすということではっきりします。しかし精神科の患者さんの場合、調子が悪いから行けないということがよくあるのですが、どう悪いのか、本当に精神的な不調なのか気分が滅入っているのか、行こうと思えば行けるのだがおっくうだからだけなのか、ご本人にも不調の中身を見極めていただくことが大事かなと思います。ですから、私たちも「今日は調子が悪いから休みます」という申し出に安易に応じないで、どんな風に悪いのか、どうすれば悪くならなくてよかったのか、という話をするようにしています。そのように、ご自身の病気について客観的に見つめていける力をぜひ持っていただきたい。ほとんどの方はそれができる力をお持ちだと思います。

―富士見市内で精神障害支援施設はここだけなわけですね。

小川 事業所は1ヵ所だけで選べないので、市民の方は気の毒だなと思います。

―利用できるのは富士見市民だけですか。

小川 原則2市1町の方です。

―利用時間などはどう決めますか。

小川 その方のご病気、生活の様子をお聞きし、利用の仕方、テーマをご相談し、日数、時間も決まってきます。

―既存の障害者就労支援施設にも精神障害者は入所できるのではないですか。

小川 今は法的に身体・知的・精神の3障害どれでも入所は可能なのですが、元々知的障害者対象の授産施設であった施設の場合、精神障害者が積極的にそこを利用するにはなっていない。ただ精神障害に対する認識がきちんとしていれば、知的障害者向けの施設利用もよいことと思います。


 
     

                 マンションの1階にある事業所

                          

                   (取材
2016年4月)